第99話 小さな村でのサブイベント開始
「ようこそ、旅の方々。何もない村ですがごゆっくりしてください」
オレ達は山間にある小さな村に辿りついた。
ここは地図にも載っていないウクタの村だ。
プリンセスソードにはこういう隠れポイントみたいな場所がちらほらある。
そしてこういう場所にはサブイベントやアイテムがあることが多い。
白髪の村長は丁寧にオレ達を出迎えてくれた。
「オレはアルス。こっちがルーシェルとシェムナ、エスティだ。少しの間だけ世話になる」
「アルスさんですな。大したもてなしはできませんが、寝床は我が家をお使いください」
見ず知らずの旅人を泊めてくれるとか、さすがに不用心すぎるだろ。
と思うところだがこれにはちゃんと理由がある。
というのもこの村には困りごとがあるからだ。
「アルフィス様、アルスってなんですか……ヒソヒソ」
「今回は調査も兼ねているから、一応身分や名前を隠したほうがやりやすいと思ってな」
デマセーカ家の時みたいにすでにある程度のターゲットが決まってる場合とは違う。
今回は情報収集をして動き回るから、できるだけ名前や身分は隠したほうがいい。
オレ達はあくまで旅の若者だ。
といってもこんな地方の田舎でバルフォント家を知ってる人間はいないと思う。
ましてや末っ子のアルフィスの認知度なんて王都内でさえ怪しい。
それでも素性を隠したかった。
だってそのほうが面白いだろう。
一度やってみたかったんだ。
ちなみにシェムナはインバーナム家の娘だけど、末っ子なんて誰も名前すら知らないという。
村を見渡すと一見して普通だが、オレ達を奇異な目で見る村人達は痩せていた。
「旅人か? ずいぶんと若いな」
「村長、どういうつもりだ?」
訝しむ村人の間から子ども達が見ているのに気づく。
目が合うと蜘蛛の子を散らすように逃げるが、一人だけ立ち止まっている少年がいた。
名前はリク、年齢は10歳。サブイベントの登場キャラだ。
そのリクが元気よく走ってやってきた。
「ね、ねぇ! それって剣だよね? お兄ちゃん、剣士なの?」
「そうだが?」
「いつまで村にいるの?」
「長居するのも悪いからな。明日には発つつもりだ」
「あ、明日かー」
リクが残念そうに項垂れた。
そりゃ残念だよな。お前、剣士に憧れてるんだもんな。
「あ、明日ですと!?」
「村長、どうした?」
「あ、いえ……。じ、実はですな。近頃、この辺りに山賊が出るのです。奴らは村から食料などを略奪していって困り果てておりましてな」
「それでオレ達に討伐してほしいと?」
「まぁ、そうですな」
こういうことだ。この村は山賊に襲撃されている。
だから藁にも縋る思いで旅人を引き留めては討伐を頼む。
要するに一泊させる代わりに山賊を討伐してくれってところだな。
「あのねぇ! ジジイ! アルフィもがっ!」
「村長、すまない。こいつたまに発作を起こすんだ」
「は、はぁ……」
事前に口裏を合わせていたのにアルフィスとか抜かしやがる。
しかも泊めてくれる相手にジジイ呼ばわりだからな。
こいつに礼儀を教えるなんてゴブリンに方程式を解かせるようなもんだから諦めている。
「盗賊討伐だが引き受けてやってもいい」
「ほ、本当ですか! ありがたい! 皆の者! 聞いたか! こちらの方々が引き受けてくださるぞ!」
「おおぉーーーー!」
村長が村人達に叫ぶとさっきとは打って変わっておおはしゃぎだ。
「よかった! 希望が見えてきた!」
「でも見たところかなり若いが大丈夫なのか? それに女の子も多いし……」
「なんでもいいだろ! 俺達よりマシだ!」
身も蓋もない喜び方してやがる。
自分で言うのも何だが、年齢的に見てもそこまで強そうには見えないと思うんだがな。
どれだけ藁にもすがりたいんだか。
「ただしやり方はオレに従ってもらう。これに関して一切口出しをするな。それが約束だ。もし反故にするならこの話はなしになる」
「え、あ、はい……」
村長は戸惑っているし村人達も困惑している。
言っておくが普通に討伐してやる気はまったくない。
ゲームならレティシアが解決した話なんだが、オレとしては疑問が残るやり方だった。
だからここはオレが納得がいくまでやらせてもらう。
「アルフィ……アルス様、大丈夫なんですか……? それに私、山賊と戦うなんて……」
「安心しろ、エスティ。いきなりお前の手を汚させるようなことにはならない」
「本当ですか!?」
「たぶんな」
本当は対人戦にも慣れてほしいところだ。
だけど現段階でそこまで求めるのは酷だから、今回も見学してもらう可能性がある。
思えば学園襲撃時にエスティに護衛を任せたのはなかなか無茶だったな。
ただこいつ、グリムリッターの隊長格と戦って生き延びているんだったか。
こうしてオレ達は村の中で過ごすことになった。
一日目は特に何もしない。一応様子見だ。
万が一、ゲームと違う部分があったら困るからな。
そんな風に思いながら村の中を散策しているとリクが駆け寄ってきた。
「あ、あの!」
「リクか。なんだ?」
「え? なんでオイラの名前を?」
「さっき村人が言っていたのを聞いた。それで何か用か?」
危ない、危ない。初対面なのに思わず名前を言ってしまった。
それにしてもこの切り返しは無敵だな。
色んな作品で使われていて意外とごまかせる。
「アルスさん。実はオイラ、村の外に出たいんだ。ほら、この村だとつまんないっていうか……一生畑仕事しなきゃならないからさ」
「出たらいいじゃないか」
「でも村長が許してくれないんだ。オイラの父ちゃんと母ちゃんが昔、山の事故で死んだから余計にさ……」
「それは大変だな」
リクが何を言いたいのかわかっているがオレはあえて言葉を待った。
もじもじして子どもながらかわいいものだが、どうもナヨっとしてるな。
「それで、その。アルスさんからお願いしてほしいんだ」
「なんでオレがそこまでしなきゃいけないんだ?」
「オイラが言っても村長、聞かないから……」
「オレが村長を説き伏せて何が変わる? お前の目的は村を出ることなのか?」
オレがそう言うとリクが言葉を詰まらせた。
「た、旅に出て強い剣士になるんだよ! だけどこの村にいたら強くなれない!」
「この村すら自分の力で出られない奴が、か?」
「え……で、でも、それとこれとは……」
「同じだ。村から出られないのはお前が弱いからだ。つまり村長に舐められてるんだよ。こんな弱っちい奴を村から出せるかってな」
オレがそう言うとリクが目に涙をため始めた。
泣いたってオレは容赦しないぞ。
オレはレティシアみたいな甘っちょろい言い方はしない。
「うぅっ……!」
リクは走り去ってしまった。
オレはその頼りない背中を見送るだけだ。
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