第44話 二ヶ月

 そして、撮影会当日まで時は進む。



「あら~! 二人ともようやくいい感じになったじゃない! 最高よ~! その絶望を含んだ笑顔!」


 そりゃあ、本当に絶望してるからなぁ……。

 

 変態コスプレおじさん――神田さんによって、私とエマは最近流行りのアニメキャラと同じ服を着させられている。

 エマがエルフの魔法使いで、私はその弟子らしい。

 ファンクラブ初特典の写真撮影だ。


「つーか、こんな服よく持ってましたね……」

「バカねぇ! 今日の為にアタシが作ったに決まってるでしょ!」


 無駄に高い技術力を見せつけられた。

 これ作ったのお前かよ!


「そ、そーなんすね、流石っす。マジ尊敬です」


 どう反応すれば良いのか分からなくて意味不明な誉め言葉だけ呟く私。

 誰でもいいから早く解放してくれ。


「それじゃ、二人で手を繋いでジャンプしてみましょうか! に~っこり笑ってね!」

「うっす」

「…………」


 ダメだ、エマは完全に感情を失っている。

 早急に終わらせなければ……。


「エマ、 1回で終わらせるぞ」

「…………」


 カクカクと出来の悪い人形のような頷きを返すエマ。

 その動き止めろよ……そのうち首が取れそうで怖い。


「それじゃ、行くわよ~。3……2……1! オラッ飛べ!」


 神田の合図でジャンプする。


 ――パシャッ!


「あら、いいじゃない! 今日はこの辺でいいかしらね」


 満足げに頷く神田を見て私はその場に腰を下ろす。


「終わった~」

「……ん…………」


 エマが私の片腕に巻き付いて体重を預けてくる。

 相当にお疲れのようだ。

 かれこれ2時間近くポーズを取らされていたから仕方あるまい。


「お疲れエマ……頑張ったな」

「…………」


 エマは黙って私に頭を撫でられている。

 エマと出会って実はまだ二ヶ月程度。

 もう長い事一緒にいるような気がする。

 会ったばかりの頃なら頭を撫でたりすれば蹴りが飛んできていただろう。


「ふっ……」


 初めて蹴られたときのことを思い出して一人で笑ってしまった。

 エマは、それに反応することもなく怠そうに私にへばりついている。

 

 考えてもみれば、エマと出会って二ヶ月という事は、VTuberを始めてからもその程度しか経っていないということだ。

 私たちは、いつの間にやらチャンネル登録者を30万人近くにまで伸ばしている。


「なんか、凄いことになったな」

「……ん?」


 私のぼやきにエマが疑問を示す。


『急に何言ってんだコイツ?』


 エマの顔からはそんな考えがありありと伝わってくる。

 相変わらずな妹分だ。


 でも、今はそんないつも通りなエマの調子が心地よい。


「エマ、これからもよろしく」

「…………ん」


 良く分かっていなそうな返事だったけれど、私は満足できた。


「ちょっと~! 二人ともいつまでへたれてるの~? 帰る準備をしてちょうだい! スタジオを借りるのもタダじゃないのよ!」

「うぃーっす!」


 神田の催促で私は立ち上がり、エマの手を引く。


「帰るぞ、エマ」

「……ん」

 

 こうして、今日も一日が過ぎる。

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