第4話 一触即発

 これまでの人生、前世を含めたってVTuberになろうだなんて考えたことは一度たりともない。

 ぶっちゃけ、興味も無かった。それでもやらねばならない。

 なんせ自分の命が懸かっている。


 覚悟を決めるんだ如月ハズレ。

 今はとにかく我武者羅に動くしかない!


「あの、初配信はいつやるか決まってるんすか?」

「いや、まだ調整中だ。まあ、二週間は余裕あるんじゃねぇかな」

「二週間ですか……」


 良かった。明日とか言われたら死ぬところだった。

 市場調査しないでいきなり配信業なんかできるわけない。

 初配信までに死ぬ気で世のVTuberたちがどんな活動をしてるのかインプットしなきゃならん。


 ――しかし、問題がある……。


「あのぉ、携帯とかPCを使わせてもらえませんかね?」


 そう、私は携帯もPCも持っていない。

 つまり、ネットに接続できる端末を入手する必要がある。


「ダメだ。外部と連絡を取られる可能性がある。言っとくが家にも帰さねぇぞ?」


 まあそうだろう。

 これであっさり端末を受け取れたらポンコツが過ぎる。

 とはいえ、初配信の成功はコイツらにとっても望まれるもの。

 ならば、今は手を取り合うしかない!


「じゃあ、貸してもらえなくていいんで隣で見せてもらえます? VTuberの配信を勉強しときたいんですよ」

「おいおい、こっちだって暇じゃねぇんだぞクソガキ。あんま舐めたこと抜かしってっと怪我するぞ」


 スキンヘッドのオッサンが威嚇するように顔を近づけてくる。

 

 なんだこの野郎?

 テンプレートみたいな脅し文句使いやがって。

 こっちもケツに火が点いてる。もう眼飛ばされる程度じゃビビッてやらんぞ。


「そっちと違って私は命張ってるんですよねぇ。だから、簡単には引けねぇよ? それにアンタも自分で言ったろ、この仕事をコカすわけにいかねぇ。こっちも本気だぞ?」


 こちとら15年間もクズ二人と共同生活してたんだ。

 オッサンに顔を近づけられても加齢臭をテイスティングする余裕ぐらいある。

 こっちだって精神年齢40過ぎた中身オッサンだぞ。見た目で舐めんなよ?


 ハゲ頭は私の返答が予想外だったのか眉を潜めて黙りこくる。

 しばらく私の顔を見ながら考え込むと、溜息を吐いてから喋り出した。


「わかった……。オイ! エマを呼んで来い!」

「は……、えっ?」

「おい……聞こえなかったか?」

「ス、スンマセン! 今すぐ行きます!」


 ハゲの命令でもう一人のオッサンが困惑している。

 

 ――いや、私を見てビビってる……?


 冷静になれば、この状況でヤクザに啖呵を切る15歳少女なんて奇天烈な生物をお目にかかる機会は少ないだろう。

 私という存在の得体の知れなさに本能的に恐怖したか?

 ただのTS転生したオジサンなんだけどな。


 命令された方のオッサンは、ハゲと私を交互に見て逃げるように部屋を出て行った。

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