第58話 三強の一人が絡んできたんだが
「勝負ありです」
「わ、私が負けた……」
訓練場でレティシアVSリリーシャの決闘が行われた。
オレ達の訓練の成果をどうしても見せたいとのことでレティシアが挑んだ結果、なんとリリーシャ相手に勝ち星を挙げる。
これにはオレも予想外で、どう考えてもリリーシャの勝ちだと思っていた。
リリーシャだってさぼっていたわけじゃない。
最近はメキメキと腕を上げていて、オレもうかうかしていられないほどだ。
この上がり調子ならレティシアがリリーシャに勝つにはもう少し先かと思っていたんだが――
「レティシア、やったな」
「アルフィス様に捧げる愛の勝利です!」
「は?」
レティシアが訳の分からないことを言い出した。
決闘は自分の意思で行ったのであって、オレは関係ないはずだ。
確かにレティシアの勝ちは嬉しいが捧げられても困る。
「お姫様、アルフィス様はそんな軽いものじゃ喜ばないんだよ」
「軽い!? これでも足りないと!」
「うん、例えばボクが勝たないとアルフィス様は満足しないよ。これから見せてあげる」
「ごくり……」
ごくり、じゃないんだよ。
ルーシェルの理屈が正しいなら、レティシアがいくら勝ってもダメってことだろ。
で、リリーシャはリリーシャでめっちゃへこんで立ち上がれないでいた。
「ウソよ、私がレティシアに……!」
「レティシアはもうお前が侮れる相手じゃないってことだ。認めたほうがいい」
「うぅ、悔しい! 悔しいーーーーー!」
「ていうかお前、最近オレに負けても悔しがらなくなったよな」
そう、たまにリリーシャと戦うがこいつはオレに負けてもここまで悔しがらない。
むしろどこか満足したような顔さえしている。
これは明らかによくないと思っていたところでレティシアに負けてくれて助かった。
人間、何かしら目標がないと成長しないからな。
リリーシャにオレへのライバル心がなくなるのは非常に困る。
「そ、そんなことないわ! あぁ腹立つ! 悔しい!」
「なんで思い出して悔しがるんだよ、情緒不安定かよ」
リリーシャは頬を赤らめている。
オレの二番手でいるのはあまりよくないな。それこそ二番手貴族だ。
ここ最近はやたらモジモジしてどうも覇気がない。
「じゃあ、レティシア。次はボクと……」
「あ? なんだよ、先客がいるじゃん」
ゾロゾロと柄の悪そうなのがやってきたな。
ピアスをつけた金髪箒みたいな頭をした奴に、垂れ目で長髪の男。
前者は確かトガリだったか。こいつはゲームにも出ていたからわかる。
だけど先頭に立つ長髪の男は知らないな。
明らかにモブみたいな奴だけど、どうも雰囲気がおかしい。
立ち位置からしてあいつがボスっぽいな。
「君達ー、ここはムトー派が使うからさっさと空けてよん」
「ムトー派? あぁ、最近になって台頭してきた勢力か」
「あー、君は知ってるよ。確かアルフィスだっけ? バルフォント家のお坊ちゃまで、なぜか生徒会からも一目置かれているっていう?」
「お前は見ない顔だな」
あえて挑発するとムトーは両手の指を自分の顔に向けて変顔をしている。
こいつ、オレを舐めているというより根本的に人や世の中を舐めているタイプだな。
周囲にいる派閥の奴らが大笑いしている辺り、この派閥の知能レベルは低い。
「ね? これで忘れられない顔になったでしょ?」
「で、何か用か?」
「もー、つれないなぁアルフィス君はー。もっと楽しまないとダメだよん。人生短いんだからさぁ」
「何か用か?」
「じゃー、君達は今すぐどけて回れ右して消えるよん。理解、OK?」
ムトーはまた変顔をして腰をカクカクと揺らした。
頭おかしいんじゃねえか、こいつ。
こんなのがモブキャラで埋もれていたとはな。
どうやらムトー派はオレ達に目をつけたようだ。
というかここ最近の学園内はこいつら以外の派閥がほぼ存在しないとルーシェルが言う。
最大手だったルビトン派はすっかり弱体化して見る影もなく、今はこのムトーを初めとする三強派閥が幅を利かせていた。
「どかしたければ自力でどかしてみろよ。そんな実力も度胸もないからわざわざ交渉持ち掛けてんだろ?」
「イキるねぇ、アルフィス君。そうくると思ってすこーしだけ現実を教えにきたよ。おい、トガリちゃん」
ムトーが呼ぶとトガリがずいっと出てきた。
こいつ、典型的なチンピラキャラだけど誰かの下につくイメージがなかったな。
ガレオとキャラが被ってるけど、あっちと違ってこっちは典型的な敵キャラだ。
「おい、一年のクソガキよぉ。泣かされたくなかったらとっとと譲りな」
「訓練場なら他にもあるだろ。そっちこそ、そのくそだせぇピアスを引っこ抜かれたくなかったら今すぐ消えろ」
「あぁ!? 一年のガキ、なんつった?」
「頭だけじゃなくて耳も悪かったか。やっぱりそのクソだせぇピアスのせいで聞こえにくくなってるんじゃないか? 外してやろうか?」
オレが耳に手を伸ばすとトガリがオレの腕を掴む。
少し力を入れても動かないあたり、なかなかの魔力による身体強化だな。
こいつがこんなに強いイメージはなかったんだが。
「おい、ふざけてっとこの腕ごとへし折るぞ」
「お前、もしかして召喚憑きか?」
「あ?」
「お前程度にここまでの魔力があるとは思えないからな。そこのアホにそそのかされたか」
そう言いながらオレはトガリに腕を掴まれながらも、強引に耳に触れる。
トガリはゾッとするが、オレはあえて耳たぶに触れる程度でやめてやった。
魔力の底上げがされているが、オレから言わせれば焼石に水だな。
むしろなまじ半端な力を得たせいで不幸な未来が待っているようにしか見えない。
「冗談だよ。びびったか?」
「このガキッ!」
トガリがいきり立ったところで今度はリリーシャがトガリの手首を掴んだ。
「そんなに暴れたいなら私が相手をしてあげる」
「てめぇは確かリリーシャだったか。そこの一年のガキに泣かされたんだってな。二番手貴族のお嬢ちゃんよ」
「えぇ、そうよ」
リリーシャの目が笑ってない。
これはガチでキレてる奴だ。
トガリ君、世の中には言っちゃいけない言葉ってあるんだよ。
「アルフィス、どいて。そいつは私が相手をするわ」
「わかってる。お前に任せるよ」
「ちょうどイライラしてたところだもの。サンドバッグがほしかったの」
リリーシャが笑い、トガリと決闘を行うことになった。
いや、これは決闘ですらないかもな。処刑といったほうがいいか。
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