閑話 2年2組 如月ハズレ①
これは、私が中学生だった頃の話。
「チッ……また靴がねぇ」
学校に登校してみれば、私の上履きが下駄箱から消えている。
何度か経験したことだから驚きはない。
「しゃーねぇな。土足で失礼するか」
ないものは仕方ない。
まさか寒い冬に靴下で廊下を歩く気にもならない私は、そのまま土に汚れた靴のままで校内を歩き始める。
夏は涼しくて上履きなんぞ履かないほうが快適だったんだがな。
「うーっす」
挨拶をして教室に入ってみればあからさまに私から視線を逸らすクラスメイトたち。
これはいつもの事。
そして、自分の席に近づいてみればハサミでグチャグチャに切られた私の上履きがあった。
子供らしいイタズラに思わず笑ってしまう。
「ハハッ……オイオイ、誰だこれやったの?」
「「「……………………」」」
状況を面白がってニヤついてる奴、なにかに怯えて俯いてるやつ。反応はそれぞれだけど、全員が共通して何も言葉を返してこない。
私は適当に隣の席の男子と肩を組んで質問する。
「なぁ、お前隣の席だろ? なんか知ってんな? 言えよ」
「っ……す、すみません…………」
「ちげーよ。謝れって言ってんじゃねぇ。何か知らねぇかって聞いたんだ、な?」
ガタガタ震えるだけで役に立たない。
私が舌打ちをして離れると、そいつは心底安心したように息を吐き出していた。
本当に質問したかっただけなんだがなぁ……。
そんなことを思っていれば、犯人の方から名乗り出てくれた。
「お! 如月〜、いい靴持ってんじゃ〜ん! ……フフッ」
クラスの番長的な女子。名前は何だったろうか……クソガキAとかでいいか。
まあ、よく私に絡んでくるから犯人はコイツだろうと思ってはいたんだ。たぶん予想通りだろう。
クソガキAは楽しそうに近づいてくる。
「寒いのに靴がなくて大変だ……な? ん? おま、お前! なんで靴履いてんだ!」
「テメェが自分で言ったろ。寒いからだよ、バカか?」
「いや、普通は外履きでそのまま上がって来ないだろ!」
さっきから何をバカなことを言ってるんだ?
いや、ガキだから仕方ない。
「上履きがなかったんだから、外履きでそのまま上がるしかねーべ。何言ってんだ?」
「バッ……バカにしやがって!」
何故か逆上して私に掴みかかろうとするクソガキA。
だが、そのタイミングで担任が教室に入ってくる。
「おはよー、ホームルーム始めるぞ〜」
そうして、明らかに異様な空気に包まれるクラスを無視して何事もないかのようにホームルームが始まった。
この担任は問題を見て見ぬふりをしている良い具合のクズだ。まあ、私はコイツ以上のクズと毎日生活してるから今さら思うところはない。
いつもの下らないホームルームを聞いていると、丸められた紙が私に投げつけられる。
私が飛んでくるそれを掴むと、隣の男子は驚愕に目を見開いていた。
たまたま反応できただけなんだが、驚かせたらしい。
紙を開くと、そこには古風な文章が――。
『放課後、一人で屋上に来い』
いったい何年前のヤンキーだよ!
こうして、私の楽しい一日が幕を開ける。
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