第97話 エスティとシェムナの実力

 街道沿いに歩けば比較的安全に旅ができるがそうするつもりはない。

 前の町を後にしてオレ達はパスクーダ地方へ行くための近道、それでいて険しい山道を通ることにした。

 足場は悪いし滑るし落石だってあるが、これも修行だ。


「アルフィス様ぁ、飛んでいいですかぁ」

「ダメだ。それじゃ修行にならないだろ。ていうか一応お前が天使族ってのは内緒なんだぞ」


 オレ達はエスティとシェムナに聞こえないようにヒソヒソと話した。

 天使族は希少種だからバレないに越したことはない。

 余計なトラブルの芽は出ないほうがいい。

 そういう意味ではギリウムの奴に見つかったのは不幸中の幸いだったな。


「ここずーっと薄暗いしキモくない?」

「日の光もあまり入らないからな、シェムナ。ちなみにここは割と強い魔物が出るぞ」

「マジィ!?」

「マジだ。昨日倒した魔物とは比較にならない」


 プリンセスソードは自由度が高くて寄り道も可能だが、少し外れた場所にいくとやばい敵が出る。

 ここもその一つで、大体中盤辺りに出てくる魔物がメインだ。

 そこの木陰から様子をうかがっているリザードナイトもそのうちの一匹だな。


 今のところ、あいつに気づいているのはルーシェルだけか。

 エスティは【予知】さえ使えばわかるだろうが、オレは無暗な波動の乱用を禁止していた。

 確かに便利だが波動は消耗が激しいし、オレみたいに倒れる可能性がある。

 こんな山奥でそんなことになったらどうしようもない。


 それに波動ありきの戦いになるのも考え物だ。

 地力をつけずにそんな一本槍で戦うのはリスクでしかない。


「アルフィス様、この先に町とかある?」

「知らん」

「え、もし何もなかったら?」

「野宿で問題ないだろう」


 シェムナが地面を足でさすっている。

 こんなところで寝るのかと言わんばかりだ。

 残念ながら綺麗な旅が出来ると思ったら大間違いだぞ。


 さて、そろそろリザードナイトがチームプレイで仕掛けてくる頃だな。

 仲間が着実に集まっているし、なかなかの数だ。


 そして頭上から矢が放たれた。


「わぁっ! な、なに!」

「囲まれているぞ。相手はリザードアーチャー、そしてそこにいるのがリザードナイトだ」

「リザードナイトォ!? やばい奴じゃん!」

「たまに警備隊を壊滅させてるなんて話が飛び込んでくるな」


 シェムナにもリザード達の恐ろしさが耳に入っているようだ。

 こいつらは軒並み知能が高くて武器や防具を使いこなす。

 半端な奴らがこいつらに挑んで返り討ちに遭って武具を取られるのが地味に問題になっていた。


 リザードナイトは人間の武器や防具を奪っている。

 目の前に現れたそいつが持っている剣もそうだ。

 他にも槍や斧、ハンマーといった様々な得物が目立つ。


「あーーわわわ! ア、アルフィス様! どど、どうしましょう!」

「やるぞ。エスティ、お前はオレの後ろにいろ。そして戦いを目に焼き付けておけ」


 エスティは【予知】に付随して目がいい。

 入学時に行った模擬戦でデニルの攻撃を避けられたのもそれが要因だ。

 こいつはおそらく自覚していないが、目で見たものを無意識のうちに学習している可能性があった。


「やってやんよぉ! オラアァァーッ!」


 シェムナが果敢に挑んでリザードナイトの剣を蹴りで弾いた。

 更に拳を数発ほど叩きこんで追い詰める。

 さすが元三強、あれと一対一で戦って勝てる学生はそう多くない。


「きったないヌメヌメだなぁ! セイクリッドアローーー!」


 ルーシェルが弓矢のスキルで距離を取っているリザードアーチャーを射殺した。

 こいつがいればあっちが持っている遠距離攻撃のアドバンテージを埋められる。

 矢での波状攻撃の予定だったんだろうが見事に崩されたな。


 オレはというとあえて剣を抜かずに素手で相手をすることにした。

 リザードナイトの剣撃を回避してしゃがみ、顎に足蹴りを当てる。

 更に左方向のリザードナイトに突進してひじ打ちをお見舞いした。


「グエェアァッ!」

「グブッ……!」

「魔力強化も突き詰めればここまで出来る。よく見ておけ、エスティ」


 エスティはゲームにはいないキャラだから得意武器がなかなか割り出せない。

 道中で試したのは剣、槍、斧だけどどれも外れだ。

 今は杖とナイフを持たせていてそれを試しつつ、今度は素手の方向で考えてみることにしている。


 オレの予想ではたぶん杖だと思う。

 だけど素手はどんなキャラにやらせても腐らないのが強みだ。

 手荷物が増えないのと、万が一武器を失っても戦う手段になる。


「左、右、右……ストレート……」


 エスティがオレの戦いを見てブツブツと呟いている。

 まったく恐ろしいな。お前は漫画によく出てくるデータキャラか。

 その時、エスティが走り出してリザードナイトにストレートを放った。

 だが、しかし――


「いっっったぁぁーーーーい!」


 エスティがリザードナイトの脳天に拳をヒットさせた。

 当然非力すぎてダメージにはなってない。

 ギロリと睨んだリザードナイトがエスティに剣を振り下ろした。


「ダークニードルッ!」

「ギャッ……!」


 少し距離が遠かったからダークニードルで仕留めた。

 エスティがへなへなと座り込んでようやくびびってる。


「余計なことをするな」

「は、はい、すみません、つい……」


 いきなりあのリザードナイトの懐に潜り込んで一撃を入れやがったな。

 それからエスティはオレの言いつけ通り、大人しくしてくれる。

 それでもその目は決して戦いから逸れることがなかった。


「こんなものか」

「アルフィス様、マジで素手でやっちまったんだね……。アタシの出る幕なかったじゃん」

「オレだって負けてられないからな。オレの魔力強化でここまでやれるんだから、お前はもっと上にいけるはずだ」


 リザードマン達を無事討伐した後、シェムナの今の実力を把握することができた。

 悪魔の力がなくなって弱体化したとはいえ、実力は上級生にも勝る。

 悪魔の力がなくても三強の維持は可能だっただろう。


 それにシェムナは驚いているけど、一撃の破壊力はオレとは比べ物にならない。

 オレはリザードナイトを倒すのに2、3発は必要だったがシェムナはほぼ1、2発だ。

 たった一発の差だろうが少なくとも素手での戦いにおいてオレがシェムナと戦ったら勝てる自信がない。


「ふ、ふん。まぁそこそこやるようだね」

「ルーシェル、アンタもやるじゃん。さすがナンバー2だね」

「は、はぁ!? ま、まぁーねぇー!」


 主導権というか手綱は完全にシェムナに握られている気がするな。

 まぁこれはこれで良し。

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