第43話 学園屋上の重要文化財と世界遺産

 連休が終わって山から下りればまた学園生活だ。

 オレ達は屋上で五重の塔から四重の塔になった弁当を食べている。

 五重は多いと言ったら一段だけ減ったんだが、あまり変わってない。


「アルフィス様! 出汁巻きエッグですよ!」

「前から思ってたんだが、いつの間にこんなものを作ったんだよ。女子寮のキッチンってそんなに自由に使えるのか?」

「最初は寮母がギャーギャーうるさかったけど、味見をさせたら黙りましたよ」

「実力でねじ伏せたのか。それでこそだ」


 ルーシェルが頭をくっつけてきて大層機嫌がいい。

 それはいいんだが毎回のようにこれを処理、じゃなくて食べるのも大変だ。

 これだけでもきついんだが最近は――


「アルフィス様! お弁当をおつくりしました! ご一緒させてください!」

「レティシア、その金閣寺みたいなボックスの量はなんだ?」

「きんかくじ?」


 そう、このレティシアだ。

 最初はルーシェルだけだったんだが、レティシアまで張り切って弁当を作ってくる。

 遠巻きから男子生徒達がすごい怨念がこもった視線を送ってくるけど、これは普通にきついぞ。


「クソッ! アルフィス様、あんなにモテやがってよ」

「何が身分平等だよ。結局は貴族様ばかりモテやがる」

「でもメチャクチャ強いからなぁ。強い雄に惹かれるのは雌の本能だよ」


 妙に悟った奴もいて、昼食時は毎回カオスだ。

 そんなに羨ましいならいっそ一緒に食べようかと声をかけてやりたくなる。

 なんでこんな重要文化財みたいな弁当を二つも食べないといけないんだよ。

 そう思いつつ、断るのも気が引ける。


「はい、アルフィス様! あーん!」

「レティシアっ! そういうことはファンクラブの規定違反だよ!」

「え? 規定を熟読しましたが禁止されているのは告白などの行為では?」

「あっ……」


 そういえばこいつらファンクラブの会員だったな。

 これって抜け駆けじゃないのか?

 エスティに聞いてみたいがさすがにこの辺には――いた。

 屋上へ上がってくる階段がある建物の影から顔半分だけ出して監視してやがる。

 まったく仕方ないな。


「おい、エスティ。こっちにきて一緒に食おうぜ」

「はぅわっはぁ!」


 エスティが驚きのあまり、三回転くらいして転んだ。

 なんで歩いてもないのに転ぶんだよ。


「いいい、いえ、私は会長として!」

「クラスメイト同士で食事をするのになんの問題があるんだよ。どうしても納得がいかないなら会員も呼べよ」

「いえいえーーーーーー!」


 エスティが全力ダッシュして逃げていってしまった。

 せっかくこの重要文化財を一緒に処理してもらおうと思ったのにつれない奴だな。


「しょうがないから急いで食ってしまおう」

「学生の身分で随分と豪勢なものを食べているのね」

「また変なのが来たよ。また尾行しただろ」


 リリーシャが当然のように登場して、エアーズロックみたいな弁当を持参している。

 こいつ、前までは学食ばっかりだったくせに最近は弁当なんか持ってきてるんだよな。


「別に尾行していたわけじゃないわ。あなたが好きとか一切思ってないから勘違いしないでね。少し気になっただけよ」

「普通の人間は少し気になっただけで長距離の尾行とかしねぇんだよ」

「……ところでそれだけの弁当をどうやって食べるつもりかしら? まさか残すなんて恥知らずな真似はしないわね?」


 リリーシャがごく当たり前のようにオレの横に陣取る。

 そして豪華絢爛な弁当をチラチラと物欲しそうに見ていた。

 そんな世界遺産みたいな弁当を持ってるくせにまだ食うのかよ。


「リリーシャさん。そんなにお弁当を食べたらお腹を壊しますよ」

「あら、お姫様。勘違いしないでね。これはあくまでアルフィスに食べさせるつもりだったのよ。栄養が足りてないと、私が勝っても嬉しくないもの」

「そ、そ、それって愛妻弁当というものでは!?」

「なっ! バ、バカなこと言わないで! 別に新婚生活の予行演習じゃないわ! ちょっと作りすぎただけよ!」


 お前、オレに食べさせるつもりとか言ってただろ。

 なんか勝手に二人とも赤くなってるし、この間に食べてしまおう。


「もーー、せっかくアルフィス様との至福の時を過ごしたかったのに……」

「ブツブツ言ってないでお前も遠慮なく食べろ」


 量は多いけど味はいいんだよな。

 レティシアやリリーシャは箱入り娘かと思いきや、なかなかの料理の腕だ。

 もっとも意外なのはルーシェルで、こいつのキャラ的に料理なんて死んでもやらないんだけどな。

 オレがガツガツと食べていると、遠くから生徒達の話が聞こえてくる。


「そういえばルビトン派の幹部が決闘でやられたんだってな」

「トガリ派に続いてマジか。ルビトン派の幹部といえば学年10位以内の実力者だぞ」

「トガリ派なんか女番長に軒並みやられてほぼ壊滅状態だし、一体どうしちまったんだか……」


 そんな話を聞き流していると、屋上に男子生徒が息を切らして上がってきた。


「はぁ……はぁ……た、大変だ! スカラーバがやられた!」

「な、なんだって! 誰にだよ!」

「それが一年なんだよ! もう勝負にもならなくってさ!」

「スカラーバ派っていえばデニーロ派が消えてから一気に勢力を伸ばしていただろ……その一年ってのは何者だ?」


 おーおー、今日も学園はお盛んなことで大変よろしい。

 ぜひともバチバチやり合って成長してくれ。

 護衛選抜試験もあることだし、もしかしたら新興勢力が台頭してくるかもな。


「まぁ、なんだか物騒ですね……リリーシャさん、どうにかなりませんか?」

「生徒会としては校則の範囲での決闘なら認めているわ。それよりレティシア、私なんかに頼ってプライドはないの?」

「リリーシャさんだから、ですよ」

「え? そ、そう」


 こっちはこっちで妙な空気になっていた。

 お前らもそうやって互いに認め合ってくれ。

 そんなことより今度の休みはどうするかのほうがオレにとっては重要だ。

 山籠もりするには日数が足りないし、そうなるとバルフォント家での訓練が妥当か。


「アルフィス様、今度の休みなんですけどぉ……たまには山じゃなくて違うところにお出かけしたいなーって……」

「違うところ? 他に訓練に適した場所があるのか?」

「そうじゃなくてぇ! お、王都に買い物とか、その……」


 ルーシェルがモジモジしながらオレを買い物に誘ってきた。

 こいつがオレに休日の行動を提案するなんてな。

 よっぽど山籠もりから逃げたいのか、それともどうなんだ?


「買い物?」

「アルフィス様と?」


 おっと、これには一同弁当を食べる手を止める。

 ルーシェル、この場での発言には適していなかったな。

 なんだかオレにはこの後の展開が予想できるぞ。

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