第41話 スパルタ①

 コメント欄:

 『うっまwwww』

 『予想外の歌声……』

 『なんか聴き入っちゃったわ』

 『めっちゃ美声www』

 『CD流した?』

 『上手すぎんだろwww』

 『ヒカゲちゃん何者なの?』

 『すまん姉御、もう帰っていいぞ』

 ………………………………


 コメント欄もエマの歌声に困惑している。

 そりゃあそうだ。ずっと一緒にいる私だってこんな展開予想してなかった。

 普段無口なネットメスガキがアヴェ・マリアを熱唱するとか誰が思う?

 

「おい、『帰っていい』とか言うな! これは私のチャンネルだぞ!」


 私も許されるならエマに全部任せてオーディエンスに回りたいわ!

 でもこれ私の配信なんだよ!


 完全にエマにチャンネルを乗っ取られている。

 どうしよう、もう私本当にいらないのでは?


「……お姉ちゃんも、上手くなる」

「嘘つけ! 遺伝子レベルで何かがないとそんな美声出ないわ!」


 どう考えてもカタギの上手さじゃない。

 エマはプロとかに教わっていたはずだ。

 間違っても一般人のカラオケレベルではない。


「私の下手くそな歌配信なんてもう開催できねぇよ! 毎週開催なんて取り止めです! 『極東ミネネアイドル化計画』は本日で完!」

「…………約束」


 珍しくエマに怒られた。

 いや、確かに約束はあるんだけど……。


「だって、どう考えてもエマが一人で歌った方が配信盛り上がるぞ? お前と一緒に歌う私の気持ちも考えてくれよぉ!」

「……上手くなる」


 一体どんな理屈で私が上手くなると仰るんですかこの妹様は……。


 コメント欄:

 『妹相手にみっともねぇよ姉御。漢見せてくれ』

 『漢見せろ姉御』

 『妹の期待に応えてあげて』

 『姉御、頑張ろ?』

 『カッコいい姉御を見せてくれ』

 『なんか知らんけど頑張れ』

 ………………………………

 

「雑に応援するんじゃねぇよ! あと、一応これでも女ってことで生命活動させてもらってるんですわ‼」


 中身はオッサンだけども!


「……大丈夫……教えるから」


 そんな無表情で教えるとか言われても……。

 いつになく押しが強くてエマが怖い。

 

「ちなみにまずは何をすれば?」

「……腹筋と背筋50回」

「思ったよりも現実的でヘヴィーなのが来たな……」

「……身体使えてない」


 歌うための筋肉がないってことなのか?

 真剣にボイストレーニングなんてしたことが無いからわからない。

 エマは「早くやれよ!」という雰囲気を醸し出している。

 

「え? もしかして、今から筋トレするの私?」

「……ん」


 そうして、私は何故か17万人の前で筋トレをすることになった。


「勘弁して……」

「……逃がさない」

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