第13話 極東ミネネが来たぞ!①

 田村が親指を立てて配信が正常に開始されたことを伝えてくる。

 それを見た私は少しマイクから離れ大きく息を吸った。


 配信ツールで、待機画面から配信画面へシーンを切り替え――。


「お前らあああああああ! 極東ミネネが来たぞ‼」


 馬鹿デカい声で叫んだ。


 コメント欄:

 『うるさwwww』

 『待ってた!』

 『うるせぇよw』

 『来たああああ!』

 『きちゃ!』

 ………………………………


 配信開始直後、現在の同時接続数は1000人。そして、チャンネル登録者 300人。

 ハッキリ言って全然ダメだ、まだまだ数が欲しい。

 今いる全員が登録したって登録者10万人の足元も見えやしない。

 

 それでも、無名事務所からの新人デビューと考えれば良い出だし。

 後は私が何とかするしかない。

 

「っつーことで、私が極東ミネネ様だ! 拍手でお出迎えしやがれ! 今日から私がお前らの姉貴分だ!」


 コメント欄:

 『偉そうでワロタ』

 『姉御キャラきちゃ』

 『初めまして! よろしくお願いします!』

 『可愛い』

 『ミネネ姐さん!』

 『随分可愛い姉御だ』

 ………………………………

 

 沢山のVTuberを見た上で私が出した結論は、大人しいキャラクターよりも破天荒で滅茶苦茶やってるくらいが好かれそうだということ。

 視聴者たちはVTuberにある種の夢を見ている。非現実的な存在を求めていると言っても良い。

 だから、一般常識とは少しずれた人間性を持つキャラクターが魅力的に感じるのだろう。

 もちろん、ガチの犯罪はタブーだが……。


 そんなわけで、私は開幕から頭のネジを吹っ飛ばす。

 

「それじゃあ、先ずはプロフィールから見せるぞ!」


 配信画面にプロフィールを載せた画像が表示される。

 大本は田村が考えていた内容を採用したが、私が適当に追加したものもある。


 名前:極東ミネネ

 誕生日:9月9日

 年齢:永遠の15歳

 身長:156センチ

 体重:そんなものはない

 スリーサイズ:禁則事項(調べたら〇す)

 趣味:博打

 


 コメント欄:

 『〇すってなんだよw』

 『そんなものはないwww』

 『いきなりツッコミどころ多いな』

 『15歳で賭博するな笑』

 『〇す……?』

 ………………………………

 

「誕生日は 9月だ。しっかり覚えて 9月には見ヶ〆料を払えよぉ? 年齢は15から数えてないから15歳だ。身長156、体重なし、スリーサイズは禁則事項。知らなくていいことを詮索する馬鹿が居ないことを願うぜ……。それから、趣味は賭博。麻雀、ポーカー辺りが得意だな」


 麻雀、ポーカーは実際に得意としている。前世での経験が珍しく役に立ちそうで嬉しい限りだ。

 特に麻雀に関しては、ネット対戦で馬鹿みたいにプレイしていた。

 大会に出た経験がないから世間的にどのレベルに居るか分からないが、平均以下という事はないはずだ。


 コメント欄:

 『開始5分でヤバイ奴なのは理解した』

 『見ヶ〆料w』

 『体重なしは人間じゃない』

 『おもしれ―女』

 『喋るまでは可愛かった』

 ………………………………


「おい! 『喋るまでは可愛かった』ってコメントした奴、名前覚えたからな⁉」


 適度にコメントを拾って一方的に話すだけの配信にならないよう心掛ける。

 コメントをすれば読んでもらえるかもしれないと視聴者に思わせることは大切だ。

 ただ配信を見ているだけでは飽きる。

 視聴者たちとコミュニケーションを取ることで、ライブ感が高い配信の雰囲気を作り上げなければならない。

 

 面白いと思ったコメントを定期的に拾い上げていけば、視聴者たちは自分も読んでもらおうと更にコメントを送り始める。

 おかげさまでコメント欄が良いペースで動き始めた。


 さて、いい具合に話が盛り上がった所で、新しい燃料を投下するか。


「おっと、大事な話をし忘れた。今からこの配信のタグを紹介するぞ。あと、ファンアートとか、私宛のメッセージ用タグもな」


 配信タグ: #極東ミネネとカチコミ

 ファンアート: #見ヶ〆アート

 私宛メッセージ: #聞け極東ミネネ

 

「配信タグに関しては、今からガンガンSNSで使ってくれ! 今日は……いや、今日から 100時間も配信が続くから、タグを使って皆の力でトレンド入りを目指そう!」


 配信サイト内でどれだけ頑張っても、話題はそれほど世間に広がらない。

 VTuberとして大成するためには、SNSを制することで新規を取り入れていく必要がある。

 そのために、大切なことを伝えておく必要があった。


「私の初配信に関しては切り抜きと転載OKだ! 面白いと思ったシーンは切り取って好きなだけ拡散してくれ! コラ画像とか作ってくれてもいいぞ」


 私の配信に繋がるための導線を視聴者に協力して貰って、そこら中に張り巡らせる。

 極東ミネネという存在が、少しでも多くの人間の目に留まるよう。


 コメント欄:

 『マジで 100時間やる気なのか?』

 『さっそく今のところを切り抜くわ』

 『切り抜き箇所がしょっぱなから多すぎる』

 『とりあえずチャンネル登録だけ済ませました』

 『極東のタグでトレンド埋めてやろうぜ』

 ………………………………

 

 

 コメントを拾いつつ、自己紹介という名のPR活動をしているだけで、いつの間にやら配信開始から30分以上も経っていた。

 

 ここまでで下準備は完了。

 次のフェーズに移行する。


「さて、そんじゃあ、お前らのネタが尽きるまで好きなだけ質問していいぞ。答えられる限りの質問には全部答えていく!」


 私は視聴者たちと交流を深めていく。



 現在のチャンネル登録者数 500人、同時視聴者数 1200人。

 

 ――――先は長い。

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