第104話 オレは運がいいだけの男だ

「うりゃあぁぁーーー! ヒャハハハッ!」


 ウェルダン、じゃなかったウェルダムは上機嫌で鉄球を振り回し始めた。

 オレはこいつを密かに鉄球魔人と呼んでいる。

 その威力は鉄の嵐とも言うべきで、木なんか余裕でへし折れるどころか吹き飛ぶ。

 剣なんかで受けられる威力じゃない。


「どぉおおおぉぉ~したぁぁんん! 口先だけのガキがよぉ!」

「なるほど、さすが中盤くらいで戦うボスだな。意外と苦戦報告が多いだけある」

「はぁぁ! さっきから意味不明なんだよぉぉーーーー!」


 山賊ウェルダム。こいつはサブイベントのボスだけあって強く設定されている。

 まずは中盤に差し掛かって強さに自信をつけたプレイヤーが今更山賊かよとばかりに挑む。

 何せ時系列的にはアルフィスを倒した後だからな。

 で、いざ戦ってみるとなかなか強くて全滅するプレイヤーが後を絶たなかった。


 強さの感覚では某国民的RPGに出てきた山賊4人衆のボスに近い。

 あれも冷静に戦えば物理攻撃一辺倒で突破口はあるんだが、戦う時期とタイミング次第で強ボスと感じる。

 そもそも山賊=弱いみたいなイメージを定着させた作品の影響もあるかもしれない。


「アルフィス、こんな退屈なのといつまで遊んでいるつもりじゃ」

「そう言うなよ、ヒヨリ。オレだってたまには色々と楽しみたいんだよ」


 ヒヨリがあくびをかきはじめたのもわかる。

 強いとはいってもオレから見ればしょせん山賊落ちした奴だ。

 さっきからご自慢の鉄球がまったく当たっていないからな。


「お前、元傭兵だったよな。それが今じゃ山賊……情けなくならないのか?」

「しゃらくせぇ! 俺達傭兵なんて戦争が終われば用済みよ! 結局いいところは貴族様が持っていっちまう! それが現実だ!」

「元傭兵でも貴族家の執事をやっていた奴もいるけどな。それに商売を初めて成功した奴だっている。強さを活かしたいなら誰かを守って金をもらってもいい」

「そ、それがなんだってんだ! そんなものはたまたま運がよかっただけだ!」


 はいはい、運ね。そうだな、運がよかったんだろうな。

 これを言う奴は大体効いている。

 こんな奴に説教したところで何もならないからこの辺にしておこう。


「ていうかお前、なんで俺が元傭兵だって知ってやがるんだ!」

「さぁな。お前が懇意にしている奴らから詳しく聞いてなかったのか?」

「こ、懇意だとぉ……」

「お? 心当たりが?」


 オレが意地悪く笑うとウェルダムは鉄球を振り上げた。

 そして一気に振り下ろして地面に激突させる。

 岩盤が割れんばかりの威力で軽く地響きが起こるほどだ。


「クッソがぁ! なんで当たらねぇ!」

「まず魔力強化がおざなりなんだよ。必要な筋肉に魔力が完全に行き渡っていない。そのでかい図体に均等に魔力を送るとか無駄すぎるだろ」

「なん、ななん、だとぉ!」

「誰も傭兵時代に指摘してくれなかったのか。あ、そうだ。ちなみにオレはこんなこともできるぞ」


 再び鉄球を振り回した鉄球魔人だけど魔剣で受けきった。

 破壊の波動を巡らせた魔剣によって鉄球に亀裂が入って花火みたいに粉々に砕け散る。

 破壊の波動をもってすれば理論上、どんな物質だって破壊できた。


「は、はぁ? なんだ、なんで?」

「オレは生まれつきこんなこともできる。あ、これは運だな」

「お前、何者だ! 何なんだよ!」

「そろそろ片付く頃だな」


 わなわなと震える鉄球魔人を無視して周囲を見渡すと、あらかた片付きつつある。

 村人達によって山賊達はほとんど倒されてロープで縛られていた。

 首を掴まれて木に押し付けられている山賊もいる。

 もうどっちが山賊かわかんねぇな、これ。


「ざぁこ、ざあぁぁぁぁーーーーこ」

「勘弁してくれぇ……」


 ルーシェルなんかここぞとばかりに山賊の頭を踏みつけて罵声を浴びせてるからな。

 オレが言えた口じゃないがそこまですることはないだろ。


「はい! 一斉発射!」

「ふぁいあぼーる!」


 なんか聞こえてきたと思ったら子ども達が一斉に山賊に向けてファイアボールを放った。

 威力はひどいものだけど当たれば火傷は必死だ。

 指揮しているのはあのエスティで、子ども達を率いている。


「あづづあぁぁぁぁぁい!」

「いぎゃあぁぁ!」


 あてられた山賊はなかなか痛そうだ。

 というか子ども達は村の中に避難させていたはずだが?

 見るとその足元に奴がいた。そう、あのスライムだ。


「うみゅ!」

「ミューちゃん、塀に穴を開けてくれてありがとー!」


 塀に穴? 探すと確かに子どもが通れる程度の穴が開いていた。

 あのレベル20が溶かしたんだろう。

 ちょっと目を離すとこれかよ。そしてエスティ、お前よ。


「おい、なにやってんだ」

「あ! あるふぃじゃなくてアルス様! すみません! ミューちゃん、止められなくてつい!」

「なにスライムに主導権を握られて……いや、しょうがないか」


 元々危険生物だしエスティが逆らえるような存在じゃない。

 いつの間にか命名されていたレベル20がオレのところにきて頭を突き出してくる。

 撫でろってか?


「よくやったがあまり勝手なことをするなよ」

「うみゅーーー」


 レベル20が体をうねらせてご機嫌だ。

 まぁこいつを連れ回す以上、たまには褒めてやらないとな。


「アルスさーーーん! こいつらどうする!」

「全部捕らえておけ。まだ役割があるからな」


 村人達は山賊を撃退したようだ。

 その足元で伸びている山賊達がオレの指示で次々と拘束されていく。

 こっちの鉄球魔人もそうしたいところだが、こいつはロープごときじゃ拘束できない。


「おい、鉄球野郎。今はまだ生かしてやる」

「クソォ……何者だぁ、何者なんだ……」

「ただ運がいいだけの男だ」


 皮肉を込めてそう伝えると鉄球魔人は何度も舌打ちをした。

 さて、そろそろ終わらせてやるかと思ったところで後ろに小さな影が見えた。

 いや、あいつはまさか――

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