第106話 そんなことだろうと思った

「きたぞぉーー! クソ兵士どもだ!」


 クソ兵士って。見張り台の上にいた村人が叫んだ。

 どうやら徴税にきた兵士どもがやってくるのが見えたみたいだな。

 すぐに村の門が閉ざされて、塀の上には弓兵がずらりと並んだ。


 オレ達は門の前で兵士達を待ち構えていた。

 村長とリク達は塀の上でその様子を見守っている。


「な、なんだ!? 場所を間違えたか!」

「間違えてないぞ。気持ちはわかるがな」


 たぶん山賊も最初は同じ反応をしただろうな。

 ついこの前まで貧弱でやりたい放題だった村の様子じゃないもんな。

 塀の上に並び立つ村人達を見上げてだいぶ狼狽している。


「何があった! これはどうなっている! お前達はなんだ!」

「質問が多いな。ここはウクタの村、お前らが税を取り立てていた村だ。お前らがやりすぎたから村人が村を要塞化したんだ」

「何を言ってるのかまるでわからん! さては貴様らが妙な入れ知恵をしたな!」

「ご名答。でもここまで村が大きくなったのはお前らに対する鬱憤の反動でもある」


 兵士達は武器を抜いて好戦的だ。

 相手が村人と謎のガキどもならやれると思ったんだろう。

 オレ達のほうはというと、一応納めるべき物資を用意したんだけどな。


 ただこの物資、明らかに量が多い。

 税の重さや取り立て方法などは領地によって変わる。

 普通は小さな村からは取らないんだけどな。


 理由は単純で、まず行くのがだるいし遠征に伴う食糧だって必要になる。

 小さい村が税なんて納められるわけがないから、大体はスルーされていた。

 もちろん領地によるけど。


「ほら、これが今回の税だろ? 持っていけよ」

「すでに用意されているだと? ふん、中に藁か何かを入れてごまかしているんだろう? どれ……」


 兵士達が調べるがどう見ても本物の物資だ。

 そりゃ動揺するよな。もう二重取りできないもんな。


「バカな……こんなはずは……」

「山賊は見逃してもらう代わりにお前らに奪った物資の一部を提供していたんだよな」

「は、はぁ? 何を言うのやら……」

「インバーナム家はなかなかえげつないことをするよなぁ」


 上から睨みつける村人達、門の前にはオレ達。

 兵士達はしどろもどろになっている。

 そこへシェムナが出てきて更に詰め寄った。


「領主は冷酷で最低な人間だったけど、ここまでのことはしないだろ。どうなってんだよ?」

「なんだ、貴様は……」

「山賊の件だって怪しいもんさ。アンタらが独断でやってるのか、それとも……」

「ク、ククッ……あのクズどもは役に立たなかったか。そうか、すべては貴様らの仕業だな」


 隊長らしき男が急に調子こき始めたな。

 実力行使なら話が早いが、少し様子がおかしい。

 ということはやっぱりここもゲーム準拠か。


「シェムナ、油断するな」

「え?」


 オレがシェムナを少し下がらせると、隊長格の男の両手が蛇に変化した。

 蛇はオレ達を捉えようと牙を突き立てている。


「はぁ!」

「フンッ……」


 鼻で笑いながらオレはその蛇を切り捨てた。

 地面に落ちた蛇はジタバタしながらも、再び隊長格の男に戻っていく。


「やっぱりろくな力も持たないクズどもがいかん。元傭兵とはいえ、しょせんは人間。力とは常に人知を超えねばいかん」

「お前、召喚憑きだろ。契約悪魔はヒドゥーラ、無数の頭を持つ蛇の化け物だな」

「そこまで見通しているとはやはり只者ではないな。最初に村に来た時から貴様のことは気になっていた」

「だから村人には引っ込んでいてもらったんだよ」


 これには村長達もざわつく。

 まさか人間が化け物になるとは思わなかっただろう。


「アルフィス様、どうなってんだよ!? あいつ人間じゃないのか!?」

「以前のお前と同じだよ。召喚憑きだ。ただしあっちはどういう契約なのか、割と終わってるけどな」

「ア、アタシがあんな奴と同じだったなんて……」


 召喚憑きのうちは力に酔いしれて自分が見えなくなることがある。

 特に弱い奴ほど力に溺れる。シェムナもあの隊長もな。

 特にあの男は意識を半分以上持っていかれているな。

 どうせ騙されてクソみたいな契約を結ばされたんだろう。


「ルーシェルは他のザコを片付けろ」

「はぁい」


 オレ一人でも十分なんだが、あまり何もさせてやらないままだと欲求が溜まるからな。

 エスティあたりに当たり散らされても申し訳ない。


「ほざけッ! ヒドゥーラ・ストライクッ!」


 それぞれの蛇が蛇行した軌道で向かってくる。

 ちなみにこいつらは確かピット器官とかいうもののおかげで暗闇でも問題なかったはずだ。

 つまりダークスフィアは通じない。


「リク、見てろ。魔力強化を極限まで極めるとこんなこともできる」


 オレは無数の蛇の嵐をかいくぐり、綺麗に斬り落として進んだ。

 オレが動くうちに向かってくる蛇と蛇が絡み合って結ばれてしまい、実質の手数は減っていく。

 一応こいつらは再生するみたいだがそれ以上の速度で殲滅すればおのずと追いつかなくなる。


「くっ! 再生が追いつかない! 『人間ごときがよくもッ!』」

「こんなもんオレにとっちゃ統率がとれていない烏合の衆みたいなもんだ。まさに頭数でしかなかったな」


 オレが本体に接近しつつある時、蛇の口から炎のブレスが吐き出された。

 ブラックホールかシャドウ・エントリでどうとでもなるが、一応今は魔力強化縛りだ。

 リクに希望を持たせるため、こいつには噛ませになってもらう。


 足を魔力で集中強化、最大瞬発力を高めてオレはその場から離れた。

 炎のブレスが悠長に地面を焼いているが、そこにオレはいない。


「は、外し……」

「びびってる暇はないぞ」


 魔剣で勢いよく斬り込み、ヒドゥーラと化した隊長格の男は真っ二つになった。

 更にもう一度、もう一度、何度も何度も斬り続けることによってこいつは再生が追いつかなくなる。

 ついには千切れた蛇が干からびたようになって消滅していく。


「う、なぜ、信じられ、ん……『人間ではない……こんなもの、魔界にも、いなかっ……』」

「前から思ってたけど、喋るならどっちかにしてくれ」


 隊長格の男とヒドゥーラの声が重なっていてよくわからんな。

 まぁどっちも似たようなことしか言ってないから聞く価値はないか。

 その消滅を見届けるとオレもそれなりに強くなったものだと実感する。


 少し前のオレじゃ魔力強化縛りでこいつを倒すどころか、普通に戦っても無傷じゃすまなかった。

 裏を返せばそのレベルの召喚憑きを作れる奴が潜んでいるってことだけどな。

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