第62話 召喚憑きもピンキリなんだよなぁ
この場にいるのは満身創痍のガレオとムトー他有象無象。
ガレオを捕えている蜘蛛の糸を放っているのはムトーの手下だ。
オレが魔剣で蜘蛛の糸を斬り裂くと、ガレオが解放された。
倒れてくる体を支えるとガレオがうっすらと目を開ける。
「ア、アルフィス……なんでここに……」
「ムトーのたまり場なんていくらでも調べられる。来てみたらすごいことになってるな」
「アルフィス、に、逃げろ、あいつらはすでに人間じゃ……」
「そんなわけないだろ。オレから見たらあいつらはまだ人間だ」
ガレオがフッと笑う。
オレがルーシェルに指示を出すとガレオの体中の打撲などの怪我が消えていく。
今のルーシェルの力なら完治は難しくても歩けるくらいには回復しただろう。
「立てるか?」
「あぁ、本当にすまねぇ……。あいつ、ムトーがルビトンさんをコケにしやがって……」
「じゃあ、オレが代わりに何とかしてやるよ」
「……わかった」
ガレオを後ろで休ませるてから、オレはムトー達を真っ直ぐ見据えた。
召喚憑きがムトーを含めて4人か。
残りはガレオにやられたみたいだな。
「おい、アルフィスとか言ったな。お前、そこそこ有名だがさすがに無謀ってのは考えなかったのか?」
「クックックッ……。下駄を履かせてもらってご満悦だな。ちゃんとよちよち歩いてるじゃないか」
「なにぃ!」
「言葉通りの意味だよ。お前らなんか召喚がなかったら全員ガレオ先輩に手も足も出なかったザコだ」
オレが露骨に煽ると手下の三人がそれぞれ再び戦闘態勢に入った。
オレの見立てでは召喚憑きなしだと、こいつらはガレオに倒された奴らと大差ない。
オレは一人ずつ指した。
「お前は死霊蜘蛛アラクネル。死霊が融合して作られた糸は単純な物理的な力じゃ破壊できない」
「し、知ってやがったのか」
「そっちのお前は魔装兵グラドーン。魔界の特殊な金属で作られた装甲には大砲すら通じない」
「へぇ、勉強してるんだな」
「最後のお前は骸蜂ボーネットクイン。刺された箇所から急激に腐敗して死に至らしめる魔界の厄介な昆虫型の魔物だ」
「一年がそれを知っているとはな」
なにを上級生面してやがる。
普通の神経をしていたら実力差くらい肌で感じそうなものだが、今のこいつらは召喚憑きになったせいで感覚が麻痺してる。
悪魔と契約したことによって全能感で満たされて怖いもの知らず状態になっていた。
これが召喚憑きの怖いところだ。
「ルーシェル、どれか選ばせてやる。どれとやりたい?」
「えー? じゃあ、あのグラドーンでいいですか?」
「意外だな。お前ならあの蜂の虫ケラ野郎を選ぶと思ってたんだがな」
「一応接近戦の実戦経験を少しでも積んでおきたいんですよ」
ルーシェルはオレのアドバイスをちゃんと聞いているいい奴だ。
まぁあんな勝ち戦確定のザコじゃ大した経験値にならないだろうけどな。
オレにやる気を見せつつ楽な道を選ぶという小悪魔ならぬクソ天使。
嫌いじゃないぞ。
「おいおい、さすがに舐めすぎなんじゃないのか? ムトーさん、こいつら殺していいですよね?」
「んー、まぁ不審死でどうとでもなるかぁ……」
「ムトー劇団は楽しいをモットーに、でしょ?」
「そうそう、じゃあ適当にやっちゃっていいよん」
ムトーと話し終えた男が口から糸を吐き出した。
オレの全方位を覆うようにして捕らえるつもりだろうがこいつ、アホなのか?
「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ! いけぇ!」
もう一人の蜂野郎が蜂をオレにまとわせてくる。
蜘蛛の糸で閉じ込めつつ、オレを蜂に襲わせる気か。
「ダークスフィア」
オレの周囲を蜘蛛の糸ごと暗くすると蜂達の動きが一斉に鈍る。
こいつらの弱点は暗闇での活動ができないことだ。
もちろん普通の蜂とは違って夜になった程度じゃ問題ないが、真の暗闇となると話は変わる。
「なんだ!? 黒い何かに包まれたぞ!」
「落ち着け! どのみちあの糸からは逃れられはしない!」
オレは思いっきりため息をついた。
「お前ら、成績は悪いだろ」
オレが魔剣を上方に半径を描くようにして振ると、糸が一斉にバラバラになった。
蜂はブラックホールにすべて吸い込ませて駆除する。
オレにこの手の細かい手数攻撃は効かないんだよ。
「あ、あれ?」
「オレがさっき斬って見せただろ。この糸は魔力を込めた攻撃なら普通に斬れる」
「ハッ! そういえば!」
「お前ら、やっぱり成績悪いだろ。暗記とか苦労してそうだな」
オレが魔剣を男達に向けると途端に青ざめ始めた。
後ずさりして転びそうになっている。
「こ、こいつ、やばい……!」
「どうしようか迷ったけどな。オレがこなかったらガレオ先輩は死んでいた。つまりお前らのやったことは殺人未遂ってわけだな」
「それはあっちから襲ってきたからだ!」
「少なくともガレオ先輩はお前らを殺すつもりはなかったぞ? 召喚憑きだなんて知らなかったから返り討ちにあっただけでな。現にそこで倒れている奴らは死んでない」
オレがまくし立てるとバカ三人は言葉に詰まった。
「殺すつもりはなかった! ムトーさん! 助け――」
男達が言い終える前にその胴体を切断した。
その時、男が契約していたアラクネルとボーネットクインが砂状になって空中へ霧散していく。
契約者が死亡にすれば契約悪魔や魔獣も死ぬ。
召喚されたほうもリスクを背負うわけだから、どれも簡単には契約できないはずだ。
そんな中で魔界三十二柱と契約したムトーはそれなりに持っている奴なんだろう。
「は、はぁ? もしかして殺した、よん?」
「当たり前だろ。一匹たりとも逃がすつもりはないから覚悟しろよ」
「なんで、なんでそこまでする権利があるんだよん! 殺人だよん!」
「これがバルフォント家なんだよ。安心しろ、お前らは夜遊びしすぎて失踪したってことにしてやるからさ」
ようやく事態の重さを知ったムトーは手下のほうへと目を向けた。
グラドーンがルーシェルに重い一撃を与えようとするも、あんなものは当たらない。
ひらひらとおちょくるようにルーシェルが攻撃を回避している。
「くっ! 速すぎる!」
「へっへーん! おっそい、おっそい! のぉーろーまぁー!」
「おらぁぁぁーーー!」
「はいっと」
ルーシェルがあえて男の巨大化した拳に矢を当てた。
大きな音を立てて男の拳が矢によって弾かれて、一気に体勢を崩す。
「し、しまった!」
「じゃあね、ざぁーこ」
「グッ……」
ルーシェルが男の胸を踏みつけながら脳天を矢で貫いた。
ドクドクと男の額から血が流れて完全決着したみたいだな。
「アルフィス様! ボク、強くなりましたよ!」
「そうだな、偉い偉い。だけどあんなもん勝てて当然だからな。わかってて挑んだんだろ?」
「う……まぁ、そうとも言える、かも……」
一応、雑に頭を撫でてやった。
その後ろでガレオが震えているのがわかる。
そりゃそうだろう。初めてバルフォント家の仕事を目の当たりにしたらこうなる。
あのエスティがおかしいだけだ。
あいつなんかこれを見た後にファンクラブを設立しているからな。
だいぶいかれてるよ。
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