第10話 宣伝活動
いくらネタを用意しても火種がないと話題は拡散されない。
そんなわけで、アホみたいな目標を打ち立てた翌日、私はSNSに投稿するボイスレコーディングをしている。
配信前に公開するサンプルボイス的な役割も兼ねているため、レコーディングで手を抜くってわけにはいかない。
「おっすー! お前ら!
「よーし。良いぞ」
テイク20から数えるのをやめた。田村がようやっとOKを出す。
田村からは「腹から声出せ!」だの「もっとギャルっぽく話せ!」だのと良く分からない指摘をされ続けた。
少女らしい可愛さが足りないとか言われたときは何とも言えない気持ちになったもんだ。
だって、心は中年のオジサンだもん。少女らしさとか普通に無いが?
そもそも極ライブってなんだよ! 極道から取ってんのか?
安直すぎるだろ。
「クソが……」
「お、お前なぁ……口の利き方に気を付けろよ?」
やべっ、声に出てた。
田村は覇気がないから葛西や矢崎と違って素で舐めた口を利いてしまう……。
「いやいや失敬、つい本音が。……そんな事より、正直驚いたっすよ。まさかフォロワー 1万人の宣伝アカウントを持っているなんて」
田村は目元をヒクヒクと痙攣させながら苛立たし気にしているが、それ以上抗議してくることはない。
私に関しては既に色々と諦められているのだろう。
短く溜息を吐くと、田村は私が振った話題に応じた。
「はぁ…………。こっちも遊びで配信業に手を出したわけじゃない。客引きには力を入れてる。興味を引くキャラクターを考えるにも苦心したんだ。褒めてくれても良いぞ」
そんな田村の言葉を聞いて、私は手元にある携帯画面へ目を移す。
そこには、私が演じるVTuberのプロフィールが表示されている。
極東ミネネ、これが私のVTuberとしての名前となるらしい。
派手な振袖に身を包む赤毛のギャル。
身長は156センチ。体重とスリーサイズは秘密。
『賭場に舞い降りた天才博徒。天性のツキか、驚異的な手練手管か、彼女はあらゆる賭博で負け知らず。その素性は謎に包まれているが、実は裏社会を牛耳る
キャラクター設定も悪くないと思うし――――ん?
「え、これ、田村さんが考えたの?」
「ああ、そうだぞ。キャラクター設定だのは全部俺だ。立ち絵とかは流石に外部発注だけどな。宣伝アカウントの運営も俺一人でやってる。ここまでかなり苦労したんもんだ」
今まで馬鹿にしてごめんな。
お前が一番しっかりしてるよ。
これからはもっと、優しくするからな……。
私が慈しみの精神で彼に笑みを送ると、田村は心底嫌そうな顔になりやがった。
やっぱ田村はダメだな。
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