第31話 極東ヒカゲ。よろしく③

 ま、まままま、拙い! エマの名前出しちまったああああああ!


「あ~~~! 腹痛いから今日はこの辺で配信終了ということで~」


 これまでにない程に焦った私の声は変にひっくり返っていた。

 だけど、視聴者たちにはさぞかし面白い展開なのだろう。

 コメント欄は大盛り上がりだ。


 コメント欄:

 『人の初配信を終わらせるな笑』

 『おい逃げるなwww』

 『マジでやらかしたのかwww』

 『ネタじゃないのマジ?』

 『もうちょっと上手く誤魔化せたろ笑』

 『エマちゃんっていうのかぁ。本名も可愛いな』

 『初日で本名バレするVTuber……これ、またニュースになるんじゃ?』

 ………………………………

 

 やっべぇええええええ! これ、どう収拾を付ければいいんだ⁉


 焦り散らかす私の肩に誰かの手が触れる。

 誰の手かは決まっている、エマだ。


 咄嗟にエマの方を見れば、彼女は管制室の方を指差していた。


『エンコ詰めろ』


 そこには物騒なテロップを掲げるにこやかな矢崎が……。


「お前ら助けて! スタッフに殺される!」


 コメント欄:

 『姉御が悪い』

 『擁護できん』

 『死んで来い』

 『骨は拾います』

 『南無阿弥陀仏』

 『エマちゃん、トレンド入りおめでとー!』

 ………………………………


「チックショ~~! なんて薄情な舎弟どもだよ! てか、トレンド入りさせるんじゃねぇ!」


 エマの名前を出してからまだ数分も経っていないのに、もうSNSでトレンドに入ったらしい。

 話題にされたくない事ほど広まるのが早いからネットというのは恐ろしいのだ。


 どうしよう! 大事な妹分の本名がメスガキキャラとして全世界に広まっちまう!

 とんでもないデジタルタトゥーになること間違いなしだよ!

 誰のせい? ぜーんぶ私のせいだよクソが!

 

「……どんまい」


 遂に被害者のエマに慰められる始末だ。

 もうこのままエマにオギャりたい!

 幼児退行して責任能力がなかったことにしたい‼


 そんなことを思っていると、管制室の方で新たなテロップを出される。


『とりあえず、配信はやりきれ』


 なんと恐ろしいことに矢崎からゴーサインが出てしまった。

 このまま続投するらしい。


 そうとなれば、私もいい加減に気持ちを切り替えないといけない。


「え~、スタッフさんから配信を続けるように指示が出たので、初配信を継続します……」


 コメント欄:

 『マジか』

 『極ライブのスタッフ鬼畜だな』

 『マジかよ、運営の判断もすげーなw』

 『この運営にして、このライバーあり』

 『リアルプロフィールの公開でも始める気かよ』

 『ドンドン人増えてるなぁ』

 ………………………………


 しょっぱなからのトラブル。

 前途多難な初配信はまだ続く。


 そして、こんな状況で『極東ヒカゲへの質問タイム』が始まってしまうのだった……。



 



「夜はお姉ちゃんを毎日抱いてる」


 コメント欄:

 『ふぁ?』

 『え?』

 『ん?』

 『おん?』

 ………………………………


 降り注ぐガソリンは留まるところを知らない。

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