第16話 極東ミネネが来たぞ!④
配信開始から既に40時間。今の時刻は正午。
定期的にデカい声を出すことで意識を保っている。
眠気の波が、一気に押し寄せてくるタイミングが頻繁に出てきた。
まだ頭はクリアだけど、残り半分以上の時間を残して今の状態となると、後半戦が思いやられる。
しかし、私のそんな心配を他所に配信は好調。
現在の視聴者数4000弱。一時期は5000近くまで膨れ上がっていた。
人数は増減するが、二日目は深夜帯でも2000以上はキープしている。
チャンネル登録者は 3万人。指数関数的に爆増している。
正直、笑いが止まらない。
「く、くはははははは! 波が来てるぜえええええええええええ‼」
配信が30時間を超えたあたりからだろうか、唐突にチャンネル登録者数が伸び始めた。
私の 100時間配信という話題作りが遂に現実味を帯びて見え始めたのかもしれない。
配信開始当初、 100時間配信なんて口だけの話題集めだと思っていた人間が、「コイツは本気でやる気なんじゃないか?」と思い始めたらしい。
コメント欄にはチラホラと私を応援する声が散見される。
コメント欄:
『いきなり笑い始めるの怖すぎんだろ』
『極東はイカれてるから……』
『このテンションでもう丸二日近くずっとやってんのか……』
『全部は見れないけど、頑張って欲しい』
『実は、ここまで不眠で付いてきている俺が居る。でも流石に限界』
『寝ても覚めてもまだやってるから面白いwww』
『このままマジで頑張って欲しい』
『あと60時間かぁ、先が長いな』
………………………………
「安心しろお前ら、私はまだまだ平常運転だ」
今は昼食兼雑談タイム。
別に大した企画じゃないが、私は少し前に思いついた遊びを実行する。
「そういえば、お前らにちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ。卵焼きって甘い方が好き?」
コメント欄:
『いや、いきなりで草』
『甘い派』
『出汁派』
『たまにめっちゃ甘い卵焼きあるよね。あれ無理』
『甘くないと違和感ある』
………………………………
「私らで宗教戦争に決着付けようぜ! 今から投票やるわ」
某お菓子はタケノコ派かキノコ派かとか、唐揚げにレモン掛けるか掛けないかとか、私は下らない投票を取りつつ食事をする。
正直、食事中の雑談というのは静かな時間ができて妙に落ち着かなかったのだ。
この遊びは私が静かな間もリスナー内で交流してくれるから場繋ぎに丁度いい。
今後も適宜採用させてもらうとしよう。
それと、もう 1つ。
「投票機能でさ、後日、一番面白い切り抜き動画を決めるトーナメント戦みたいな企画とかやりたいんだけど、どうよ? 優勝動画の製作者には私の直筆サイン色紙とか贈っちゃったり……流石にいらないか?」
切り抜き動画もマンネリ化しつつあるはずだ。
このあたりで、何か新たな火種を投下してやりたいと思っていた。
コメント欄:
『いる!』
『サイン欲しいけど、一位だけ?』
『ええやん』
『それなら本腰入れて動画作るわ』
『景品10人くらいに枠増やさない?』
『面白そう』
『動画全部は見れなくない?』
………………………………
「企画用の動画は別でハッシュタグ用意するから、今から募集開始するわ。期限は私の初配信が終わってから24時間ってことで。具体的な事は今から皆で話し合おうか」
この思い付きが、更なる話題を生むことになる。
配信開始から三日目に突入。
開始から50時間ってとこか……?
おかしなことが起こり始めている。
『極東ミネネの切り抜き動画杯‼ 優勝者には賞金 5万円と極東ミネネのサイン色紙を贈呈! 入賞者にはサイン色紙のみ贈呈となります。』
気づけば、田村が運営する宣伝用SNSで大々的に大会が催されている。
勝手に賞金まで付いた。動画 1つで5万円、安くない金額だ。
「なんかスタッフさんが勝手に賞金まで付けちゃってるわ。お前ら、私が切り抜き動画出すから忖度しろ。優勝賞金は私のポケットマネーにする!」
コメント欄:
『八百長するなw』
『草』
『運営に怒られろ』
『wwww』
『自分のサイン貰って嬉しいのか?』
………………………………
「バカ野郎! 私のチャンネルはまだ収益化通ってないんだぞ? つまり、この 100時間配信は無賃でやっていることになる……‼ 私は金が欲しい!」
実際のところは、金なんて要らない。なんせ私には矢崎のサポートのもと、三食ネット付きの生活が約束されている。
あいにくと金のかかる趣味は持ち合わせていないのだ。今の生活に満足している。
これは只の悪ノリだ。
コメント欄:
『無賃労働 100時間はブラックすぎ笑』
『これ無賃でやってる姉御すげーよ』
『労働基準法違反。通報します』
『流石に無賃は嘘だよな極東?』
『運営、大丈夫か?』
『可哀そう』
………………………………
思ったより真剣に受け止めている人が居そうで危ない。
少し配慮に欠ける発言だっただろうか……。
段々と集中力が切れてきているのかもしれない。
「あー、今のは流石に冗談。私は三食ネット付きの宿まで取ってもらって十分な報酬を得てるので、通報は勘弁ねー」
そんな冷やりとする場面がありつつも、私は順調にVTuberとして認知を広め始めていた。
現在のチャンネル登録者数―――― 4万人。
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