第11話 初配信前夜

 宣伝用ボイスを投稿してから一日。

 ある程度効果は見込めるだろうと思っていた通り、100時間ぶっ通しの初配信というのはそれなりに世間の興味を引けたらしい。

 投稿には面白いくらいリプライが届いていた。


 リプライ欄:

 『めっちゃ良い声!』

 『可愛い子だと思ってボイス聞いてみたら、ヤバい宣伝始まったんだけど笑』

 『マジでこんな声の子が 100時間も配信するん? まだ子供じゃね?』

 『可愛い! できるとこまで頑張って欲しい』

 『健康を害するレベルだからこういうのは止めた方が良い。これを許可する運営はヤバイ』

 『女の子に 100時間配信させる運営ヤバイでしょ。体力的に無理だよ』

 『良い声してる。立ち絵のイメージ通りで安心した』

 『危ないとか騒いでる奴いるけど、本当に 100時間やるわけねぇだろwww』

 『そもそも 100時間も何するんですかねぇ』


 リプライ欄では群がった人間同士が勝手に議論まで始めている。

  100時間配信が現実的に可能かどうかとか、運営に対する批判や擁護、内容は様々だ。

 荒れていると言えばネガティブなイメージを持たれるだろうが、今はなんだろうと話題になればいい。

 現在の宣伝投稿に対するリポスト数は 2千、良いねが 1万。

 本音を言えば、もう少しリポストを稼ぎたかったところだが贅沢は言えない。これでも十分成功と言えるはずだ。

 田村がSNSアカウントを上手く立ち上げてくれていたのが大きいだろう。

 真面目に礼を言わなければならない。

 

 大手VTuber事務所からデビューする新人達と比べられれば話題性に欠けるかもしれないが、それでも火種としては合格点。

 いったい何人が見に来るか分からないけど、流石に視聴者 0人という最悪の事態には陥らないはずだ。


 ――決戦の時は近い。


 初配信の日時も既に決まっている。

 明日、午後 8時から開始。終了時間は未定。

 所謂、ゴールデンタイムと呼ばれる時間帯からの開始予定。

 そして、もう 1つ。

 今は三月の下旬。世の学生たちが暇を持て余すの時期だ。

 

 私が 100時間配信なんて無茶を提案したのも、この時期だからというのが大きい。

 今ならどんな時間帯でも配信に来てくれる人間の割合が上がっている。

 長時間配信をするには打って付けだ。

 

 市場調査を重ね、戦略を練り、奇策を打ち立てた。

 あとは、本番に挑むのみ。

 

「遠くに来た気分だな」


 つい二週間前に卒業式から帰ったところで、葛西と田村に家を襲撃された。

 もう既に、あの日のことが懐かしい。

 

 何やかんやと流されるようにここまで来てしまった。

 私は明日、VTuberになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る