第9話 イカれた目標➁
半年で50万人の登録者。
前代未聞とはいかないかもしれないが、宝くじを当てる確率みたいな話だ。
「そのくらい跳ねたらスポンサーも付いて、諸々の利益込みで年間数千万の金は入るでしょうね」
「洗う必要のない綺麗な金でそれだけ利益が上がればテメェのいうコマの長期運用ってのは魅力的になる」
私が提案したんだけど、改めて矢崎の口から言われてみれば酷い言葉だ。
もうこれ奴隷の扱いじゃんね。
まあ、三食ネット付きの住居を提供して貰ってるから文句はあまり言えないけど……。
さて、今の生活を守るためにも自分のやる気をアピールしておくとするか。
「それにしても、半年でデカい成果を目指すなら初配信の目標が低すぎるっすよ。最低でも登録者10万にしましょう」
「「ハァ?」」
二人とも、自ら目標値を10倍まで引き上げた私に大層驚いた様子だ。完全に馬鹿を見る目をしている。失礼極まりない。
でも、これは中期目標を目指す上で必要な数字に他ならない。
初配信で登録者 1万程度なら、半年後にはかなり多く見積もって10万に届くかどうかだろう。
「VTuberなんて山の数ほど競合がいる戦場で登録者 1万なんて注目株に入れるはずもない。一度停滞したら半年掛けても大した成長は見込めない。やるなら初動でインフルエンサーとしての地位を確立する。この際、根強いファンである必要もねぇ。今欲しいのは話題を広げてくれるだけの数だ」
意図的に口調を荒げていく。
低姿勢じゃダメだ。これは私の戦い。
私が先頭に立って戦線を開くのに、弱気でどうする。
アドレナリンをドバドバ出し続けろ! 私はもうとっくに命懸けの戦場に立っている!
「口で言うのは簡単だがテメェ、算段はあるのか? こっちだってそれなりに考えて提示してる数字だぞ?」
これから言おうとしている蛮行とも言える策を聞いた二人がどんな顔になるのか……。
想像してついついニヤケ面になる。
実際のところ、確実な勝算があるとはいかないだろう。
それでも、今は自信たっぷりに言いのけてやる。
「最低 100時間だ……私が単独で初配信を100時間以上ぶっ通しでやり続ける。もちろん不眠。終わりは私が気絶するまで。100時間経つ前に私が寝たらあらゆる手を使って叩き起こせ。必ずやり遂げてやる……」
我ながら頭がおかしい提案。もはや口にしていて面白くなってくる。
勝手に口角が上がってニヤニヤと気持ち悪い笑みになっていることが自分でも分かった。
自分の生死をVTuber活動に左右させるなんてイカれ狂った状況。私自身もまともじゃいられない。
毒を食らわば皿までだ。この際どこまでも突き抜けて狂い通してやる。
そんな心境の私を知ってか、葛西は嫌悪感丸出しの顔でこちらを見てきやがる。
矢崎は私と同じで気持ち悪いニヤケ面だ。
「良いじゃねぇかハズレ……気に入ったぞ。目標を登録者10万人に修正だ。死ぬ気でやれ」
――――これが、伝説の始まりとなった。
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