第60話 リンリンからの忠告
「場所が生活指導室ですまないな」
リンリンが職員室であまり聞かれたくない話をするらしい。
オレとしては構わないけど、確かにこれじゃ何かやらかしたのかと思われる可能性がある。
生活指導どころじゃないことばっかりやっているけどな。
「遅くなってしまったがまずはリリーシャの件、感謝する。お前と戦ってからいい顔をするようになった」
「あいつは根は悪くありませんからね。特に最近はレティシアとライバル関係になってるようです」
「見立て通りだな。あの二人は対照的に思えるが、それこそ根は同じだ」
「負けず嫌いで何かを強く想う気持ちが強い。そっくりですよ」
特にレティシアは国、リリーシャは家というズレはあるが変わりはない。
その対象が違うだけだ。
だけどここ最近、リリーシャにはあまりそういうところが見られないんだよな。
オレに負けても大して悔しがらないどころか、たまにぼけーっとすることがある。
まぁトイレまでストーキングするような奴だからなぁ。
「話は変わるが、すでに三強のことは聞いているだろう」
「あのムトーを初めとして、急に学園内で勢力を拡大させた奴らですよね。先生が来てくれなかったら一戦してたかもしれません」
「ふとお前達のことが気になってな。来てみれば案の定だったよ」
「用件はわかってます。オレにあいつらをどうにかしろってことですよね」
オレが余裕をもって答えてもリンリンが硬い表情を崩さないままだった。
一呼吸落ち着いてからリンリンが口を開く。
「いや、三強とは戦うな」
「オレが? 三強と?」
「奴らは召喚憑……サモンマスターだろう。宮廷魔術師時代に聞いたことがあるが、サモンマスターは危険だ」
「先生らしくないですね。まさかびびってます?」
オレが軽く挑発するとリンリンにギロリと睨まれてしまった。
言い過ぎたかと反省しつつ、話を戻そう。
「先生は三強の契約悪魔、魔獣を知ってるんですか?」
「偶然な。奴らの決闘を見たが、あれはおそらく魔界三十二柱だろう」
「魔界三十二柱……。各時代の覇者や支配者が契約していたこともあると言われているアレですか」
「私も我が目を疑ったよ。この件を持ち帰って職員会議にかけたところ、やはり魔界三十二柱ではないかという結論が出た」
あのトガリが風魔マイタチと契約していたのも、ムトーが入れ知恵した結果だろう。
そうじゃなきゃ一般生徒が召喚の知識なんて持っているはずがない。
そしてムトーに入れ知恵したのはおそらく――
「アルフィス、この件は我々が預かる。お前は奴らと戦うな」
「決闘でも、ですか?」
「三強と決闘した生徒達のほとんどが恐怖して、中には自主退学する者も出ている」
「オレもそうなる可能性があると?」
今度はオレがリンリンを睨んだ。
「そうだ。お前でも奴らには勝てない」
「ハッキリ言いますね。リンリン先生はこの魔剣ディスバレイドを知ってるでしょ?」
「かつてその魔剣を打ち破ったのが魔界三十二柱の一角を宿した人間だとしたらどうだ?」
「それは怖いですね。それで先生達はその魔界三十二柱をどうするんです?」
「これはもはや学園内だけでとどまらせる問題ではないということだ」
実は魔剣ディスバレイドとエルディア帝国の歴史は正しく認知されていない。
リンリンが知っているのはおそらく間違って広まった歴史だろう。
ただそれをここで熱弁したところで信じてもらえないし、下手をしたらケンカになる。
だったら真実はオレとヒヨリだけが知っていればいい。
「むにゃむにゃ……もう斬れないのじゃ……むにゃ……」
ヒヨリが気持ちよく寝ている。
エンペラーワーム以来、まともなものを斬ったといえば魔法生物くらいだからな。
退屈させてしまって申し訳ないと思っている。
真剣な顔をして語るリンリンにも申し訳ない。うちの魔剣がこんな奴ですまん。
「当面の仕事としては自主退学しようとする者を思いとどまらせる。正しい心を持つ者を腐らせるわけにはいかない」
「リンリン先生は宮廷魔術師の時も、正しくない心を持つ奴を排除してきたんですよね。その気持ち、わかります」
「ほう、詳しいな」
「自己紹介の時に言ってたじゃないですか」
「いや、私はそこまで言ってないが……」
少し口が滑ったな。
オレのゲーム知識をうっかり喋るとこういうことになる。
リンリンは少なくとも生徒の前で、不適格な同僚の不正を次々と明かして追い出していたなんて言ってない。
こういう時は話題を変えよう。
「そういえば三強ですが」
「うみゅ」
やっべ。なんかカバンから顔を出してるんだが?
おい、マジか。
「……アルフィス。なんだそれは?」
「すみません。先日討伐した魔物がいつの間にかカバンに入り込んでいたみたいです」
「だったらすぐに討伐する」
「あ、待ってください。こいつ害意はないみたいですよ」
自分でも情けなくなるくらい稚拙なことを言ってると思う。
基本的に何かに対して焦るってことはあまりないんだが、これはまずい。
学園の退学ルートなんてゲームでもなかったからな。
「アルフィス、正直に話せ」
「えぇ、実はですね」
かくかくしかじかとばかりにリンリンにすべてを話した。
リンリンが黙って聞いている間、レベル20がカバンから出てきてオレの膝の上で丸くなっている。
やりたい放題かよ。
「そういうことか。あのミレイならやりかねんな」
「ということで何かあったらオレが責任を取るので見逃してもらえませんか?」
「私の一存では決めかねるな。他の教師達は黙っていないだろう」
「でもこいつ、めちゃくちゃ強いですよ。下手に野に放ったらエンペラーワーム以上の被害を出しかねません」
これは事実だ。
何せオレにくっついてあの研究所のアリーナから出てきたんだからな。
たまたまオレになついたからよかったものの、そうじゃなかったら甚大な被害を出していた。
「これは……本当に困ったな」
「すみません。やっぱり迷惑はかけられないので家族と相談してみます」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
オレの家族ということでリンリンは察したみたいだ。
当然それ以上は追及してこない。
ということで本当に家に持ち帰って相談したところ、翌日から学園内にペット持ち込み可の校則が制定された。
規定の条件なんかがあるにせよ、これには教師達どころか学生も困惑している。
まったく世の中よくわからんことが起こるもんだよ。
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