第19話 私の妹分
目が覚めると、身体にガッシリと何かが巻き付いていた。
犯人を見れば、木にしがみ付くコアラのようになったエマが居る。
「相変わらずの寝相だな」
いったいどれだけの時間寝ていただろうか。
初配信が終わってからの記憶が殆ど無い。
途中話しかけてきた矢崎たちを放って、エマを引き連れて部屋に戻ってしまった。
「本当に、やりきったんだよな?」
なんだか初配信が夢だったような気さえしてくる。
枕元に置かれている携帯でSNSアプリを開いてみれば、トレンドにはまだ極東ミネネの文字があった。
最新投稿一覧:
『アーカイブ長すぎて見終わらないw』
『最後の方、一緒に泣いた』
『ようやく100時間完走した』
………………………………
エゴサしてみれば、沢山の人が自分を見てくれていたんだと実感が沸いてきた。
切り抜き動画も続々と投稿されている。
動画に映っている極東ミネネはひたすら騒ぎまくっていた。
携帯から聞こえてくる自分の声には違和感しかない。
「これ、本当に私なのか?」
総集編動画なる長編動画まで投稿されている。
他にも面白いシーンを漫画風にアレンジしているものが人気なようで3万いいね付いている動画も……。
「私の初配信の告知投稿よりも評価が良いじゃねぇか!」
思わずそんなツッコミもしたくなる。
しかし、デカい声を出してから私に巻き付くコアラ、もといエマが居ることに気づいた。
「………………」
彼女の方を見ると、だいぶ眠た気なエマと目が合う。
「すまん、起こしたか」
「………………ん」
驚いたことにエマから返事が返ってきた。
一言どころか一音だけの小さな返事だけれど。
「おー……。遂に口を利いてくれる気になったか?」
配信中に手を振り返してくれたこともそうだが、ようやく彼女が心を開いてくれた気がして感慨深くなる。
そんな風に思ったんだが――。
「ぐえっ」
グーパンを腹に叩き込まれてしまった。
乙女らしからん声が出ちまったじゃねぇか。
「何すんだテメェ!」
拳骨でもくれてやりたい気持ちになったが、そこは精神年齢40代のオジサン魂で抑え込んだ。
エマはどこか満足げな顔でこちらを見ている。
いったいどういう心境なのだろうか。
ちっとも理解できん。
「とりあえず巻き付くのは止めないか、携帯弄りにくいから」
エマにこんなお願いをすればまた腹パンが飛んでくるかと思いきや、今度は素直に言う事を聞いてくれた。
本当に良く分からない妹分だ。
「まあ、そのうち声を聞かせてくれよ。お前とはちゃんと話をしてみたいから」
「…………ん」
今は、これで満足するとしよう。
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