第14話 極東ミネネが来たぞ!➁

 テンションをぶち上げ続けるのも疲れるもんだ。

 配信が始まってから10時間が経過した。


 喋り続けて喉がカラカラだぁ……。


 初めの 1時間は自己紹介とPR活動。

 その後、 2時間近く雑談を交えつつ視聴者からの質問に片っ端から回答していった。

 ある程度の質問に回答したところで、視聴者が飽き始めているのを悟った私は配信内容をガラリと変更。

 そこから 7時間、――ひたすら麻雀をしている。

 

「だっしゃああああ! まさかまさかの海底撈月! ドラも乗ってるぅ!」


 視聴者を呼んで参加型の麻雀配信。

 深夜帯から朝方までの間、私は何度もメンバーを入れ替えて対戦をしていた。

 遅い時間帯なだけあって、麻雀を嗜む年齢層の人間がそこそこ多いらしい。

 メンバーを募集すれば一瞬で三人集まる。


 コメント欄:

 『海底wwww』

 『流石に豪運がすぎるw』

 『良い配信者すぎる!』

 『しっかりと見せ場を作っていく』

 『これで三連続首位じゃん。流石に強すぎる!』

 ………………………………


 全勝というわけにはいかないが、私は平均的に高い順位を取ることができている。

 視聴者たちはゲームのルールを知っている程度で、麻雀における定石というものを知らないようだ。

 お蔭で、ここまでボロ負けするような展開は無かった。

 

 正直 2時間も麻雀をすれば、また視聴者が飽き始めると思っていたのだけれど、何故か人数は増え続けている。

 更に、昨夜寝てしまった視聴者も起き始めて、ちらほらと私の配信に戻って来ているのがコメントで分かった。


 コメント欄:

 『おはよー! マジでずっとやってる⁉』

 『まだやってんのかよw』

 『本気で 100時間を目指しているのか?』

 『そういえば、もう初配信始まって10時間経ったんかw』

 『麻雀面白くて朝まで見続けてた……』

 『どこまで行くのか知らんけど、最後まで付いていくぞ』

 ………………………………

 


 現在の視聴者数は2000人、チャンネル登録者数は 1000人を超えていた。

 何が当たるか分かったものではない……。

 

 しかし、麻雀が視聴者にウケるのもここまでだろう。

 おそらく夜通し麻雀を楽しんでくれた視聴者たちはそろそろ眠りにつく。そして、麻雀配信を見ていなかった視聴者たちが入れ替わりでやってくる。

 要するに、配信内容のニーズが丸っと変わってしまうはずなのだ。


 別のトピックに切り替えるなら今――。

 

「ふい~! ちょっとキリも良いし、休憩というか飯を食ってもいいか? 正直喉も乾いてて、喋るのが大変なんだわ」


 私の言葉を聞いて、配信が一度止まってしまうと解釈した視聴者たちからは残念がるコメントが多数届いていた。

 もちろん、配信を止めるなんて勿体ないことはしない。

 今の良い流れを途切れさせるわけにはいかないのだ。


「ああ、もちろん飯を食べながら配信はするぞ。咀嚼音が入ったらスマン」


 視聴者たちは食事中も私が配信をすると聞いて大盛り上がりだった。

 私はその反応を見て、自分の選択が正しかったことを実感する。

 

 食事を用意してもらおうと待機室の方を見ると、田村だけが残っていた。やはり下っ端のアイツが一番働き者らしい。

 今頃、矢崎と葛西は何処かで優雅に寝ているに違いない。

 

 許せねぇよアイツら……こっちはあと90時間も横になれないって言うのに…………。

 

 そんなことを思いつつ、私は田村へ食事を用意するよう指示を出す。

 私が決まったハンドサインを出したら、配信室に食事を持ち込むことになっている。

 頷いた田村は静かに配信室に入ると弁当とペットボトル数本を置いていった。


「やっと飯にありつける~。ぶっちゃけ二時間くらい前から空腹でヤバかった! あの時間って何で腹減るんだろうな?」


 人が起き始めた今の時間帯は、ラジオ的な感覚で私の話を聞いてもらう配信スタイルの方がウケは良いはず。

 私に合わせてご飯を食べながら配信を見てくれるような人も居るかもしれない。


「皆の朝ごはんは何にするんだ? あ、ちなみに私は焼き鮭と白米」


 そんなくだらない雑談と共に、朝の時間は過ぎてゆく――――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る