第32話 極東ヒカゲ。よろしく④

『ヒカゲちゃん、初めまして! サンプルボイスを聞いて一発でファンになりました! さて、早速質問ですが、ヒカゲちゃんには夜寝るときのルーティーンがあったりしますか? 僕は寝る前に温かい紅茶を飲まないと落ちつきません。ヒカゲちゃんにも、そんなルーティンがあったら聞いてみたいです! よろしくお願いします』


 投稿フォームに寄せられた質問は、そんな丁寧な文章で綴られた至って普通の内容だった。


 ――なのに……。


 コメント欄:

 『え、毎日抱いてる?』

 『エッチなことを考えた者は正直に手を挙げなさい』

 『流石にそういう意味じゃないだろうけど……』

 『てか、二人って一緒に暮らしてるの?』

 『マジの姉妹ってこと?』

 『待てお前ら、全部フォームで質問すればいいんだ』

 『ノ』

 ………………………………


「ヒカゲ、言い方……」

「……もうエマでいい」


 よくねぇよ。


「ヒカゲちゃん? エマって誰かなぁ?」

「…………」

 

 エマからもの凄く面倒臭そうな顔で無言の抗議をされる。

 元はと言えば私が悪いのだけれど、それにしてもロールプレイは守って欲しい。


 いや、ホント、私が言えたことじゃないけど……。


「あーっ……。ヒカゲがよく私に抱き着いて寝てるのは事実だ。はい以上、次」


 コメント欄:

 『雑すぎだろwww』

 『毎日ってことは……』

 『てぇてぇ』

 『てぇてぇ』

 『少なくとも一緒に住んではいるのか?』

 ………………………………


 そんなコメントたちを無視して、私は投稿フォームから適当に次の質問を選ぶのだった。


 

 そうして、次々と質問に答えていくと、私には理解できないメッセージが届いた。

 

「えーっと……。『エマちゃん、ミネネさん、こんにちは』って……エマちゃんて誰ですかね? 送り先間違えてるので次」


 コメント欄:

 『草』

 『待てwww』

 『諦めろ』

 『ちゃんと読め』

 『最後まで読んで』

 ………………………………


「うるせぇなぁ! 分かったよ!」


 コメント欄で大量のクレームが送り付けられたのを見て私は諦めて続きを読む。


「『エマちゃん、ミネネさん、こんにちは』はい、こんにちは。『私はエマちゃんがネコでミネネさんがタチだと思っているんですが、実際のところどうなのでしょうか? よろしければご回答お願いします』 ……………………何言ってんだ?」


 タチ? ネコ? って何?

 

 私が質問の意味を理解できずにいると、珍しくエマから率先して回答があった。

 

「……私がタチ。これ、公式設定」

「なんか、そうらしい。次」


 コメント欄:

 『え?』

 『公式……』

 『意味理解してるか?』

 『どういうこと?』

 『マジでこの配信大丈夫かよ』

 『え、俺も意味がわからんかった。誰か教えて』

 『姉御、汚されちまったな……』

 ………………………………


 コメント欄の反応を見て段々と不安になってくる。


「適当に流したけど、今の質問ってなんかヤバイの?」

「……お姉ちゃんは知らなくていい」


 意味を理解していたらしいエマに確認を取るが、流されてしまった。


 はて、どういうことだろうか?



 そんなこんなで、極東ヒカゲの初配信はあっという間に終わりへと向かう――。


 最終企画は、『愛してるゲーム』。


「これ考えたの誰だよ……」

「………………」


 思わずツッコミを入れてしまう私。

 そして、何故かエマから気まずそうな雰囲気を感じるのだった。




 現在の同時視聴者数 9万人。

 そして、チャンネル登録者―― 6万人。

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