第二章 百合営業するってさ

第23話 あれから一ヶ月

 初配信から一ヶ月。

 あの地獄のような 100時間配信以降、極東ミネネはVTuber界で一定の知名度を得ている。

 今日も配信には多くのファンが押し寄せていた。

 

 初配信の話題が落ち着いた今でも、同時視聴者数は 5千人を超えている。

 チャンネル登録者数も順調に伸ばして、先日18万人へ到達。

 この勢いを上手く乗りこなせば、半年でチャンネル登録者50万人というノルマも優に達成できそうだ。

 次々と個性的なキャラクターが参画してくるこの業界では、油断は禁物だが……。

 

 まあ、それはさておき――――。


「つーわけで、今日の配信はこのあたりでお開きにするわ。いやー、今日も沢山の舎弟が来てくれて嬉しいぜ!」


 コメント欄:

 『もう終わりかー』

 『姉御の話は面白いから時間が過ぎるの早い』

 『まだ終わらないでくれ』

 『楽しかったっす姉御!』

 『今日もお勤めご苦労様でした!』

 『今日も姐さんと話ができて舎弟は幸せでした……』

 ………………………………

 

 ちなみに、ファンの呼び名を考えろとの指令が田村から下り、極東ミネネのファンネームは『舎弟』に決定した。

 私のファンたちは、なんだか従順な舎弟っぽいムーブをする輩が多い。

 個人的にはピッタリなネーミングだと思ったのだが、田村からは微妙な顔をされた。

 あいつは未だに、私に少女らしい可愛らしさみたいなものを期待しているらしい。

 何度も言うが、精神年齢40代のオジサンにギャルっぽいセンスとか期待されても困る。


「うい、お前らも一日お疲れさん。色々と話せて楽しかったぜ! じゃ、またなー!」


 流石に一ヶ月も毎日のように配信をしていると配信者としての基本スキルが上がってくる。

 私は締めの挨拶をしながら手を動かし、配信画面をエンディングシーンへ流れるように変更した。

 

 コメント欄:

 『おつミネ』

 『おつみね』

 『おつミネ!』

 『またなー!おつみね!』

 ………………………………

 

 コメント欄にもいつの間にやら暗黙のルールみたいなものが出来ていて、私が配信を切る直前になると『おつミネ』とかいうワードが流れ始める。

 VTuber界隈ではよくあるらしいが、なんとなく気恥ずかしくて自分で口にする気にはなれなかった。

 私は舎弟たちのコメントを眺めながら配信が完全に切れるのを待つ。

 

「っし! 今日のお勤め完了!」


 独り言ちて、私は軽く伸びをする。


「んあ~! 座りすぎてちょい疲れたわ」

 

 そんなことをしていれば、配信室に入ってきた葛西から声を掛けられる。


「ハズレ、ちょっと話すことがあるから管制室で待ってろ。エマを呼んでくる」


 やっと一仕事終えた人物に対する態度じゃねぇな。

 もうちょっとくらい労って欲しいもんだ。


 にしても、態々エマを呼んでくるあたり、遂にが動き出したらしい。

 


「来月にエマをVTuberとしてデビューさせることが決まった」

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