第27話 妹分が凄すぎる

 メスガキ化事件を経て、私とエマはコミュニケーションを取れるようになった。


「エマ、使ったティッシュを床に捨てるな」

『無理』


 まあ、だからといって何が変わるわけでもないが……。

 エマは相変わらず怠惰な奴だ。


「せめて脱いだ服は片付けてくれないか?」

『うっざ~♡』


 しかも少し後遺症が残っているらしく、たまにメスガキを発症する。困ったもんだ。

 私も私で、クソな実家に住んでいたときの癖で自然と掃除やら片付けをしてしまう。

 これだからエマがいつまでも自分の事をやらない子になってしまうのだろうか。

 もしかして、両親が屑だったのって私が甘やかしていたことも要因の 1つだったりする?

 こういうのなんて言うんだっけ……ダメ男製造機?

 

「ハァアアア……。ま、いいか」


 

 あれからエマと話して色々分かった。

 彼女は自分の声にコンプレックスがあるらしい。

 エマが喋らない理由の九割はそれだ。ちなみに残り一割はただの怠惰。

 どうにもエマは物事の大半に興味がない。いつもの死んだ魚の目は怠惰故らしい。


 声については、学校かどっかで馬鹿にされてトラウマになったのだろう。

 過去については深入りすまい。聞いたところで過ぎた事は変えられんのだ。


「しっかしなぁ……お前、VTuberデビューすることになっちゃってるんだよな」


 そう、エマのVTuberデビューは着々とプランが進行している。

 予定は把握していないが、サンプルボイスだって近々撮るのだろう。

 

『矢崎殺したらやらなくていい?』

「こらこら、矢崎は私たちの大事なパトロンだぞ。殺しちゃダメ」


 とはいえ、どうしたものだろうか。

 このままではエマがコメント欄で視聴者と戯れるだけのクソ配信になってしまう。

 ある意味では前代未聞だろうけれど、私の時とは違って話題性が皆無だ。


「なぁ、エマ。 1回でいいから私に声を聞かせてくれないか?」

「…………」


 メッセージすら飛んでこない。エマは不機嫌そう顔で抗議してくる。

 だが、今回ばかりは引いてやれない。


「マジな話、私たちは矢崎たちに労働を対価に生かされてる。このままじゃお前、死ぬかもしれねぇぞ?」

「…………」


 声のトーンを落として真剣な話をしていることを暗に伝える。

 しかし、エマは不満気に息を吐き出し、しかめっ面を強調するだけだ。


「私はエマのことを大切な家族だと思ってる。お前を失いたくない」


 我ながら便所のカビみたいなド臭いセリフ。

 両親からこんな事を言われたら即行でゲロをぶちまけて失神する自信がある。


 だが、これはエマに対する本心だ。

 血の繋がりなんて関係なく、私はエマを妹のように思っている。

 可能な限り誠意が伝わるように真面目くさった顔を作ると、エマは唇を尖らせて頬を膨れさせた。


 やっぱりだめかぁ……。

 そんなことを思った時――――。

 


『笑ったらダメ』


 エマからメッセージが届いた。

 思わず返事も忘れてエマを抱きしめてしまう。


「ありがとうエマ!」


 まさか、エマが折れてくれるとは……これまでの献身が実を結んだのだろうか。

 しかし、一抹の不安はある。

 

 これでエマが濁声だったらどうしよう。

 私は全然気にしないけど、VTuberとしてはなぁ……。

 

 そんな私の心配を他所にエマは俯きがちになって言葉を発した。






 ――。

 ――――。

 ――――――――。


「お、ま……その声…………」

 

 確かにエマの声は変わっていた。というよりも、余りにも特徴的過ぎた。

 だが、瞬間的に私はエマがVTuberとして大成することを確信する。

 

「エマ、お前は間違いなく逸材だ」

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