第22話 反省会③

 確かに、私は『気絶するまで』と言っている。

 クソみたいな録音のおかげで自分が言ったこともしっかり思い出した。

 とはいえ――――。


「ノルマは達成した。登録者14万人だぞ? そ、それでも、私を断罪しようってのか?」


 こんな下らないことで……?

 しかし、問うておいてなんだが、答えを聞くまでもねぇ。コイツらはそのためにこんな時間を設けやがったんだ。

 ふざけやがって! 何が反省会だ!

 

「勘違いしてやいねぇかハズレ? これは断罪じゃあない! ケジメだ!」


 なーにがケジメだ馬鹿が。

 表現の違いでしかない……。だが、どうする?

 私は不意の窮地に立たされて頭が回らない。

 

 何か、打開する方法――――。

 いや、そんなもんない。


 私の両脇には葛西と田村がいる。逃げ道もない。

 どん詰まりだ。


「何しようってんだ……? こっちだって只で死ぬ気はねぇぞクソ爺ィ!」


 女の、それもガキの私の力なんて高が知れてる。殴ったんじゃダメージにならない。

 飛びついて首を嚙み切ってやるか?

 

「オウオウ、すげー目付きしてやがるなハズレ。そりゃオメェ、殺しの面だぜ?」

 

 私は根っから善人じゃない。正真正銘の屑とはいえ、肉親を見捨てるような人間。

 自分が理不尽で殺されるくらいなら、私は相手を先にぶっ殺してやる。

 何が悪い?

 

 死ねよクソ爺。


「ハッハッハ! 全く良い面構えだ! だが、待て。何にもオメェを殺そうって話をするつもりじゃない」


 こっちはいつでも戦争をおっぱじめる準備が整っているというのに、矢崎は痛快そうに笑う。


「いやいや、まさかそんなおっかねぇ顔されるとは思わなかったぜ。見ろ、田村なんかブルッちまってるじゃねぇか! ダッハッハ!」


 言われて田村の方を見れば、奴は額に脂汗を垂れ流している。

 私と目が合うと勢いよく顔を逸らされてしまった。

 なんだコイツ? 人の顔を見て失礼な反応をしやがって、私は美少女だぞ!


 しかし、そんな田村を見て私の怒気は抜けていた。


「ハァ……。んで、結局どういう話なんだ……ですか?」


 私は口調を落ち着けて、再度話し合いの卓に着く。

 予想外の展開に気が動転していた。

 どうも私の内臓に世界旅行をさせる話が始まるわけじゃないらしい。

 

「実際のところ、オメェが気絶するまで粘ってれば期待値はもっと高かった。あれだけ大口叩いたお前がデカい魚を逃しやがったんで、一応反省してもらおうと思ってな」


 言わんとすることは分かる。私がマジでぶっ倒れるまで、あと10時間も追加で粘っていれば、もう少しチャンネルの知名度は伸びていたはずだ。

 矢崎の言い分は理解した。納得はしたくないが……。


 それでも、反論は難しい。

 たしかに、私から『気絶するまで』なんて言い出しのたのだから。

 なるほど、確かにこれは断罪ではなく、ケジメだ。


「手短に、何をさせる気か教えてください……」


 私が覚悟を決めてそう言うと、矢崎は神妙な顔で沙汰を下す。

 

「オウ。……ハズレ、百合営業しろ」


 信じられるか? コイツ、ヤクザなんだぜ?

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