第17話 極東ミネネが来たぞ!⑤
もう何時間配信しているのか、考えるのが面倒臭い。
いや、丁度コメントがあった。
もう70時間もマイクの前に居るらしい。
頭がおかしくなりそうだ。
とにかく眠い。
「――――あ、スマン、今ちょっと飛んだかも」
気を抜くと瞼が落ちてくる。
コメント欄:
『流石にもう止めてもいいんじゃないか?』
『あと30時間はヤバいって。マジで死ぬぞ』
『なんで未だにテンション上げて話しできてるのか謎』
『頑張れ』
『70時間ずっと何かやってるの凄すぎる』
………………………………
コメントを見るにそれほど意識をやっていたわけじゃない。
ホッとしつつ気合を入れ直す。
事前に、配信ネタはアホみたいに用意していた。
更に、アドリブで長時間雑談配信をしたり、視聴者から勧められたゲームをやったり。
ヤケクソ気味に歌配信までしてやった。下手くそな私の歌は、それはそれで需要があったらしい。
そうやって、脳汁を出して無理やり耐えてきたが、もう体力が底を尽いてる。
いい加減にもう――――。
「いいや! まだ終われねぇ! 終わるわけにはいかねぇ! お前らと話したいことがまだある‼」
一瞬折れそうになる心を無理やり立て直す。
顔を上げれば、私の視線の先には希望に満ちた光が見える。
――チャンネル登録者 8万人。
目標の10万人まで、あと 2万人。
今のペースを考えれば余裕で10万人まで行けるはずだ。
でも、どうせならもっと伸ばしたい。今がチャンスなんだ。
中期目標はチャンネル登録数50万人。
今の波に乗っておかないと、絶対にあとが苦しくなる。
「視聴者数は……5000人か。凄い人数が見てくれてるんだなぁ。今って何時よ……」
コメント欄:
『18時くらい』
『18』
『18時だぞ』
『 6時』
『夜の 6時』
………………………………
「あ~、もう飯の時間だったか。全然腹減らないわ」
私は睡眠欲に支配されている。
そのせいか、脳が食欲という欲求を忘れているのかもしれない。
「ふいー、いかんな。とりあえず飲み物だけ飲むわ」
ペットボトルを取ろうとして、手が滑った。
――バシャッ!
「ぎゃああああああああああああ」
床にペットボトルの中身をぶちまけてしまった。
幸いにも機材は無事だ。
コメント欄:
『飲み物こぼした笑』
『うるせぇwww』
『元気だなぁ』
『キーボード水没した?』
『大丈夫?』
………………………………
「マジで最悪だわ! お茶全部ないなった! アッハッハッハ‼」
しかし、おかげで瞬間的にでも目が覚めた。
「いやー。目が覚めたわ。お前ら、ちょい待ってな、スタッフに雑巾貰うから」
ガラスの向こうに視線を送れば、管制室には矢崎、葛西、田村にエマまで揃っていた。
全く気付かなかったけれど、どうやら私の様子を見ていたらしい。
エマに手を振ると、エマは手を振り返してくれた。
――なんかめっちゃ嬉しい……。
今日一の衝撃だ。
エマを見ていた葛西と田村も大層驚いた顔になっている。
ちなみに矢崎は私に手を振り返していた。
――お前は黙ってみてろクソ爺。
私が中指を立てて返すと矢崎は大爆笑していた。
相変わらず無駄に快活な爺だ。
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