第79話 守る戦いってのはより考える必要があるんだよ

「まさか事故か!?」

「何かが攻めてきたんじゃないだろうな!」

「万全な警備態勢だと聞いたぞ!」


 普段は荒事に慣れていない貴族達が慌てふためいている。

 ここからが護衛の腕の見せ所だ。

 護衛対象が常に大人しくしてくれるとは限らない。


「無暗に逃げるな」

「なぜだ! もし何かが来ているのなら、一刻も早く逃げるべきだろう!」

「落ち着いて避難経路に向かう。全員、まとまって歩いてくれ」


 オレが指示を出すと貴族達が震えながらまとまる。

 避難経路はいくつかあるが、ここから近いところだと階段下の地下通路だ。

 この学園には緊急用のためにそういうものがいくつもある。


 オレ達は予めそれを把握して、いざという時に誘導する手筈になっていた。

 そして階段下の壁を強く押すと回転扉のように開く。


「おぉ! こんなものが!」

「さぁ、ここから学園の敷地外に出られるはずだ。急いでくれ」


 安心しきった貴族達を地下の通路へと導く。

 一列に並んで歩かせている間、ブランムドは面白くなさそうにオレを見ていた。


「こんなネズミのような真似をする必要などない。学生護衛というから少しは期待したが、やはり間違いだったか」

「あんたは有事の際には敵の殲滅しかしてこなかっただろ。こういう護衛のセオリーなんて全然知らないんだろうな。まずは安全の確保が第一だ」

「貴様ァ……」


 ブランムドが言い返せなくなって言葉を詰まらせた。

 オレは無視して貴族達の先頭を歩く。

 するとあり得ない光景があった。


 前方に人が立っている。

 この地下通路は一部の学園関係者しか知らない。

 それに出口も早々見つけられる位置にない。


 つまりあいつはオレ達より先に地下通路に入って待ち構えていたことになる。 


「おほぉ、おほぉ……すげぇな。ここで待ってればやってくるってあいつが言ってた通りだぜ」

「ここまで手を回されているとは思わなかったな」


 上半身が裸で顔には赤の模様が塗られており、まるでどこかの原住民みたいな風貌だ。

 タラコ唇のそいつはオレの予想が正しければ――


「やはり敵がいるではないか。すべて無駄だったようだな」

「待て、ブランムド。あんたは戦っちゃいけない」

「私に指図するなッ!」


 ブランムドが両手に遠慮なく魔力を込めた。

 そして炎を生成した瞬間、ブランムドを巻き込んで爆発する。

 爆風と熱から貴族達を守るためにオレはブラックホールを全開、漏れた分は更に魔剣を振って闇にかき消す。


 リリーシャの炎も手伝ってようやく相殺するに至った。

 貴族達は何が起きたのかといった感じだが、何のことはない。

 あのタラコ唇野郎のせいだ。


「おほぉっ! これで終わるかと思ったんだがなぁ! マジかぁ!」

「トラップ魔法の使い手か。特定の属性魔法に反応すれば即発動する。お前、こっちに炎の使い手が二人もいるってわかってたな」

「おほぉ、結構なお手前で……」

「お前みたいなふざけた態度のアホはもうお腹いっぱいなんだよ」


 そう、こいつは炎の魔法に反応するトラップ魔法をすでに仕掛けていた。

 リリーシャとブランムドの二人が炎の使い手だと知りながら、だ。


「ずいぶんと手を回しているみたいじゃないか。なぁ、グリムリッターさんよ」

「おほぉ、知ってたのか。じゃあ隠す意味もないわけだ……。そう! 俺はグリムリッター六番隊所属、マジックトラッパーのボンシャン! 生活のためにお前らには死んでもらうぜ!」

「その仕事、割に合ってないぞ」


 ダークニードルを放つと予想通りオレを光が包んだ。

 闇を打ち消す光属性のトラップ魔法か。


「おほぉ! 引っかかった! 引っかかった! おほっ! おほっ!」

「お前がな」

「おほっ!?」


 タラコ唇の背後の影からシャドウエントリでこんにちはした。

 そして魔剣を首筋に当てて動きを封じる。


「おほぉ、俺の負けだぁ」

「じゃあ、まずはお前に情報を渡した奴の名前を吐いてもらおうか」

「それは言えないなぁ」

「まずはどこから削いでやろうか?」


 オレがボンシャンに脅しかけていると業を煮やしたブランムドが再び魔力を展開する。

 凄まじい魔力が地下通路内に充満して、オレもさすがに危機を感じた。


「ちまちまと……情報など後からどうとでもなる! まずはそいつを消す!」

「おい! やめろ!」

「どかねば貴様ごと消す!」

「バカが! まだわかんねぇのか! こいつを殺したら地下通路ごと埋まるぞ!」


 オレがそう叫ぶとボンシャンは舌打ちをした。


「なんだと……?」

「魔力は体内から感じるものだとか偉そうなことを言っておいて気づかなかったんだな。魔法の中にはそういうセオリーが通用しないのもあるんだよ」

「爆破など私ならば造作も」

「後ろにいる貴族を巻き込んでも、か?」


 ブランムドがハッとなって今更魔力を引っ込めた。

 代わりにリリーシャがやってきて、ボンシャンの額に手を当てる。


「おほっ! お、女の子の手……」

「うまくいくと思った?」


 リリーシャの体が熱を帯びて、あがてボンシャンの体にも変化が起きた。

 皮膚がボコボコと膨らんで破裂して、まるで体内から溶かされるようにして朽ちていく。


「あ、あぁ、あげぇぇ……」


 ボンシャンが体内から熱されて静かに崩れ落ちた。

 プスプスと煙を立てて死んだ様は貴族を震え上がらせる。

 足腰が立たずに腰を床につけて呼吸を荒げている奴もいて、だいぶ刺激が強かったみたいだな。


「アルフィス、片付いたわ」

「さすがリリーシャだ。少しずつ熱を加えることで術者を死に至らしめて、トラップ魔法発動を回避したか」

「まぁね」


 そう言ってリリーシャは父親を見た。

 自分が強行していたら間違いなく貴族達が死んでいたが、娘のおかげで誰も死なずに済んだ。

 その事実がプライドが高いブランムドにとってはかなりの屈辱のはずだ。


「おのれぇ……! ちょ、調子に……乗るなぁ……!」


 怒りのあまり声も出せないみたいだ。

 うちの父親もそうだけど、お前らはもう少しアンガーコントロールをすれば原作とは違った結果になるぞ。

 感情で破滅することほどアホらしいことはないからな。


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リリーシャパパ、一本取られる。


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