第110話 結局侵入することにした
どうにもわからんことだらけないので、オレは思い切ってインバーナム家の屋敷に潜入することにした。
ルーシェル達は万が一のことを考えて別の場所で待機してもらっている。
深夜、屋敷の塀の前に立って門の前にいる見張りの男らしき影を確認した。
(シャドウ・エントリ)
オレは夜の闇に紛れて塀を越えた。
シャドウ・エントリは暗闇が広がる夜なら影に関係なく移動できる。
ただし移動距離はそう長くないから一度は地上に出ないといけない。
庭に出て周囲を確認すると、見回りらしき男が歩いていた。
思ったより警備が厳しいな。
シェムナの話では屋敷内にはそんなに警備はいなかった。
次男のゼルカールが当主になってからはこういうところに税金が使われてそうだ。
まぁ何に使おうが知ったことじゃないが。
再びシャドウ・エントリで屋敷の壁を越えて潜入した。
シェムナのおかげで長男、次男の部屋の場所はわかっている。
ゲームだと屋敷はあっても中に入れなかったからな。
まずは次男の部屋を目指そう。
寝ていると助かるが、もし黒ならそんな簡単なところに証拠のものは置かないだろう。
と、オレが部屋の角を曲がろうとしたところで危うく見回りに見つかるところだった。
(屋敷の中まで厳重かよ)
これはゼルカールの性格によるものか、それとも別の理由があるのか。
シャドウ・エントリで回避してやり過ごした後、次男の部屋に辿りつく。
中は真っ暗で誰もいなかった。
(こんな夜中に外出か?)
疑問に思いつつもオレは部屋の中を漁った。
だけどめぼしいものは見当たらず、時間だけが消費されていく。
あまり物音を立てると見つかる可能性があるので、さっさと切り上げて次は父親のブルッセルの部屋に行った。
こちらも目ぼしいものは見つからず、オレは焦りを覚える。
ここまで何も見つからないとなると隠し部屋がある可能性があった。
それとも黒ではなく白か。もしそうなら完全な徒労だ。
(最後は長男か。いてくれるといいがな)
残る長男レークスの部屋を目指す。
シェムナの話では次男のゼルカールよりも苛烈な虐待をしていた男だ。
シェムナが魔力不全と知りながら容赦なく痛めつけてきたという。
(話通りの男なら少しお灸をすえたくなるな)
そう思いつつレークスの部屋に侵入すると異様な気配に気づく。
ベッドのシーツが盛り上がっているところを見ると長男は確かに寝ている。
この感じはなんだ? オレは寝ている長男に近づいた。
「う、うぅ……」
呻くレークスの体中に鎖が巻き付いていた。
さすがのオレも息をのむ。しかもこれは物理的な鎖じゃない。
いわば呪いだ。
オレのカースと種類が違う。
これはもっと周到に用意された強力な呪術の類だ。
オレは混乱しつつもどうするか冷静に考えた。
こいつは何者かによって呪術を施されている。
おそらくブルッセルかゼルカールのどちらかだろう。
もしくは両方か。
どちらに非があるのかは知らないが、こいつを助ける必要がある。
シェムナが言うようなクソ野郎だったとしてもこいつは情報を持っているからな。
(……仕方ない。カース)
オレはレークスにかなりの魔力を込めてカースをかけた。
闇の鎖にオレの闇の魔力が激しくまとわりつく。
闇の魔力が巡るうちに鎖がそれと少しずつ一体化して吸収されていった。
(毒を持って毒を制す。この程度の呪いなら中和できる)
呪術に対してオレはより強力な呪いをかけた。
呪いと一言で言ってもそれぞれ性質が異なる。
いわば他人同士なので、呪いに対して違う呪いが入ってくれば反発することがあった。
そしてより強力なオレの呪いが打ち勝って元の呪いは消えていく。
呪いを呪ったといえばわかりやすいか。
闇の領分でオレを出し抜けると思ったら大間違いだ。
「う……か、体が急に……」
鎖とオレの闇の魔力が完全に消失して長男の表情が和らぐ。
タオルで脂汗をぬぐってやるとオレの存在に気づいた。
大声を出される前に口元に指を当ててシィーとかやってみる。
「な、何もがぁ!?」
「静かにしろ。オレはお前の呪いを解いてやったんだ。何があったか手短に答えろ」
抵抗しようとしたレークスはオレに敵意がないことを悟ったようだ。
呼吸を整えてからベッドから降りようとするも、足をもつれさせて転びかけてしまう。
支えてやってからベッドに座り直させた。
「危ないな」
「お前は何者だ……。何が目的だ」
「オレはとある人物の命令でインバーナム家の偵察に来た。質問に答えろ。当主だったブルッセルはどこにいる?」
「……殺された」
オレは言葉を紡げなかった。
ショックはないがまさかゲームに出てきた敵役がすでにいないなんて思わなかったからな。
「誰に?」
「ゼルカールだ。あいつは当主の座を狙って父上を殺した。表向きには病床に伏せているだとか発表しているがな」
「次男のゼルカールが? 思い切ったことをしたな」
「父上は長男の私を気にかけていたし、ゼルカールはそれが気に入らなかったんだろう。だがゼルカールが大胆な行動に出たのはあいつが来てからだ」
「あいつだって?」
「黒衣の魔術師……あいつは突然現れた。あいつが来てからすべてがおかしくなった……」
怒りか悲しみか、レークスがベッドの上で拳を震わせていた。
なんだか聞いていた人物像と違うな。
オレとしてはギリウムの上位互換みたいなのを想像していたんだが。
「黒衣の魔術師ってのはどこにいる? ゼルカールの姿も見当たらないんだが?」
「ゼルカールが部屋にいなかったのか? だとしたらわからない。あいつがいないなら黒衣の魔術師もいない可能性がある。何せゼルカールはあの黒衣の魔術師を妄信して常にベッタリと一緒にいるからな」
「黒衣の魔術師か……」
なるほど。すべてが繋がった。
どうもゲームとは少しだけ展開が違うらしい。
そうなるとこいつをどうするか。
一応シェムナの兄だし、まだ情報を握ってそうだから助ける価値はあるか。
もしクソ野郎だったら後で殺せばいい。
「レークス、ここを出るぞ。お前の妹も待っている」
「妹? シェムナは王都の学園に通っているはずだが?」
「連れてきたんだよ。お前、散々虐待したらしいな」
「ぎゃ、虐待だと! それはどういう」
その時、部屋のドアが激しく叩かれた。さすがに見つかるか。
一応鍵はかけたが、ぶち破られたら関係ない。
「おい! そこに誰かいるのか!」
「レークス様! お目覚めですか!?」
あの警備の奴らがどう聞かされているかは知らないが、ここは逃げの一手だ。
レークスを立たせてから脱出することにした。
武器なしでどこまでやれるかな? 少しワクワクする。
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