第100話 無力と弱いは違う
「あの、それで討伐のほうはいつ行かれるのですかな?」
オレ達が村に滞在することになってから二日目、村長が顔色をうかがってきた。
村を探索していると揉み手をしながらペコペコと頭を下げてくる。
なかなか急がせてくれるな。
「いつ行こうがオレ達の勝手だろ。それにやり方には口を出さない約束だよな?」
「そ、それはもちろん! すみませんでした!」
オレが睨みを利かせると村長はそそくさと走り去っていった。
オレはため息をついてから改めて村を見渡す。
一見してごく普通の農村だが、村人達はどこかのんびりしていた。
畑仕事をして休憩して通りかかった村人と立ち話。
これが悪いことじゃないけど、とても盗賊被害にあっている村とは思えなかった。
他人の生き方に口出しをするつもりはないが、オレは苛立ちを覚えている。
「と、取り立てが来たぞぉ!」
村人の一人が息を切らせてやってきた。
村人達が一斉に村の入り口に走っていく。
オレもゆっくりと後を追うとそこにいたのは三人の武装した兵士だ。
「今日こそ税をまとめて収めてもらおうか!」
「ま、待ってください! もう少し……あと三日ほどお待ちください!」
村長が兵士達に必死に弁明している。
オレが見ていると後ろからシェムナがひょこっと顔を出した。
「あの鎧のシンボル、インバーナム家じゃん……。こんなところまで治めていたんだ」
「お前、そんなことも知らないのか? この辺りはインバーナム家の領地だろう?」
「アタシはほとんどそういうの教えてもらってないし……」
要するにインバーナム家の役人達が村から税を預かりに来ている。
これ自体は正しい。日本だって色々と税金がかかるからな。
この村の場合はどうも作物を収めるようだ。
「先日も先延ばしにしたではないか! もう待てんぞ!」
「この村では盗賊のせいで収めるものがほとんどありませぬ! それもこれもあなた達が盗賊をいつまでも……」
「あ? なんだ? 我々のせいだと言うのか?」
「い、い、いえ、その、ようなことは……」
村長が青ざめて渋い顔をしている。
確かに領地内の治安維持は領主の仕事だ。
これを怠ると治安や経済が一気に傾くから意外と大変だったりする。
その点、バルフォント家は領地を持たない。
その代わりに力をもって王家を支配下に置いているから、金の心配はない。
そう、国民が治めている税の何割かはバルフォント家に流れている。
特別治安維持税とかいう訳の分からん名前をつけてごまかしていた。
大半の国民は疑問を持たずにこれを収めているというわけだ。
自分達が払っている税金がどこに流れているのか、それを考えないようにしっかりと教育されている。
「ふん! 仕方あるまい! ならばせめてあるものだけでも貰っていこう!」
「お待ちください! やめてください! 生活が、生活がかかってるんです!」
「どけぇッ!」
兵士が追いすがる村長を突き飛ばした。
何人かの村人が駆け寄ってくるも何もできない。
全員が目を逸らして、そして静かに兵士達に道を開けた。
「よし! まずは徹底して家探しをした後に……」
「待て! か、か、勝手なことは、させないぞ!」
「なんだ、このガキは?」
なんとあの兵士達の前にリクが立っていた。
ガタガタと震えながら両手を広げて兵士の進路に立ちふさがっている。
あいつ、ゲームだと泣きながら震えていたくせにどういう風の吹きまわしだ?
「どけ、ガキ。痛い目にあわされないとわからんか?」
「む、村の食料も、あ、ある! 皆、食べられなくなる!」
「そんなもの知ったことか。弱い奴は淘汰される。お前のようにな」
「うげッ……」
リクが兵士に蹴り上げられて地面に落ちた。
立ち上がれず、げぇげぇを吐いて涙を流している。
「……ッ! 我慢ならねぇ!」
「やめろ、シェムナ」
「なんで止めるんだよ!?」
「いい薬だからだ。こうでもしないとこいつらはわからん」
オレが興奮するシェムナを押さえているうちに兵士達は村中の家探しを始めた。
残っているわずかな食料を担いだ上機嫌な兵士達が荷台に次々と載せる。
「ア……アルス様! いいんですか!?」
「いいんだよ、エスティ。お前も見ておけ。これが現実だ。あの兵士が言っていた通り、弱い奴は淘汰されるんだ」
「で、でもこんなのあんまりですよ! 村の人達が飢え死にしちゃいます!」
「そうだな。このままだとな」
やがて兵士達が集め終わると笑顔で村人達に手を振った。
正直これは憎たらしいが仕方ない。
「いやぁ! よかったよかった! 今回も税を収められてよかったな!」
「う、うぅっ、ワシらはもうお終いだ……」
「じゃあ、次もよろしく頼むぞ! ハッハッハッ!」
泣き崩れる村長にすすり泣く村人達、それに構わず兵士達は意気揚々と帰っていく。
まるでお通夜みたいになったこの場でオレは何度目かわからないため息を吐いた。
「村長、立て」
「うっ、うっ、な、なんであんたらは黙って見ておった……」
「そりゃオレ達に依頼されたのは盗賊討伐だからな。それに国の人間に逆らったらダメだろ」
「今の見とったんだろ! なんとも思わんのか! あんたらには人の心がないのか!」
村長の激高を皮切りに村人達がオレ達を非難し始めた。
本当にあきれ果てるな。
レティシアの時は違った解決方法だったが、あれはよくない。
これはレティシアがあいつらを追い返して山賊を討伐するだけのイベントだ。
村が山賊に襲われなくなってめでたしめでたし。
そんな終わり方でいいのか? いや、よくない。
「お前ら、結局弱いだけじゃないのか!」
「そうだ! だからびびってあいつらに何もできなかったんだ!」
好き勝手なことを言う村人の前でオレは魔剣を抜いた。
そして地面に突き立てると同時に破壊の波動が迸る。
地面に隕石でも落ちたかのようなクレーターを作ったところで村人達が静かになった。
腰が抜けて絶句している奴、尻餅をついて失禁している奴。
人間、本当に恐ろしい時は声すら出ない。
「甘ったれるんじゃねえぞ! 自分達の居場所すら守れない分際でピーピー喚いてんじゃねぇッ!」
誰も何も言えず、村人達はただ嵐が過ぎ去るのを願っているかのようだ。
そこでオレはリクに目を向けた。
「この中で誰か一人でもあいつらに立ち向かった奴はいるかよ! そこのリクみたいにな!」
リクが意外そうな顔をして目を点にしている。
こいつはよくやったよ。10歳かそこらの子どもにできることじゃない。
村人達もハッとなっている。
「そ、それは、確かに……」
「でも、結局ダメだったじゃないか……」
村人達が弱々しく口々に呟く。
オレはリクの頭を撫でた。
「ア、アルス兄ちゃん?」
「オレがお前らを強くしてやる。甘くはないがな」
オレがそう言うとリクは拳を握った。
無力さを感じられるだけ村の大人達より立派だ。
オレが村の中心に向かうと、一人ずつ村人がついてきた。
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