第56話 バルフォント家の食卓
休日の夜、バルフォント家の屋敷にてオレ達は久しぶりに家族で食卓を囲んでいた。
母親のリーザニア、父親のレオルグ、長男のヴァイド、長女のミレイ、次男のギリウム、オレ。
この場に漂う緊張感は使用人達も感じているだろう。
「ちょっとー、フォーク拾って―」
「はいっ!」
「ありがとー。お父様がお給料アップするってさー」
「えっ」
凄まじい速度で近くにいた使用人がミレイ姉ちゃんに落ちたフォークを渡した。
もちろん給料アップとかあるわけがない。
レオルグがギロリとミレイを睨む。
落ちたフォークを使うなよとか前世のオレなら思ったが、山の中で暮らしたおかげでそんな考えは消えたな。
そんなことを気にしているようじゃ、少なくともヴァイド兄さんのようにはなれない。
あいつなら汚いものを食べたところで腹一つ壊さないからな。
「そういえばよぉ、父上。ついに城が完成したんだ。その名もギリウムキャッスル! これでオレも一城の主だぜ」
「ほぉ、それはめでたいな。場所は東側のギアース国との国境付近だったな」
「おうよ、あの国がまた調子こかないようにしっかりと見張ってなきゃな。なぁ、父上。俺ってどこかの末っ子よりがんばってると思わないか?」
「お前は相応の結果を出している。素直に誇れ」
ギリウムがニヤけながらオレを横目で見てくる。
なんで楽しい休日の夜にこんなカス兄と過ごさなきゃいけないんだよ。
子どもの頃に痛めつけてから極端に調子こくことはなくなったけど、隙あらばこうやってマウントしてくる。
「なぁ、アルフィス。お前、学園生活はどうなんだ? 決闘戦績は?」
「知らん」
「おいおい、それじゃ舐められまくるだろぉ。お前が舐められるってことはオレが舐められるってことなんだわ。オレなんか一年の時にはすでに三位だったぜ?」
「そりゃすごいな」
オレから言わせれば一年の時点で一位になれない時点で終わっている。
決闘じゃ魔物は使えないから素の実力が試されるから仕方ないな。
今も魔物集めに熱中しているんだろう。
「オレなんかすでに3000体の魔物を集めたぜ。すでにギリウムキャッスルに配備しているし、その気になればいつでもギアース国を滅ぼせる」
「今はあの国は何もしてないだろ。それに警戒すべきはそっちじゃない」
「あ? どういうことだよ」
「お前、本当に何も見えてないんだな」
オレが挑発するとギリウムが胸倉を掴んでくる。
ちょっと煽るとすぐこれだ。
「調子に乗ってんじゃねぇ。ガキの頃とは違うってところを見せてやろうか?」
「離せよ」
「ぐああっぁぁぁッ!」
ギリウムの手首を握り潰さんばかりに握ると悲鳴を上げてうずくまる。
弱いくせにイキるからだ。
「食事のマナーも守れない奴は消えていいぞ」
「て、てめ……がぐッ!」
膝をついてオレを見上げるギリウムの顎を蹴り上げてやった。
床に大の字になって倒れるギリウムに対して使用人達が悲鳴を上げる。
オレは気にせず着席して食事の続きを楽しんだ。
「アルフィスったらやんちゃなんだからぁ」
「ふっ……」
ミレイ姉ちゃんはいつもの調子、レオルグはただ笑うだけだ。
ヴァイド兄さんは黙々と骨付き肉の骨ごと噛み砕いている。
つまりこんな風景は日常だ。使用人達は慣れないみたいだけどな。
「ところでミレイ、召喚魔術の研究を引き受けたそうだな」
「そうなの、お父様。アルフィスがベロチューさせてくれないのに引き受けたのよ。私、偉くない?」
「進捗はこまめに連絡しろ」
「はぁい」
姉の発言を軽くスルーするのもさすがの父親だ。
母親なんか完全に存在感がない。
いつもニコニコしてレオルグに付き従う存在になっているから、しょうがないんだけどな。
「先日、ヴァイドとアルフィスが任務で捕獲した男にすべてを吐かせた。なかなか下らんことになっているようだ」
「じゃあ、やっぱりオールガン国が何か企んでるの?」
「現段階ではあえて言わんがな。実に下らん……下らん……下らなすぎて……」
ここでオレ達は耳を塞いだ。
同時にオレ達も波動を放ってレオルグを包み込む。
「怒りを抑えられんわッ! 隣国戦争で中立面した腐れ弱小国がよぉ! よくも私の庭をッ! どこの誰様気取りでいやがるんだクソがぁッ! どこのぉ! 誰様がぁッ! この私の庭を荒らしていいとぉ! 言いやがったんだぁ!」
レオルグの罵声と共に漏れ出る恐怖の波動は使用人達が直に受けると一斉に自害してしまう。
それでも三人がかりでようやくって感じだ。
かすかに漏れた波動が使用人達に触れて、即涙を流して座り込んで震えてしまった。
ちなみに母親のリーザニアは笑顔を崩さないまま食事をとり続けている。
そしてレオルグの怒りが収まった後、そっと寄り添う。
割とこれが日常風景だ。
「あなた、落ち着いて。あなたはいつだって頂点なのだから見苦しい真似をしてはいけないわ」
「そうだな、すまない。リーザニア、心配をかけてしまったな」
「いいの。私があなたを支えているんだから……」
この世界で唯一、あの母親は恐怖の波動が通じない。
愛の波動を持つ彼女はいかなる恐怖も乗り越えるってか。
「そう、私は常に冷静だ。冷静にどうすべきか考えよう。もちろん対策などではない。わかるな?」
「どう始末をつけるか、ただそれだけだ」
「ヴァイド、そういうことだ。長男のお前が真っ先に答えてくれて嬉しいぞ。ハッハッハッ!」
さっきとは別人のようにレオルグが機嫌よく笑う。
ホントにこいつは小物だな。
少し煽てられただけでこれだもんな。
「いつも通りでいいだろう。こちらから先手を打つ」
「うむ、ヴァイド。それでいい。それでこそバルフォント家だ」
どう始末をつけるか。
それは例えるならネズミをどういたぶろうかという話でしかない。
とても家庭の食卓で上がる話題じゃないんだわ。
「もゆーもゆー」
「モユ、食いたいなら食え」
ヴァイド兄さんについているのは魔法生物レベル25だ。
あれからヴァイド兄さんをマスターと認めたみたいで、すっかりなついている。
名前までつけているし、ちゃっかりはまってるのが少し面白い。そのまんまだけど。
そんなことより始末をつける方法か。
まぁオレもしっかりと真剣に考えてるんだけどな。
「父上、一つ提案があるんだがいいか?」
「アルフィス、珍しいな。言ってみろ」
オレは一つ思いついた。
オレがアルフィスである以上、アルフィスルートをどう開拓するかも自由だ。
つまりここから先の展開はオレ次第、どうせなら楽しまないとな。
オレが考えた案を話すと家族全員が黙った。
「それはリスクがある」
「ヴァイド兄さん、オレ達にそんなものがあるのかよ? これが一番効くんだよ」
オレがそう言うとレオルグがフォークを肉に豪快に刺した。
使用人達がまた震える。
「アルフィス、いいぞ。採用だ」
「ありがたい」
「身の程知らずのクソどもにはそれが一番だ。この私の庭を荒らしたことをたっぷりと後悔させてやろう」
レオルグがガツガツと肉を口に運ぶ。
機嫌も食欲も高まったレオルグはこの日、フォークを拾った使用人の給料を上げた。
これにより使用人は田舎で暮らす家族に多くの仕送りをすることができたという。
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