第44話 休日のお出かけくらい静かにしてくれ
「アルフィス様はね、意外とゲーム好きなんだよ。だからカジノ一択、わかる?」
「アルフィス様は真面目なお方なんです! そんな遊びなんてしません!」
休日、なんだかんだでオレは女子三人と王都に出かけることにした。
本当は訓練に当てたかったんだけど、たまにはこういう息抜きも必要だ。
それでなくてもオレはこの世界に転生してから真面目に王都を歩いたことがない。
それが集まるなり、ルーシェルとレティシアがいきなり揉め始めたんだからすでに波乱だ。
さすがオレといつも一緒にいるだけあって、ルーシェルはオレの趣向を知っている。
「へへーん! レティシアはアルフィス様のことをなーんにもわかってないね!」
「ア、アルフィス様! 本当にカジノに出入りしているのですか!?」
「いや、出入りしてない。飛躍するな」
レティシアが興奮のあまり、あらぬ解釈を始めた。
というかこいつ、ゲームだとプレイヤーが操作した時に思いっきりスロットとかやるんだけどな。
レティシア本人はあまりああいう施設は好きじゃないという設定だったはず。
ゲーム内でも難色を示していたからな。でも操作すればやってしまう。
「オレはゲームは好きだがカジノは好みじゃない。運要素が強いのはどうもな」
「ほらぁー! アルフィス様はやっぱりカジノは好きじゃないと仰ってます!」
ほらぁーってお前。
レティシアが勝ち誇るとルーシェルがぐぬぬしている。
しかしアレだな。
中央広場を待ち合わせ場所にしていると、どうしてもカップルが目立つ。
普通はカップルってのは二人一組なんだが、ここにいるのは男一人に女三人だ。
「おい、あいつ女三人連れだぞ……」
「あの歳ですげぇな」
「若い奴がけしからん! 家に帰って勉強でもしておけ!」
そりゃジロジロ見るよな。そして余計なお世話だ。
というか学園の外にいてもこういう反応されるんだな。
「下らない。行先なんて初めから決まってるじゃない」
「リリーシャ、どこか当てがあるのか?」
「アルフィスは私とやりたい。そうでしょ?」
場が凍り付いた。こいつ、炎魔法の使い手だよな?
ルーシェルが耳たぶまで赤くして、レティシアがきょとんとしている。
「リ、リリーシャァーーー! そんなふしだらなことは許さない!」
「な、何よ。あなたもやりたいなら私の後でいいわよ」
「はああぁーーーー!?」
ルーシェルが茹ダコみたいに顔を赤くしてよろよろと後ずさる。
ここにいるのは世間知らずの小娘二人と耳年増のクソ天使が一人。
オレだって思春期の男子だし、まったく意識してないわけじゃない。
「ア、アルフィス様! なんで赤くなってるんですかッ!」
「いや、別に……」
「アルフィス様がふしだらだぁーーーー! うわぁーーーーん!」
「もういいから場所を変えるぞ」
オレはルーシェルの手を引っ張って広場から離れた。
二人も空気を読んで慌ててついてきてくれたところで、さてどこへ行こう?
* * *
「だからアルフィスは私と戦いたいんでしょ?」
「いや、全然」
ひとまず適当な服屋に入ってしまったけど、ここでよかったのか?
普通はカフェだろ? それもこれもクソ天使のせいだ。
そしてリリーシャの言わんとしていることはわかっていた。本当だ。
「なんでよ。まさか怖気づいたの?」
「なんで息抜きでお出かけしているのにお前と戦わなきゃいけないんだよ。そんなもん学園でアホほどやれるだろ」
「た、確かにそうね」
「今日は休日を楽しむんだよ。お前も戦いのことばっかり考えてるから変な誤解されるんだ」
「変な誤解ってなによ」
これはこれで意味がわかってないんだな。
これ以上クソ天使に騒がれると面倒だから、オレは話題を切り替えることにした。
ここは服屋か。ファッションにはさっぱり興味がないし、どうしたらいいものか。
「アルフィス様、一体どういうことですか?」
「知らん。それよりレティシアは王女の立場でこんな外出していいのか?」
「学園に在籍している間は一般生徒と同じような活動を許されています」
「そうか。それなら今日は思いっきり楽しめるな」
よし、話題は完全に切り替わった。
じゃあ次は服だな。まったく興味がないが、女子はこういうの好きなんだろ?
存分に見て回ってくれ。
「ルーシェルは欲しい服ないのか?」
「え? ボクはぁ……」
ルーシェルの視線が泳いでしまった。
制服以外だと白のワンピースみたいなのを着ていたからな。
もしかしたらファッションに興味がないのかもしれない。
「こ、これとか?」
「なんでオレを見るんだよ」
「これはどうですか?」
「似合ってるんじゃないか?」
「ホントですかぁ! じゃあこれ買います!」
ルーシェルが喜び勇んで服を買おうとしたところで、服の値段が五桁だった。
任務の報酬があるから買えないことはないが即決していい値段でもなさそうだ。
「えーへへぇ! 買っちゃった! 着替えてきますね!」
「さっそくかよ」
ルーシェルが試着室に入っていく。
試着室の壁が回転扉になっていて人が拉致されるとかいう都市伝説をふと思い出した。
まぁあいつを拉致できるようなのはいないと信じたいが。
「これなんか私に似合わないわねぇ」
ふと横を見るとリリーシャがオレをチラ見しながら服を自分の体に当てている。
似合ってるかどうかはわからないが、それも値段の桁がすごい。
金持ちのお嬢様といえど、迂闊にお勧めしていいものじゃないな。
「そうだな。やめたほうがいい」
「なっ! なによ! 生意気ね!」
「なんでだよ」
こいつの沸点はどうなってるんだよ。
自分で似合わないって言っただろ。
「ア、アルフィス様。こちらはどうでしょうか?」
「いいんじゃないか?」
「本当ですか!? では買ってきますね!」
「え?」
おい、せめて値段を見ろ。
お姫様だからオレが金銭的な心配をすることじゃないが、明らかにブランド品のお値段だぞ。
なんでどいつもこいつも即決しやがるんだ。少しは自分を貫け。
「アルフィス様! 買って着替えたのですが似合ってますか?」
「ほ、本当に買ったんだな。似合ってるよ」
「うふふふふ、ありがとうございます!」
そりゃ意味不明な値段の服を買った後で似合ってないなんて言えないな。
ルーシェルと二人で並んで服がおニューだ。
オレの適当な判断で高い買い物をさせてしまったが、大丈夫だろうか。
オレはファッションについては本当に専門外だぞ。
「道をあけよ! ほーれほれ! シッ! シッ!」
店の外が騒がしいな。
窓から見てみると、王都の中央通りに大名行列を作った豪華な馬車が堂々と進んでいる。
その馬車に乗っている太った男が偉そうに道行く人を片手で追い払うようにして振っていた。
あれは確か――
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