第21話 反省会➁
私が事務所に通されてから暫くすると矢崎の言葉通り葛西と田村がやってくる。
「「お疲れ様です!」」
「オウ、座れ」
「どうもー」
いかめしく二人に座るよう指示を出す矢崎に続いて、私は緩く挨拶を送る。
「テメェは、もう少し緊張感を持てねぇのか?」
葛西は私に抗議するが、今更そんなことを言われても困る。
人間は適応能力に長けているのだ。二週間も居れば慣れる。
なにより実家での生活を思えばここは快適過ぎた。
「無駄に緊張しても疲れるだけじゃないすか。真面目な話をする心の準備はできてるつもりっすよ」
「ハッ、心の準備ができてんなら早速話を始めるぜ」
矢崎も早々に話を進めたいらしい。話の分かる爺で助かる。
矢崎は田村の方を向いて顎先で指示を出す。
それを合図に田村から滔々と初配信についての報告が始まった。
「まず初配信の結果ですが、全員承知している通りノルマは達成できてます。配信を終えて丸一日。今のチャンネル登録者は14万人まで伸びてます。ネットニュースになったことと、切り抜き動画の企画でまだ伸び代がありそうです。SNSを見ても評判は上々、 100時間配信なんてぶっ飛んだ企画をやりぬいたことが評価されてる」
「もっと褒めてくれてもいいですよん」
私は調子に乗って野次を飛ばすがツッコミがない。
いつもなら葛西あたりから苦言があるはずなんだが……。妙に場がしらけている。
不穏な空気を感じていると、矢崎からおかしな指摘をされた。
「確かに数字上のノルマは達成した。よくやったなハズレェ。――だがオメェ、約束を 1つ反故にしやがったな?」
…………?
この爺は遂に脳みそが縮んじまったのか?
ノルマを達成したのにこんな事を言われる云われはない。
こういうのは素直に聞くに限る。
「わかりませんねぇ。何の話です?」
「ハズレよぉ、自分の啖呵を覚えてるか?」
はて、なんだったか……。
あの時は無理やりテンションをぶち上げて勢いで喋っていたから記憶が曖昧だ。
『最低 100時間だ……私が単独で初配信を100時間以上ぶっ通しでやり続ける。もちろん不眠。終わりは私が気絶するまで。100時間経つ前に私が寝たらあらゆる手を使って叩き起こせ。必ずやり遂げてやる……』
どこからかボイスレコードが再生される。
「態々そんなもん録ってたのかよ……」
「言っとくが、今も録ってるぞ」
葛西がポケットからレコーダーを取り出す。
どこまで本気なんだこのアホ共は。
「で、結局何が言いたいんで?」
矢崎は私の言葉にニヤリと笑みを作り一言。
「ハズレ、オメェ気絶する前に配信切っちまったろ」
とんでもねぇ難癖をつけやがった。
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