第64話 きっちり返してもらうぞ

「オオオオォォォー……!」


 倒れているムトーからデスエルが立ち昇り、苦悶の声を上げて消えていく。

 通常、契約者が倒されると悪魔も消滅する。

 こいつにもその時が来たようだな。


「お、おのれ、小僧……!」

「人間にベッタリくっついて寿命だけ貪り食おうなんて甘いこと考えているからだ」

「人間と同時に……この私も斬るとは……」

「お前が見込んだ契約した人間だろ。運命も一蓮托生ということで諦めろ」


 ボロ切れみたいなフードを被った髑髏の顔をしたデスエルがこちらに手を伸ばしてくる。

 こいつはいわゆる精神体で、物理的な攻撃は一切効かない。

 だから仮に討伐するにしても限られた方法や人間にしかそれが叶わず、時代が時代なら国ごと滅ぼされていた。


 人間と契約して寿命を貪り、自分は労せずして滅びゆく様を楽しむ。

 契約者を見限れば捨てて次の宿主を探す。

 これだけ見るとうちの魔剣も似たようなものだけどな。


「下らんのう。何が魔界三十二柱じゃ。こんな手合いばかりだからわらわは相手にせんかった」

「魔剣ディスバレイド……! 調子に乗るな! 私は二十八柱……これより先はこうもいかんぞ……」

「はいはい、わかったわかった。下らん下らん、消えろ。目障りじゃ」

「くぅ、ぬおぉぉ……!」


 ヒヨリに煽られて苦しんでるみたいに見えるが、単に限界なだけだ。

 オレは魔剣にエンチャントしたブラッドソードでデスエルを一刀両断した。


「ぬぐあぁーーーー……!」

「オレから持っていった寿命も返してもらうぞ」

「ま、さか、私と、同じよう、な、力を……な、にも、の……」


 一緒にするなよ、と言いたかったがデスエルが完全に消え去った。

 その際に光の粒子が空一面に広がる。

 あれはデスエルが今まで奪ってきた寿命だろう。


 デスエルに寿命を奪われた人達はすでにこの世にいないが、オレの分だけきっちり回収させてもらった。

 あとはルビトン先輩他、決闘した生徒達くらいか。光の粒子が学園の寮に向かって飛んでいく。


 残ったものは空中をさ迷い、大半がどこかへ飛んでいったがいくつかはムトー派の奴らに吸い込まれていく。

 オレに胴体を切断された奴はきっちりくっついて、怪我が完全に消えている。

 そういえば魔剣で消滅させるのを忘れていたな。まぁいいか。


 デスエルが奪ったのはあくまで寿命であって生命力じゃない。

 寿命は生死の概念を無視するみたいだな。

 これはオレも知らなかった。


「う……何が、起こった……」

「ムトーさん?」

「ア、アルフィス……様……」


 起き上がったムトー派の元召喚憑き達はだいぶ混乱しているみたいだ。

 ハイになっていたところでオレに殺されたんだからな。

 起きてみればすべてが終わっていたんだから、戸惑うのも無理はない。


「どうやらムトーにも寿命が与えられたみたいだな。で、お前らはどうする? もう一回死んでみるか?」

「申し訳ありませんでしたッ! 俺が間違ってました! どうか、どうか命だけは!」


 三人がものすごい勢いで頭を下げた。

 あれだけイキり散らかしてたくせになかなかの変わりようだな。


「ひとまずガレオ先輩に頭を下げておけ。お前らが殺しかけた先輩だぞ」

「はい!」


 三人はガレオに謝った。

 だけどガレオはそんなものよりオレが気になってしょうがないみたいだ。

 そりゃ目の前で惨劇が起こるわ魔界三十二柱だの出てくればそうなる。


 そのガレオがオレをまじまじと見つめながら警戒しつつやってきた。


「お前、マジであの化け物をやっちまったんだな……。こいつらを躊躇なく殺すし、これがバルフォント家ってやつなのか?」

「そうだな。一応言っておくがガレオ先輩、このことを誰かに言いたければ言っていいぞ。その後のことは知らないけどな」

「いや、やめておく……」


 あれだけ威勢がよかったガレオも怖いものがあるんだな。

 いや、怖がってくれないと本気で始末しなきゃいけなくなるから助かる。


「ガレオ先輩、色々と言いたいことはあるだろうけどここは学園内じゃない。あいつらの処分はオレに任せてくれ」

「任せるってどうするんだよ」

「当然退学だな」


 オレが冷酷な事実を言うとムトー派の奴らが血相を変えた。


「お、おい! 退学はやりすぎだろ!」

「そうだ! 確かにやりすぎたけど、きちんと反省している!」

「いくらバルフォント家だからって許されるのかよ! 俺達にだって将来があるんだ!」


 こいつら、まったく懲りてないな。

 オレは魔剣を大きく振って地面に斬れ込みを入れた。

 ムトー派の奴らが大きく引き下がる。


「将来のことは心配しなくていい。お前らの寿命はそう長くないからな」

「え……ど、どういう……」

「デスエルが持っていた寿命はお前らに分け与えられたが、どれだけ生きられるかまったくわからない。1年か2年……もしかしたら明日にでも死ぬかもな」

「そ、そ、そんな……」


 ショックを受けるのも無理はない。

 一度死んだ奴が生き返るなんてファンタジー世界でもなかなかないんだから、ラッキーだと思って受け入れるしかないだろう。

 こいつらが自分で選択した結果に対する責任なんだからな。

 愕然とする奴らの後ろでようやくムトーが起き上がった。


「ん……あれ? 俺、なんともないよん?」

「お前の寿命もいつまで持つかわからんな」

「アルフィス! この……!」


 ムトーがいきり立った途端にオレは頬を貫かんばかりに拳を放った。

 折れていた鼻の骨に加えて歯が半分くらい飛び、廃劇場の舞台まで吹っ飛ぶ。


「あ……あっ……あひっ……」

「デスエルがいなかったらお前なんてモブもいいところだ。残り少ない人生、しっかりと弁えて生きろよ」


 ピクピクと痙攣するムトーを見たムトー派の奴らが哀れみの目を向けている。

 こんな奴に従っていたのかと後悔しているのかもしれない。

 今の一撃で更に寿命が減ったかもしれないが、これこそ正当防衛だ。


「ム、ムトーさん……」

「あんなに弱かったのか?」


 今頃になって現実を理解し始めたみたいだな。

 ムトーは舞台の中心で寝そべっていることだし、これで少しは楽しめたんじゃないか?

 寝そべり役者としてなかなか目立っている。


 こんなボスの情けない姿を見たからにはもうムトー派だなんて気取っていられないだろう。


「に、逃げろッ!」


 ムトー派幹部の言葉を皮切りに全員が一斉に逃げ出す。

 予め逃げ道に置いておいたシャドウサーヴァントと入れ替わって回り込んだ。


「うわぁ! た、助けて!」

「そもそもお前ら、まともに逃がしてもらえるとでも?」

「反省してる! してます! これからは分相応に生きます!」


 オレはあえて笑ってやった。

 バカどもが安心したのか、少しホッとしているみたいだ。


「なんでオレがお前らの態度で裁量を決めなくちゃいけないんだよ。ふざけるのも大概にしろよ。特に元召喚憑きのアホども、お前らは死ぬまで実験体だ」

「ひっ!」

「どうせ寿命も長くないんだからな。いい余生だろ?」

「あ、悪魔だ! 人間じゃない! こんなことが、ゆ、許されると思って、思ってるのかっ……!」

「悪魔の力を借りておきながら、ひどい手のひら返しだな。言っておくがバルフォント家は悪魔なんて生易しいものじゃないぞ」


 オレがそう言い切ると、ムトー派の奴らは顔面蒼白だった。

 さてと、召喚憑きの奴らはミレイ姉ちゃんに引き渡すとして他の奴らはどうするか。

 退学は当然として、無事で済ませてやるつもりはない。

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