第3話 これが私の仕事部屋

「よしよし、話は決まりだな。オイッ! こいつをタコ部屋に連れてけ!」

「「ヘイ!」」


 両脇に立つオッサン二人が再び私を引っ掴んで部屋から連れ出そうとする。

 この状況をまだ何も理解できていない私はされるがままに引きずられてしまう。

 

「ちょっ、ちょっと待って! まだ何も分かってない! タコ部屋って何だああああああ!」


 連行される私を見る爺はどこか楽し気だ。

 爺は最後にこう言って話を締めた。


「言い忘れてたが、俺の名前は矢崎やざき ごうだ。これから、


 

 連行された先は、どう見てもレコーディングスタジオだった。

 いや、VTuberという言葉を聞くに、配信部屋なのだろうか?

 コイツら、配信室のことタコ部屋って呼んでんの? 物騒すぎだろ。

 

「す、すごい部屋ですね。とても金に困ってそうには見えませんけど?」

 

 咄嗟に出たのは純粋な疑問だ。

 これだけの機材と環境を整えられるのなら、とても金がないとは言えないはず……。

 

「ああ、VTuberってのは、やたら金がかかってな。この部屋と配信機材、それからガワを用意するのでだいぶ金を使い込んじまった。そのせいで組の資金が枯渇寸前でよ。それで、大金貸してるテメェの親から搾り取ろうってことになったのよ」


 え、え?

 私たち一家って、VTuber活動の資金繰りの為に命狙われてるの?

 ガチで言ってる?


 いや、もう深く考えるな私。

 どうせ理解不能だ。こんなクソみたいな状況を真面目に分析しても何の意味もない。


「そ、そぉっすかぁ……。そんな金掛かってるプロジェクトに関われて光栄っす……」

「おう、だから、もしこれがコケちまったら……分かるよな?」


 分かりたくねぇよバァーカ!

 こいつマジで何言ってやがんだ?


「もももも、もろちんっす! 絶対に成功させますよ!」


 私の口は脳裏の思考とは全く関係なく、勝手に調子の良いセリフを吐き出し続ける。

 もはや身体と脳みそが別の生き物と化していた。


「と、ところで、VTuberっていうのは?」

「なんだ、最近の若い奴の間じゃ人気なはずだろ? 配信サイトで見たことねぇのかよ。2Dとか3Dのキャラがゲームしたり雑談する例のブツだ」


 私が知ってるVTuberと、お前らが言うVTuberが同一の存在か確認したいんだよ。

 極道がマジでVTuber活動しようとしてるとか、誰が思う?

 あと、例のブツってなんだ。違法薬物みたいな表現をするな。

 もうツッコミが追いつかないんだよ!


「ああ、知ってますけど……。でも、なんでVTuber?」

「知らねぇのか? あれはな、金の成る木だ。初期投資は掛かるが、あとはコマを使い倒すだけで大金が入る」


 言い方悪すぎんだろ。VTuberのイメージ最悪だわ。

 

 でも、信じ難い事態だが状況は把握できた。

 どうやら、私はこの部屋で、マジでVTuberとして働くらしい。

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