閑話 2年2組 如月ハズレ③
こちらがカッターを見せて相手が激高。
ナイフを取り出した相手に私は抵抗することなく適当な場所を切らせる。
後は流血した状態で職員室へ逃げ込み強制的に刑事問題へ。
私の頭の中ではそんなざっくりした構想があった。
でも――。
「ぅえ……ぐすっ……ごろざないでぇ」
「……ひぐっ……ママあああ!」
「………………」
二人は大号泣。もう一人は放心状態のまま失禁している。
どう見ても私が三人を脅しているだけの構図だ。
おかしい、こんなはずではなかった。
私は思わずハナちゃんに声を掛ける。
「えっ? 刃物は⁇」
「ぐすっ……だ、っだから……持って……ま、ぜん……」
ハナちゃんは泣きながら刃物を持っていないと主張する。
あれ? じゃあ刻むとかって話は何だったの?
「あのぉ、私に何をする気だったか……もう一度ご説明いただけますでしょうか?」
「…………こ、これ……」
ハナちゃんが取り出したのは、バリカンだった。
何度見ても、どの角度から見直しても、それはバリカンだ。
ヘアクリッパーと言ってもいい。
「……はい?」
「これで、髪を……」
あー、なるほど。
刻むって、髪を切るってことね……。
女の子はバリカンなんて馴染みないから分からないかもしれないけど、それは『刻む』じゃなくて、『刈る』って言うんだよ……。
てか、じゃあ私の勘違いか。
そうだよね、中学生の喧嘩に刃物を持ち出すバカなんてそうそう居ないわ。
それにしても、私って相当な狂人だと思われてる?
ちょっとカッターを見せるだけで相手に死を覚悟させるとか……。
なんかショックだわ。
しかし、こうなってしまえば私が悪い。
「あぁ……えっと……あの…………」
もう私もしどろもどろだ。
一人には失禁までさせてしまった。
居た堪れなくてしょうがない。
とりあえず、三人に怖がらせたことを謝ろうとしたその時。
――バリバリバリバリ!
ハナちゃんが自分の頭をバリカンで丸め始めた。
「えぇぇぇぇえええええ⁉ ちょっ! 何してんの⁉」
「こ、これで許してください! お願いします!」
「いや! もういいから! ごめんごめん!」
ハナちゃんを止めようと近づくと、彼女はガタガタ震えながら身を縮める。
それでもハナちゃんは手を止めずに自分の髪を全て刈り取ってしまった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼」
逆にこっちが怖くなる勢いで謝り続けるハナちゃん。
下手に近づくと何をしでかすか分からない。
私は 3人を前に立ち尽くすことしかできなくなっていた。
そして、ハナちゃんが頭を丸め終わると、もう一人も自分の頭を率先して丸め始める。
最後には放心していた子もバリカンに飛びついて坊主頭になった。
「「「如月さん! すみませんでした‼」」」
そして、屋上には三人の髪と私だけが残される。
「………………どうすんだよ、これ……」
大量に散らばった髪を屋上に放置するわけにもいかない私は、可能な限りを回収する。
そして置き場に困ったそれは、丸めて自分のロッカーに隠すことになるのであった……。
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