第53話 魔法生物Lv18
「おい、実験とか知らんぞ」
「じゃあベロチューのほうがいい?」
クソが。
不本意すぎてイラついていたけど、その実験内容というのが魔法生物の戦闘実験というからやってやる。
ミレイ姉ちゃんがこの魔法研究所で作っている魔法生物は現在レベル1から20までいるようだ。
「アルフィス達には魔法生物の戦闘データ収集をお願いしたいの」
「オレ達がレベル20まで戦えばいいのか?」
「あ、たぶんアルフィスはいいところレベル18くらいが限界だと思う。レベル20はヴァイドお兄ちゃんが戦ってもらうわ」
「……ほぉ」
オレは思わず魔剣を強く握った。舐められたもんだな。
いつもはオレを持ち上げまくっているミレイ姉ちゃんとは思えない言葉だ。
ミレイ姉ちゃんの話では一般の冒険者が討伐できるのがレベル3までらしい。
セイルランド学園の生徒でもせいぜい6前後で魔術師団でも10程度。
10以降は魔術師団が複数人がかりでも討伐に苦労するし、下手をすれば全滅だ。
つまりオレの強さは魔術師団の魔術師複数人程度と換算されているみたいだ。
ミレイ姉ちゃんはオレがエンペラーワームを討伐したことを知っている。
その上でのレベル18なんだから、20となると国家規模の戦力クラスなんじゃないのか?
いずれにせよ実の姉に舐められたままじゃ気がすまない。
「ミレイ姉ちゃん、レベル20と戦わせてくれ」
「ダーメ。言っておくけど決してアルフィスを過小評価してるわけじゃないのよ。レベル18なんて私がアルフィスくらいの歳じゃ敵わなかったと思うわ」
「そんなにか?」
「レベル18となるとエンペラーワームに勝てるほど強いの」
オレはあのエンペラーワームと戦った時のことを思い出した。
巨体から繰り出される強烈な一撃、地中を食い進んで縦横無尽に駆け回る獰猛さ。
なるほど。あれ以上か。
「わかった。レベル18を頼む」
「うん、いい子ね。大好きよ、アルフィス」
「いいから案内してくれ」
ミレイ姉ちゃんに案内された場所はドーム状のバトル施設だった。
ここにもセーフティフィールドが張られていると聞いてオレは拍子抜けする。
「セーフティフィールドが張られてるならレベル20でもよくないか?」
「実力差が開いてると実験にならないでしょ」
「言ってくれるな」
ミレイ姉ちゃんは知らないが、ここはゲームでも存在した場所だ。
奥に進むほどレベルが高い魔法生物がひしめいている難関ダンジョンだったな。
それに加えて中学生が考えたようなクソダンジョンだから、プレイヤーからの評判はすこぶる悪かった。
「じゃあレベル18、ゴォーーー!」
扉が開いて出てきたのは六面体のクリスタルが胴体、手足、膝とパーツごとに分かれているゴーレムだ。
それぞれがかすかに浮いていて、完全にくっついてるわけじゃない。
「アルフィス様! ぶっ潰しちゃってください! ぶっっ潰しちゃってぇくださぁい!」
「ルーシェルちゃん、気合い入りすぎ」
ルーシェルがミレイ姉ちゃんの淫行に業を煮やしているな。
さて、やるか。こいつの名前は確か――
「それはシャイニングゴーレム。光属性の魔石から生み出した魔法生物よ。魔術師30人に対する推定殲滅時間はおおよそ三分、闇属性相手の勝率は99%!」
ミレイ姉ちゃんがニヤニヤしてやがるな。
たぶんオレがボロクソに負けた後、慰めにかかるはずだ。
辛勝で傷ついてもそれは達成できる。
昔、オレがヘマをやって傷ついて帰ってきた時には全身を舐め回そうとしてきたからな。
傷口を舐めたかったんだろうが、もはや性犯罪者だ。
「さぁシャイニングゴーレム! やっちゃいなさぁい! はぁはぁ!」
声が上擦っていてキモいんだが。
シャイニングゴーレムの手足が分離してまるでビットのごとくオレを光線で狙い撃つ。
オレが身をひるがえして回避するが、光線が曲線を描いてオレを狙う。
こいつは確かに強い。
あのエンペラーワームじゃ攻撃の発射点が多すぎて逃げ切れないし、余裕であの体を撃ち抜く。
何よりこいつは生体感知、言い換えれば魔力感知をしている。
「シャイニングゴーレムは魔力感知するから逃げても無駄なの! ハァハァハァハァ! 早く、早く負けたアルフィスを愛でたいいん!」
マジでキモい姉はスルーだ。
光と闇はそれぞれ互いに弱点属性となっている。
つまりどっちも受ければ大ダメージだ。受ければ、な。
確かに魔力感知は魔術師にとって厄介だ。
熟練の魔術師となれば数キロ圏内を魔力感知してしまうし、奇襲はほぼ通じない。
が、そんなものとっくに対策済みだ。
光線の狙いが定まらず、さっきからオレの周囲を狙い撃っている。
「あれ? あれあれあれぇ? アルフィス! 何かしたぁ!? あ……なんかアルフィスの周りに黒い霧が……」
ダークフォッグ。
オレの魔力は闇に覆いつくされていて、何人たりとも覗くことはできない。
魔力感知ができないシャイニングゴーレムは光線を当てられないというわけだ。
「この木偶の坊、ただ光線をまき散らすだけみたいだな」
「アルフィスゥ! でも、でもね! シャイニングゴーレムにはまだ」
「ダークニードル」
分離したシャイニングゴーレムの影から一斉にダークニードルが発射された。
シャイニングゴーレムの各パーツがダークニードルによって貫かれて、同時に破片を飛び散らせる。
ガラスのように床に破片が散らばった。
「これでいいか?」
「あれ、あれぇ? アルフィスったら話が違うじゃない」
「ミレイ姉ちゃん、いつのオレを想定していたんだよ。確かにエンペラーワーム戦前のオレならやばかったかもな」
ブラックホールによる対応が間に合わず、自由に飛び回る各パーツによる光線で狙い撃ちにされていただろう。
ルーシェルと一緒に山籠もりするうちにオレは極力すべてを消すことを考えた。
野生という環境において、見つからないことが最重要だからだ。
気配、呼吸、音。すべてを消す努力をしたが、どうしても見つけてくる魔物がいた。
そいつが何に反応しているのかがわからなかったけど、どうやら魔力みたいだ。
そこでオレは魔力を感知されないように工夫した。
それが今やっているダークフォッグだ。
これで身を包んでいればオレの魔力は闇に覆われて誰にも見えないし感知できない。
魔力感知に頼り切った魔術師なんかはこれだけでパニックだろう。
「ア、アルフィスったら……」
「怒ったか? それに各魔法の精度だって上がっている。ダークニードルの速度と威力はエンペラーワーム戦の時に比べたら約二倍だ」
「いとおしーーーーー!」
ミレイ姉ちゃんが窓をぶち壊してキスをかましてきた。
オレは冷静に出口へ向かうと、ミレイ姉ちゃんが床にペタンと落ちる。
そこ、破片とか落ちてるぞ。
「いったぁーーーい! これ避けるのはダメでしょーーーー!」
「自分の施設を破壊してまでやることかよ」
「アルフィスがぁ、立派に強くなっちゃってぇ……ぐすんぐすん……」
これはオレの成長を喜んでくれているのか?
それとも奇襲キス失敗によるものか?
いや、考えるだけ無駄だな。両方だ。
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