第111話 縛りプレイしつつ脱出
ドア越しに待ち構えている警備兵にシャドウ・エントリで奇襲した。
ドアを開けずに警備兵の背後に現れてから殴り飛ばす。
「ぐぇっ!」
「うぐぉっ!」
警備兵二人が壁に叩きつけられて気絶した。
ここからは武器なしに加えて殺さず縛りをしようと思う。
いつかのデマセーカ家と違ってこっちはまだ救いようがあるはずだ。
次男のゼルカールが何か企んでいるとしても、インバーナム家には長男のレークスがいる。
こいつの人柄はわからないがゼルカールを殺すことになってもこいつが当主になればいい。
それに一応シェムナの兄だからな。
「レークス、お前の武器はあるか?」
「ここにある。この愛剣『シェムナ・ザ・クイーン』があれば私は誰にも負けない」
「あ?」
オレの聞き間違いか? 今とんでもない固有名詞を口走らなかったか?
人の耳なんて当てにならない。深く考えるのはやめよう。
「いたぞ! 賊だ!」
「レークス様!?」
新たに警備兵が駆け付けてきた。
さっきからレークスの姿を見て驚いているな。
たぶんこいつらは何も聞かされていないんだろう。
レークスに呪いをかけたのはたぶん黒衣の魔術師だ。
オレが思っている通りの奴なら、レークスを殺さなかったのも頷ける。
個人的にこいつと戦ってみたいから先が楽しみだな。
「私はこの通り生きている! ゼルカールはどこだッ!」
「ど、どういうことだ? 話が違う……」
「今の当主はゼルカール様だ! だったら従うまでよ!」
迷いのない奴がいるな。
田舎貴族の警備をやらせるには惜しい。
なんてモブを褒めている場合じゃないな。
「レークス、強行突破するぞ。一応殺さないでおいてやるが、お前は好きにしたらいい」
「見くびるなよ。このシェムナ・ザ・クイーンをもってすれば容易く突破できる」
やっぱりオレも知らず知らずのうちに疲れているのか。
レークスが剣を振るって警備兵達に突撃した。
「貴様らごときに私が止められるかっ!」
「ぐあぁぁ!」
「ヅッ……」
レークスが回転しながら剣を振るうと警備兵達が斬り裂かれて吹っ飛ぶ。
この狭い廊下を器用に動いて空中縦回転やスピンと華麗に舞う。
あの四回転斬りはフィギュアスケートの技に似ていた。
「裏口から出るぞ!」
「わかった」
オレとレークスは警備兵を蹴散らしながら館内を進む。
このレークス、かなりの実力者だ。
魔力での部分強化が行き届いていて、体にまったく負担がかかっていない。
こいつもこっち側の人間だったか。
そしてこいつの強さはそれだけじゃない。
警備兵の傷口が凍り付き、或いは熱を帯びて火傷をしていた。
レークスはいわゆる魔法剣士だ。
剣に属性魔法を付与することで斬れ味に付加価値をつけている。
普通に斬るよりも格段に相手にダメージを与えるだけじゃなく、付与効果によって動きをより封じ込めていた。
斬り傷に加えて凍傷や火傷を負えば無事じゃ済まない。
「ところでアルスとかいったな。武器を持っていないようだが?」
「問題ない」
向かってきた警備兵に魔力を込めて拳を放った。
一人を壁に叩きつけて、もう一人は蹴りを腹を突く。
「ダークニードル」
更に前方の複数人の警備兵の肩や足を撃ち抜く。
警備兵が一撃でバッタバタと倒れて戦闘不能になる様を見たレークスが隣で息をのむ。
「……強い。なんという精度だ。一体何者だ?」
「それよりそろそろ裏口か?」
「あそこだ」
倒れた警備兵を飛び越えて、オレ達は裏口から出た。
裏庭を駆け抜けて壁を飛び越えると、左右から更に警備兵が迫る。
「一体何人雇ってるんだよ」
「ゼルカールが至るところから集めてきたようだ。魔力強化もしっかりと行っていて、それなりの連中のはずなんだがな」
確かに悪くはない奴らだが、魔力強化一年生みたいなのが目立つ。
それでも数さえ揃えてしまえば立派な戦力だからな。
とはいえ、オレは少々退屈していた。
正直に言ってもう少し楽しめると思ったんだけどな。
武器なしな上に殺さずという縛りがあるのに、まるで手応えがない。
レークスが言うそれなりの連中ってのはこの程度か?
「つ、強すぎる! 手に負えないぞ!」
「お前らじゃうちの警備兵一人にすら勝てないだろうな。ちょっとプロ意識が低いんじゃないか?」
「くっ……!」
「ゼルカールはどこに行ったんだよ。それだけ吐けよ」
「知るか!」
やぶれかぶれで向かってきた警備兵に強力なボディーブローを入れた。
更に両手を組んで警備兵の頭に振り下ろす。
「がッ……」
「まぁ給料とか安そうだもんな」
警備兵がまた倒れたところで、他の連中が怖気づいている。
「武器なし相手に数を揃えておきながらこれかよ。お前らじゃ話にならんからゼルカールでも何でも呼んでこい」
「し、知らない。俺達は何も聞かされていない」
「あっそ。ブラインド&カース」
期待できる答えを持っていなさそうだな。
複数人を暗闇にしつつカースで無力化させた。
どさりと倒れて悶える警備兵を越えて、オレは町の外へ走る。
「さっきからお前が使っているのは闇魔法か……敵に回したくないな……」
「そう思うなら知ってることを後で喋ってもらうぞ」
「どこへ向かっている?」
オレ達はクリーゼルの町を駆け抜けて門を出た。
警備の奴らはほぼ無力化したから追ってくる様子はない。
本当に情けない連中だ。
オレ達はというと予め落ち合う場所を決めていた。
オレがインバーナム家の館に潜入することは教えてあるからな。
成功するにしても失敗するにしても、すみやかに離脱できる態勢は整えてある。
クリーゼルの町から東にいったところに使われていない砦跡地がある。
もしかしたらならず者の住処になっているかもしれないが、あいつらなら余裕で蹴散らせるはずだ。
「お前は何者だ? なぜ私のことを知っている?」
「オレはアルフィス、お前の妹の同級生だ」
「シェムナの同級生だと!? シェムナは元気か! 元気なのか!」
「……お前、シェムナを痛めつけていたって聞いたんだが? そんなに心配か?」
「私が! 誰をッ!」
なんか話がかみ合わないな。
それよりやけに鼻息が荒いんだが大丈夫か?
なんだかオレはとても嫌な予感がしている。
まともな奴であってほしいんだが。
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