第81話 うみゅうぅ~……
護衛した貴族達を学園外に逃がした後、オレ達は地下通路を引き返した。
ブランムドはよほど悔しかったのか、オレ達と別れて貴族の護衛を続けるようだ。
これはこれでありがたい。
「アルフィス、グリムリッターってあのヘズラーが連れていた奴らよね。よくもここまで大胆な真似ができたものだわ」
「そうだな。ここまで調子に乗ることができる何かがあるんだろう」
「そもそも手際が良すぎるわ。厳重な警備体制のはずなのに……」
「何せこの地下通路もバレていたからな」
そう言いながらオレは途中にあるボンシャンの死体を視界に入れた。
こいつは六番隊の平隊員ってところだろう。
グリムリッターは一番隊から十番隊まで存在していて、これがいわゆる本隊だ。
六番隊は潜入やかく乱に長けた連中で構成されているので、ゴリッゴリの戦闘部隊じゃない。
このボンシャンがいい例だ。
マジックトラッパーなんてのはまさにそうだろう。
更にオレ達の立ち位置や動きを把握した上で的確に配置されていた。
すでに学園内には六番隊の連中が大量に雪崩れ込んでいることだろう。
いい手際だよ。
「クククッ……なかなか好き勝手にやられたもんだな」
「……アルフィス?」
リリーシャが二の腕をさすった。
「生徒達は大丈夫かしら。特にレティシア……あの子じゃ敵わない敵がいる可能性も……」
「心配か?」
「べ、別に心配なわけないじゃない! お姫様に死なれたら国としても損失でしょ! そんなこともわからないの?」
「さすがに必死すぎだろ」
リリーシャがブツブツ言いながらオレと並走している。
オレの所感としてはレティシアは問題ない。
あいつがあの反則スキルに目覚めた以上、よほどの相手じゃなければ遅れは取らないだろう。
ルーシェルも接近戦の対策を教え込んでいるから、あいつに関しても心配はない。
六番隊には槍投げ野郎がいたはずだからな。
あいつは槍投げを対策しても接近戦もそこそこやるはずだ。
「急がないとどんどん犠牲が出るわ……! 何せ相手はあのグリムリッターだもの!」
「まぁそこまで必死になることもない。すでに手は打ってある」
「え?」
オレは空になった自分のカバンを見た。
ここにいた奴はすでに動き出しているはずだ。
言うことを理解させるのに少し苦労したが、知能が高くて助かったよ。
* * *
「この東棟を攻めれば隊長と合流できるはずだ」
グリムリッター六番隊の後続部隊が学園への侵入を果たした。
すでに先行部隊がひっかきまわしているおかげで警備が手薄になっている。
実に呆気ない。
我らが情報戦を制した影響があるものの、こうも楽に仕事をさせてもらえるとは思わなかった。
聞いたところによるとこの学園は教師も粒揃いらしいが、どうも先行部隊に苦戦を強いられていると見える。
まぁ我ら六番隊はかく乱と工作のスペシャリスト、敵が己の実力にあぐらをかいているようでは敵ではない。
戦いとはシンプルではない。
戦闘能力、情報、地の利、相性、すべての総合力が必要だ。
護衛を務めている魔術師団やロイヤルガードがいかに優れていようが、我らはすでに情報を制している。
これがセイルランド王国が誇る重要機関か。
未来の担い手を育成する学園がこの有様では、国の有様もうかがい知れるというもの。
先の隣国戦争とやらでは勝利したようだが、我らのほうが上手なのは明白だ。
何せ隣国戦争の時から我が国はすでにうまく立ち回っている。
恨むなら当時、我が国を信用したこの国の王を恨むべきだろう。
「妙だな。人の気配がない」
「逃げ遅れた学生すらいないな」
「よほどの手際か?」
椅子や机などが乱れている様子からして、多少は慌てたようだ。
しかし今は人の影さえも見えない。
これはさすがに異常だ。
「罠の可能性がある。トラップを考慮して魔力感知に集中しろ」
「うみゅ」
今、ふざけた返事をしたのは誰だ?
ふと足元を見ると見慣れない生物がいた。
「なんだ、これは?」
「うみゅ」
「スライムか? なぜこんなものが学園内に?」
「うみゅ~~……」
幼い少女の形をしたスライムか。
見たことがないタイプの魔物だ。
「おそらく混乱に乗じて訓練場から逃げ出してきたのでは?」
「なるほど。だとすればマヌケもいいところだ」
「こんなザコモンスターを飼うとはずいぶん余裕がある」
我らはせせら笑った。
六番隊は血を吐くほどの訓練をしたというのに、こんなふざけたモンスターと戯れていたのか。
いくら学生とはいえ、世の中というものを舐めている。
「やはり子どもの遊び場ということだな」
「うみゅう~~~……」
「なんだ、一丁前に怒りをあらわにしているのか。フッ……」
「うみゅ~~……!」
スライム娘が表情を変えているが、子どもの顔で迫力など出るはずもない。
下らん。こんなものはとっとと始末する。
「どけ」
「うみゅあぁッ!」
突如、スライムが放射状に広がった。
先頭に立っていた仲間の半身が一瞬で溶かされてしまう。
「な、なんだと……!」
「うみゅうぅ~~!」
我らの判断は早い。
スライム娘を取り囲んで、すぐに攻撃を開始した。
魔法陣による即席トラップ、魔道具による小型の武器、あらゆる手段を持ち合わせるのが我々だ。
「うみゅっ!?」
即席トラップによる爆発でスライム娘が爆破される。
更に魔道具には熱を帯びたナイフであり、相手が液体状であっても蒸発させられるのだ。
どんな相手がこようとすぐに対応できる、これが戦闘のプロというもの。
やはりこの程度――
「うみゅ」
スライム娘はすぐに元の形を取り戻す。
バカな、例え不定形といえどこの質量なら蒸発は免れない威力だ。
それなのに、なんだ。この魔物は。
スライム娘が我々の足元に広がり、咄嗟に跳ぶ。
「ぐっ……あぁぁ……か、体がッ……!」
「クソォォ……!」
反応が遅れた仲間達の足が溶かされて、溶解液の海に身を沈めていく。
なんだ、なんだ、これは。
「こ、このッ!」
「うみゅ」
私の背後に現れたスライム娘に振り返る。
その目を見て私は体の底から冷たいものが沸き上がった。
これは、これは獲物を見る目だ。
「うみゅ~~~~」
そもそも我らは最初から捕食対象としか見られていない。
ダメだ、これは戦ってはいけなかった。
「く、クソッ、こんな化け物がいるとは! 何とか隊長に報告しなくては!」
オレは撤退行動を取った。
足の速さならさすがに負けないはずだ。
見たところ、速度はそこまで高くない。
「うみゅ」
「う……!」
背中がじわりと痛んだ。
こいつは、すでに、私の背中に。
「バカな、バカな……なんだ、この、この化け物はぁッ!」
そして最大限の激痛が走った直後に私は視界がシャットダウンした。
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