第57話 学園内の勢力争い、三強爆誕

 学園での放課後、とある集団が決闘を行おうとしていた。

 一つはエリク、ムトー、シェムナ。

 召喚によって悪魔との契約を済ませた彼らは学園内の派閥のトップに挑む。


 もう一つはルビトン、トガリ。

 それぞれ学園の三年生であり、現派閥のトップ達だ。

 そんな彼らがエリクに呼び出されて決闘を申し込まれたのだから、黙ってはいられない。


「一年、スカラーバに勝ったらしいな」

「ルビトン、わかりきったことをわざわざ確認するほど不安なのかい?」

「なるほど。口先は達者か」


 大柄で角刈りのルビトンは生徒会執行部三年生にして、学園内でもっとも大きい規模の派閥を束ねている。

 面倒見がよくて後輩からも慕われており、クラブ活動の魔闘部では大陸大会ベスト10の成績を残していた。

 どこからでも引っ張りだこの彼ではあるが、本人は実家の農業を継ぎたいという。

 将来は学園で学んだことを活かして農業を発展させる夢があった。


 派閥は彼が自分の意思で作り上げたわけではない。

 後輩の面倒を見ているうちに成り行きで出来上がってしまっただけだ。

 生徒会執行部に所属しているのも正義感の結果に過ぎない。


 全学年の決闘戦績二位、これは生徒会長のクライドに次ぐ。

 揉め事は決闘でというモットーに従った結果だ。

 

 そんなルビトンはエリクではなく、ムトーに視線を向けた。


「二年のムトーだったか。貴様には後輩が世話になってしまったな。いつか礼をしようと思っていたところだ」

「あぁ、あのルビトン派の自称幹部だっけ?  眠たくなっちゃうほど弱かったよん」

「ならばこちらが本気を出しても問題ないな」


 そう言うとルビトンはちらりとムトーの近くに立つスカラーバを見た。

 スカラーバ他、ムトー達に負けた生徒達は軒並み達三人のうち誰かの下についている。

 彼らは派閥を吸収して勢力を拡大していた。

 ここではルビトン派、トガリ派、エリク派、ムトー派、シェムナ派の五つの派閥のトップが睨み合っている。


「スカラーバ、貴様はそれでいいのか?」

「昔から言うだろ、ルビトン。強い奴には巻かれろってな。オレぁ甘い汁が吸えるなら誰の下でもいいのさ」


 ルビトンは諦めきったようにムトーと対峙した。


 フィールドでムトーと戦闘を開始、ルビトンは相手が後輩だからといって手は抜いていない。

 魔闘部を大陸大会にまで導いた彼の実力は本物であり、格闘を主体として魔術を使う。


 炎魔法で体温を上げることにより体内を活性化、その上で魔力強化を行うことで身体能力は爆発的に上がる。

 一撃の破壊力は学園一と評されるだけあって、拳と共に繰り出される爆破を受けて立っていた者はいない。

 すべての決闘を一撃で決めてきた彼についた異名は瞬きの拳だ。が――


「がはッ……!」

「んー、先輩も弱すぎてぇ……一撃で終わっちゃったよん」


 ルビトンが血を吐いてフィールドに突っ伏していた。

 彼が見上げるとボロボロのローブを着た死神のシルエットがムトーと重なる。

 どんな相手からも逃げず、常に弱い者を背にして立った彼は生まれて初めて震えた。


「なん、だ……それは……」

「なんのこと? ていうかぁ、先輩って……マジで弱いよんよんよん。眠くなってきちゃったよん……ふぁぁ~~~」

「クッ!」


 その後、ルビトンはムトーによって徹底して痛めつけられた。

 フィールドアウトさせず、もはや周囲にはルビトンが遊ばれているようにしか見えない。


「魔闘部って確か魔力で身体強化をして武術を使うんだっけ? こうやって……あちょー!」

「ぐぁっ!」

「ほあたぁーー!」

「ごほッ……!」


 ルビトンがムトーの蹴りを受けてふらりと倒れてフィールドアウトする。

 ムトーが飽きた頃にはルビトンの目から光が消えていた。


「飽きた。次、シェムナかエリクやっちゃっていいよん」

「フン、陰キャじみたことばっかしやがって。アタシが戦いってもんを見せてやるよ」


 シェムナの相手はトガリだ。

 トガリは髪を逆立てて耳や鼻にはピアスとやりたい放題の見た目をしている。

 ポケットに手を突っ込んだトガリはシェムナをギンと睨む。


「シェムナァ、オレの兵隊はほとんどお前にやられちまったよ。どうすんだよ……オレ、キレちまったよ。なぁ? なぁ?」

「知らねーよ。今まで散々イキって調子こいてたからだろ。負けた奴が悪いんだよ」

「だったら屈辱的に痛めつけても後悔しねぇってことだな! 風になっちまいなぁ!」


 トガリは風魔法を得意としていて、自身もそれに乗る。

 風になれとは比喩でも何でもない。

 どんな風にも乗って意気揚々と舞う彼を人は暴風族と呼ぶ。


 大体の相手は風によって立つことすらできず、舞い上げられる中でトガリの刃が襲う。

 彼はこの状況で更にナイフを投げてフィールド内に凶器の嵐をもたらす。

 学園一の命知らず、見ている者はそんなもう一つの彼の呼び名を改めて心の中で復唱した。


「うるせぇんだよ」


 が、しかし。トガリは床に叩きつけられて血を流していた。

 あまりに一瞬の決着だった。

 シェムナがトガリの首を踏んでゴキリと鳴らすとフィールドアウトする。

 そして彼女がフィールドへ出ると、息を切らしているトガリに唾を吐きかけた。


「な、何しやがる!」

「どきな、ザコ。二度とその汚い面をアタシに見せるんじゃねーぞ」

「反則だ! 何だよ、あの力は! 魔法じゃ……魔法じゃねぇ!」

「うるせぇ」


 シェムナがトガリを蹴り飛ばした。

 それから入れ替わるようにエリクがフィールドに入る。


「まったく面倒だな。トガリ先輩、認めないなら皆まとめて僕が相手をしてあげるよ」

「はぁ!? 正気か、てめぇ!」

「納得できないんだろう? だったら互いに納得できるまで続けるべきだ。違うかい?」

「上等だぁ!」


 トガリ派、ルビトン派の全員がまとめてエリクに挑んだ。

 決着までの時間はわずか30秒、その間に派閥の生徒達は命乞いすらした。

 フィールド内であることも忘れて、涙を流して失禁しながら。


 この戦いは後に学園内で魔の30秒と呼ばれるようになる。

 同時に学園内の勢力図が一気に書き換えられて、ここに新たなトップ派閥が誕生した。

 エリク派、シェムナ派、ムトー派。


 その圧倒的な強さから三強の名でくくられて、派閥への加入希望者が後を絶たない。

 虎の威を借りる者が急増して、学園内の治安に暗雲が立ち込めることになる。

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