第39話 乱入

 突如矢崎たちによって提案された『極東ミネネアイドル化計画』。

 元々、エマとの約束もあって、私は歌配信をする予定ではあった。

 だから、この企画自体に反対はしていない。

 

 しかし――。

 

 クソッ、このままじゃダメだな……。


 顔出し配信で歌い続けること30分。

 VTuberにしては珍しい顔出し配信ということで視聴者は残ってくれている。

 でも、この配信を続けていれば間違いなく視聴者は徐々に減っていくだろう。


 今の空気で配信を終わらせたら、後に響く……。

 こういう時は、自分から大胆に切り込むしかねぇ!


「なぁ、私がただ歌ってるだけになってるけど、聴いてる皆は楽しいのか?」


 歌が上手いわけでもない私の歌配信はぶっちゃけつまらない。

 初配信では、下手でもノリとバカみたいなテンションで笑いを取れた。

 でも、あれは 1回こっきりの戦い方だ。

 今はただ下手な歌を聴かせているだけ。見ている側だっていい加減に飽きるだろう。


「ぶっちゃけこの企画、つまんなくね? どうよ?」

 

 未だ緩やかに視聴者が増えているのは、VTuberが顔出しで配信をしている物珍しさだけが理由で、この企画の良し悪しはおそらく関係ない。

 もう次の配信には来ない視聴者が大半だろう。

 こんな企画を毎週実施しても、なんら旨味がないのではなかろうか。


 コメント欄:

 『草』

 『自分でつまんないとか言うなwww』

 『まあ、ぶっちゃけ配信が楽しいかと言われれば微妙』

 『俺は結構楽しい』

 『知ってる曲歌ってくれるのは嬉しい』

 『もうちょい歌が上手けりゃなぁw』

 『普通』

 『正直、姉御の配信だから見てる感はある』

 『可愛いからオッケー』

 ………………………………


 私を気遣ってか極端に配信内容を悪く言うコメントは少ない。

 それでも、いつもならもっと盛り上がりのあるコメント欄が、今日は明らかに静かだ。

 毎日のように視聴者の反応と向き合っている私だからこそ分かる。

 この配信は盛り上がっていない。


 何か手を打ちたい……。


「ふ~……。すまん皆、やっぱこれダメだわ。運営と 1回話す。もうちょい何か別の事を……」


 決断は早い方が良い。

 配信の空気が冷めきってしまう前に、私は今の企画を強引に切り上げてしまう判断を下した。

 

 ところが、まさかの乱入者が現れる。


 ――ガチャッ。


 私の後方、配信室の扉が開かれる音。


「……はっ? 今は配信中……」


 後ろを振り向けば、いつも通りのゴスロリ服を着たエマが居た。

 別の事に頭を使っていたこともあって、私は暫く惚けてしまう。


「…………え?」

 

 そして、停止していた脳が再起動した。


「ちょっ、何してんだお前!」


 私は焦ってエマを押し戻そうとするが、意外にもエマは力を込めて抵抗する。

 

「……ん」


 お約束の返事をして、エマは管制室の方を指差す。

 そこには、バカなテロップを掲げた葛西がいた。


『ドッキリ大成功!』


 お前、そんなキャラじゃないだろ……。


 どーせ、葛西の隣で楽しそうに笑っている矢崎の仕業だ。

 テロップを持つ葛西も困り顔になっている。


 いい加減にアイツを山に埋めてきた方が良いんじゃねぇか?


 しかし、今はそんなことをやっている場合じゃない。

 

「オイオイ! 待て待て待て! まさか、出せってことか⁉」


 私の言葉を肯定するように矢崎が親指を立てる。


 その指、私がへし折ってやろうか⁈


「お前は良いのかよ⁉」

「……ん」


 こっくりと頷くエマ。


「マジかよ……えぇ? ホントに?」


 エマに頷かれてしまっては押し返すことも出来ない。

 私は仕方なくエマを連れてカメラの前に戻った。


 コメント欄:

 『なんだなんだ?w』

 『誰だwwww』

 『ゴスロリ美少女きちゃ!』

 『エマちゃんか?』

 『すげー見た目』

 『いきなりすぎwww』

 『これ放送事故じゃないよな?w』

 『なんか増えた笑』

 『海外の方?』

 ………………………………

 

 さっきまでの静けさが嘘のようにコメント欄が加熱されている。

 全く以て想定外の方法ではあるが、なんとか配信の盛り上がりは取り戻した。


「あー、突然だがゲストを連れて来た……。というか、乱入された」

「……極東ヒカゲ、よろしく」


 第二ラウンドが始まる。

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