第80話 セイルランド王の実態
「な、何が起こっている! ロイヤルガード! しっかりと守ってくれ!」
何者かの襲撃によって国王であるお父様が大慌てです。
ロイヤルガードは優秀ですが敵の正体がわからない以上、油断はできません。
予め聞いていた避難通路に向かおうとした時、窓が割れて複数人の敵が入ってきました。
「ひぃぃーーー! 助けてくれぇ!」
「陛下に敵を近づけさせるなッ!」
敵は無表情で私達が護衛しているお父様達に向かってきます。
この感覚、見覚えがあるような?
そう、感情なく目標だけを見据えて襲ってくる様はヘズラー公爵を守っていたあの方々と同じです。
私は敵の一人の攻撃をディフレクトで弾くと同時に斬り込みました。
「はぁぁぁっ!」
「ぐっ!」
私が一人倒したところでお父様が背中越しにしがみついてきました。
「レ、レティシア! よくやった! 偉いぞ!」
「お父様、後退するので下がります。少し離れてください」
「何を言う! 離れたら殺されるではないか!」
「いいからッ!」
お父様のあまりに情けない様子に私は怒りが抑えられません。
本来であれば率先して生徒達の安全を心配するべき立場です。
それなのに私の後ろに隠れて保身ばかり考えている。
「陛下に近づけると思うな!」
「手強いッ!」
ロイヤルガードは善戦しているものの敵も相当手強いです。
魔術師団の魔術師達も苦戦しているようですし、ここにきて地力の差が顕著です。
「バ、バルフォント……レオルグを呼べ! あやつは何をしている!」
「お父様……いえ、陛下! いいから落ち着いてください!」
「あやつなら何とかする! すぐに呼べ!」
「……ッ!」
言葉にならない怒りを抑えて私は襲撃者達と戦います。
その私の横からキラリと何かが光った気がします。
咄嗟に回避すると同時に窓の外から何かが豪速で放たれて床に突き刺さりました。
それは槍でした。
外を見ると校舎の外の木に何者かが乗っています。
背中に無数の槍を背負った上半身裸の男が口笛を吹きながら二発目を放とうとしていました。
「ひゅーー! 一撃でやれないなんてなぁ!」
「あなた達は何者です!?」
「俺はグリムリッター六番隊副隊長アロポ! これよりこの学園は制圧させてもらうってことでここはどうか一つよろぴく!」
「グリムリッター……!」
ためらうことなく正体を明かすこの様子からして勝算ありといったところでしょうか?
「なにあいつ。レティシア、あんなのはボクだけで十分だよ」
「ルーシェルさん、油断しないでください。あの槍を放つ腕力からして、相当練度の高い魔力による身体強化を行っています」
飛び道具の使い手はルーシェルさんに任せましょう。
私はお父様達を逃がします。
「お父様、こちらへ!」
「あ、あぁ、本当にこっちで大丈夫なんだろうな?」
歯軋りをしながら私はお父様達を守りながら場を離れました。
* * *
「お子ちゃまがオレの相手だってぇ? ちょーっと舐め舐めペロペロしすぎじゃない?」
「きもっ!」
クソキモ変態半裸は木の枝に座ったままボクを完全にバカにしているよ。
魔力強化で槍をぶん投げるだけの脳筋なんて敵じゃない。
「へいっ!」
変態が槍を投げてきた。
そこそこの速度だけど矢で撃ち落として――
「あっ!?」
「へいっ! 惜しい!」
僕の矢が弾かれて槍が向かってきた。
慌ててかわした直後に槍が廊下の床をぶち抜く。
へ、へぇ。なかなかやるじゃん。
「オレの手槍投術は矢なんて生半可なもんじゃないんだぜ、ベイベー!」
「え? まさか今ので勝った気になってる? ザコはすぐ優越感に浸れるから羨ましいよなぁ」
「へいへいへいへい! クソガキちゃん、びびってるぅ!」
半裸変態が木の枝の上で体をくねらせてる。きっしょ。
こっちも魔力強化してるんだけど、どうしても質量の差が出ちゃうんだよなぁ。
矢と槍じゃしょうがないけどさ。
「アロポ! 二投目! いっきまーす!」
今度は槍を両手で投げてきた。
次々と廊下に穴が空いて校舎が壊れそう。
まるで槍の雨だなぁ。
「へいへい! オレはこれ一つでグリムリッター六番隊副隊長の座についたんだ!」
「そうなんだ。すごいね」
「相手を殺すだけならシンプルでいい! 小難しい魔術式だの練っているのはただの技術のひけらかしでしかないんだぜぇ? お前のその弓矢もなぁ!」
「弓矢が技術のひけらかし? こんなの技術でも何でもないけど? あっ! まさかそう見えちゃった? うわぁ……」
「こ、このガキめぇ……!」
青筋を立てて怒り出したよ。沸点ざっこ。
「へいへいへいへい! とにかく死ね死ね死ねぇ」
相殺するのは無理だけど回避するだけならよゆーよゆー。
ひらひらと適当に動けば後は槍が尽きる。
それよりどうしよ?
殺すだけならよゆーなんだけど、それだけじゃ足りないというか。
こういう相手ならアルフィス様はどうしてるかな?
とかやっているうちに廊下と壁はボロボロなっていくけど案の定、変態半裸の手持ちの槍がなくなった。
「おおぉっとぉ! なくなっちまった……」
「バカがバカの一つ覚えで投げまくるからだよ! ばぁか、ざっこ!」
とか煽っていたら半裸が飛びかかってきた。
廊下に刺さった槍を強引に引き抜いて振り回してくる。
「へいへいへい! 接近戦ができないとでも思ったかい!」
「わっと……」
接近戦になっちゃったよ。
でもアルフィス様と山籠もりして特訓したおかげで、こんなのは止まって見える。
「へいへいへいへいっ! 逃げるだけで精一杯かい! おチビちゃん! これじゃお前のご主人様も程度が知れるねぇ!」
「あ? 誰のことだって?」
「お前みたいなのを飼ってるバルフォント家のお坊ちゃんの器も知れたもんよなぁ!」
「おい」
僕の矢が変態半裸の片腕を吹っ飛ばした。
「うえぁッ!? うがっ……うで、うでがぁぁぁっ!」
「ゼロ距離射撃。動作に極限まで無駄をなくした上で一瞬だけ魔力で腕や足なんかを部分強化する。一瞬なら負荷もほとんどない」
「クソッ! この、このガキめがぁ!」
「あれぇ? さっきまでのよゆーはどこにいっちゃったのかな? あっ! もしかして知能と一緒によゆーもどこかに置いてきた?」
片腕をなくした変態半裸がよろめきながら、もう片方の手で槍を取ろうとする。
それすらもゼロ距離射撃でぶち抜くと、その片腕も宙に舞った。
「うぎゃあぁーーーー! いいいあいあああぁーーーー!」
「おい、死ぬ前にさっきの言葉を訂正する機会を与えてやるよ。誰の程度が知れるって? ねぇ、ざぁこ」
「ひ、ひぁぁ……」
「言葉も喋れないんじゃ本当にバカじゃん。ばぁか、ばぁか、ばぁぁーーか」
ボクは弓矢を逃げようとする変態半裸の背中に向けた。
「た、た、たすけ……」
「やーい、ざぁーこ。逃げてやんのー」
「う、や、やめ……」
ボクの矢が変態半裸の背中を撃ち抜く。
変態半裸はどしゃりと廊下の床にうつ伏せになって倒れた。
「ざぁこ」
変態半裸の死体に向けてダメ押しで言ってやった。
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