第65話 リンリンがるんるんしてる
一夜にしてムトー派の連中が退学になったと学園内ではまたもや大騒ぎだ。
夜遊びしている最中、酔っ払いに絡んで重傷を負わせたせいということになっている。
奴らの日頃の行いのおかげで誰もそれを疑う人間はいない。
王国裁判にかけられて死刑になるだの強制労働だの噂に尾ひれがついていた。
学園ブランドがまた一つ落ちてしまったが、これはオレの責任じゃない。
ムトー派がガレオをボコって殺しかけたのは事実だし、どっちに転んでも変わらないんじゃないかな。
もちろん表向きに発表されているものと違って、ムトー含む元召喚憑きは身柄を拘束されている。
その後の処遇は知らない。
どこかのいかれた魔法研究所の所長の実験台になっていてもおかしくないな。
これでひとまず三強の一角が崩れたわけだ。
残り二つに関しては今のところ関与する予定はない。
シェムナ派が片っ端から決闘をふっかけているくらいでエリク派は今のところ大人しい。
学園内で問題を起こすようならそれは生徒会が対処すべきだ。
「アルフィス!」
「おっと、ガレオ先輩か」
オレとルーシェルが廊下を歩いているとガレオが後ろにいた。
「俺はルビトンさんの尊厳を踏みにじったあいつらが許せなくてな。結果は知っての通り、返り討ちだ」
「それで?」
「多くは語らねぇ! クソありがとうな!」
それだけ言ってガレオは走り去っていく。
あまり喋りすぎると謎の失踪を遂げるはめになるからな。
ガレオもそこはわかっているんだろう。
そのルビトンは今日、退学届を取り消したらしい。
何があったのかは知らないけど、学園を卒業しておいて損はないからな。
あの人は生徒会三年の執行部だし、いてもらわないと学園としても困るだろう。
どのみち退学届なんてなかなか受理されなかった可能性がある。
「アルフィス様、残りの勢力もぶっ飛ばしましょうよ」
「その必要はない。オレがムトー派を潰したのはガレオ先輩の身の危険を予め察知していたからだ」
「あ、そういえばどうやってそれを知ったんですか?」
「ガレオ先輩とルビトン先輩の関係は知っていた。ルビトン先輩が決闘で負けた時点でガレオ先輩が何らかの行動に出ると思ったんだよ」
ルーシェルがふえぇーなんて言って感心している。
偉そうに言ってるけどただのゲーム知識なんだよな。
ガレオとルビトンのサブイベントは別に用意されていたが、今回は違った形で処理された。
これはアルフィスルートだからな。
そんなことより今日は護衛選抜試験の参加者を決めることになっている。
オレは教室に戻ることにした。
* * *
「皆も知っての通り、近々護衛選抜試験がある」
リンリンの発言で教室内がざわつく。
予め伝えられていたことだけど、いよいよ試験日が迫ると緊張するんだろう。
参加する気満々の生徒、しない生徒、したいけど勇気が出ない生徒。色々だ。
オレはもちろん参加する。
守るものがある状況での戦いはなかなか経験できないからな。
単なる戦いとは訳が違う。
それにこれほど得手不得手が明確に分かれる戦いもなかなかない。
例えばヴァイド兄さんなんかは絶対に向いてないと思う。
敵にばかり興味を持って護衛対象を疎かにするのが見えている。
ミレイ姉ちゃんはあれでいて割と抜け目がないからしっかりやり遂げるかもな。
ギリウムは慢心して失敗しそうだ。
あれ? うちの家族で護衛ができそうなのってミレイ姉ちゃんだけか?
世界王は護衛対象ごと恐怖の波動でびびらせて本末転倒だし、母さんはそもそも戦いに向いてない。
尚更オレがやるしかないじゃん。
「上流階級の方々とお近づきになれる機会だし、そちらに進路を考えている者もいるだろう。しかし以前から伝えていた通り、定員は各クラスにつき5名となっている」
「先生! だったらそのうちの二人は私とアルフィスで決定よ!」
「リリーシャ、まだ説明している途中だ」
なんでオレが確定してるんだよ。いや、参加するけどさ。
リンリンはコホンと落ち着いてから、ジロリとクラス内を見渡す。
「では参加希望者は挙手しろ」
クラスメイトが一斉に手を挙げた。
大体半分程度ってところか。思ったより多いな。
ん? あれはエスティか? 意外だな。
「ふむ、なかなかの志だ。しかしやはり定員オーバーだな。しかたない、ここは公正に決めよう」
参加者達全員が嫌な予感を感じ取っただろう。
何せこの教師はすぐに力技での解決を図るからな。
「先生! クラスメイト同士での戦いならすでに結果は見えているわ! 私とアルフィスに勝てる生徒がいるとでも!?」
「聞き捨てなりませんわ、リリーシャさん。あなた、私に負けたでしょう」
「レティシア、たった一回勝ったくらいでもう優劣がついたつもり?」
「二人とも、ボクを忘れてギャーギャー言える立場? 枠はボクとアルフィス様で決まってるからせいぜい残りを争いなよ」
お前らマジでうるせぇよ。
話が進まなくてリンリンが困っているだろう。
「三人とも、説明の途中だ。座れ」
「「「はい」」」
いい加減にしないとリンリンがキレるぞ。
怒らせたらいかにも怖そうで本当に怖いんだからな。
「……えー、やり方は他でもない。参加希望者は全員、私と戦ってもらう」
ほらな、とんでもないことを言い出した。
護衛選抜試験なのになんでリンリンが戦う必要があるのか。
そんなことはたぶんあまり考えてない。
これには当然クラスメイト達が難色を示す。
「リンリン先生に勝てるわけないですよ!」
「先生、元宮廷魔術師でしょ!」
「もっと他に方法があるはず! ジャンケンとか!」
いや、ジャンケンだけはない。
発言したのはクラスの男子生徒だ。
そんなふざけたことを言うもんだから、ほら。
リンリン先生の目つきが変わった。
「ほう、ジャンケンか。命を守る大切な仕事をする人間を運頼みで決めるメリットを提示してみろ」
「あ、いや……」
「理解したならとっとと訓練場に行くぞ。この時間は第五訓練場が空いていたはずだ」
「はい……」
リンリンが理屈と圧で生徒を黙らせた。
こうしてリンリンがるんるんしながら生徒達を引き連れて訓練場へ向かうことになる。
「あのぉー、アルフィス様。あのリンリンって強いんですか?」
「クソ強いぞ。オレは攻撃をかすらせてしまったが、少なくともあのムトーを無傷でねじ伏せられるくらいにな」
「それってデスエルなしの場合ですよね?」
「ありの場合に決まってるだろ。いい機会だからお前は宮廷魔術師の実力を知っておけ」
リンリンがオレに対して三強とは戦うなとか言ってたのはハッタリでも何でもない。
自分がなんとかできると思ったから言ったんだろう。
「さぁ第五訓練場についたぞ。ふふふ……」
リンリンの謎のテンションに参加希望者達は引いた。
これからどんな戦いが始まるのか、考えたくもなかったんだろう。
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