第40話 なんだかすごいことになっちゃったぞ
オレが復帰すると学園内はエンペラーワーム討伐の件でもちきり、でもなかった。
あの件は生徒会と一部の教師しか知らないし、大騒ぎになるから外に情報を出さなかったと思える。
生徒会の誰かが漏らしそうなものだが、そこはさすが生徒会。
あのガレオでさえ口が堅いと見える。
復帰した後は学園長にも呼ばれたけど面倒だから適当に対応した。
さすがに学園をぶっ壊されるまでの被害を出すのは本意じゃないだろうし、遅かれ早かれバルフォント家がやることになっただろう。
礼は形だけ受け取っておいて、それでも気が済まないならバルフォント家に送金しておいてくれとだけ伝えた。
「レティシア、いくぞ」
「はい……!」
オレは昼休みなどを利用して、リリーシャやレティシアの訓練に付き合っている。
レティシアは元々一人で色々な生徒と決闘を行って訓練していたようだ。
ただやっぱり相手が王女とあって、どこか遠慮がちだったらしい。
それがレティシアには不満で、これでは上達できないと悟った。
そこで白羽の矢が立ったのがオレだ。
「ディフレクト!」
「甘い」
レティシアの剣に魔剣を数回ほど叩きつけるとディフレクトによる防御が崩れる。
態勢を崩したところで胴体を切断してフィールド外へアウトさせた。
「うぅ……強すぎます……さすがアルフィス様……」
「重心は安定しているが魔力強化が安定していないな。ディフレクトの場合は全身で受けることを想定して、魔力強化を行き渡らせろ」
「はい……」
「次はリリーシャか」
リリーシャがフィールド内へ入ってくる。
レティシアはともかく、リリーシャが学園で訓練をする姿を見るのは初めてだ。
この前の一件がよほど堪えたらしい。
パーシファム家は教えるだけならオレなんかよりよっぽど優秀な人材を揃えられる。
ただしこいつのことだから、すでにそんな連中は足元にも及ばないんだろうな。
上達への近道は結局のところ、相応の相手と経験を積んでステップアップしていくしかない。
オレだって最初の頃はその辺のザコモンスターを延々と狩っていたからな。
さて、オレと戦った時よりも強くなっていると思うが今回はどれだけ成長しているかな?
「手加減なんかしたら承知しないわよ」
「じゃあ瞬殺すればいいんだな?」
リリーシャが開幕で大小の炎球を放った。
魔力がよくまとまっていて凝縮されている。
微妙に曲線を描いているし、おそらく誘導式だろう。
あれに当たると魔力強化込みでもそれぞれが大爆発を起こして体ごと焼かれてしまう。
一発の威力が以前のフレアと同等と考えたら、先日とはもはや別人だ。
「成長したな。が……」
この段階じゃ芸がない。
オレはブラックホールを作りだしてすべていただいておいた。
こいつもいつか有効利用させてもらおう。
「今ので終わりか?」
オレが余裕を見せた時、背後から炎がバーナーのように噴出された。
さすがに不意をつかれたオレは完全には回避しきれず、左腕をかすってしまう。
いつの間にこんなものを、と思ったがおそらく炎球から散った火の粉だ。
ほんの小さな火の粉に籠った魔力を膨張させたんだろう。
「まさかこれも回避されるなんて……!」
「いや、少し驚いたぞ。じゃあ、今度はオレからいくぞ」
オレはリリーシャの真正面に突っ込んだ。
リリーシャは炎の壁で防御を試みるが、そんなものは魔剣で一閃。
そこから更に突っ込むと見せかけてシャドウエントリでリリーシャの背後を取った。
背中を一刺ししてフォールド外にアウトさせて試合が終わる。
「くっ! 全然敵わない……!」
「いや、めちゃくちゃ強くなっているな。危うく本気を出しそうになったよ」
「でも本気じゃないのね……それでこそ私の愛す……じゃなくて気になる人よ」
「訂正後がそれでいいのか?」
なんかずっと顔が赤いけど見なかったことにしよう。
これはそういうのじゃなくて炎魔法の影響なんだからな。
それにしても以前なら負けたら大泣きしていたのにずいぶんと成長したもんだ。
「さっすがアルフィス様!」
「何を言ってる。お前もオレと戦うんだよ」
「へ? いやいやいやいや! ボクがアルフィス様に敵うわけないじゃないですかぁ!」
「敵うとかそういう問題じゃなくてな。オレの従者として強くなってもらわないと困るんだ」
「アルフィス様の従者として……困る……」
ルーシェルが両手を頬で抑えて体をくねくねさせている。
なんか都合のいい脳内変換が行われている気がするな。
まったくこの色ボケにも困ったもんだ。
それでなくても今は各生徒、かなり気合を入れて訓練をしている。
なぜかというとそれは王族の護衛選抜試合のためだ。
近々、王族や貴族が学園を見学に来るらしい。
その護衛を優秀な生徒に任せることによって、学園の地位を向上させる狙いがある。
もちろん通常の護衛もいるが、やり方によっては王族に自分の存在をアピールできるチャンスでもある。
だから今回は平民の生徒も必死に訓練をしていた。
「アルフィス様、今の私は選抜試合を勝ち抜けるでしょうか?」
「レティシアか。実力だけ見れば望みはあるが、実際の試合では何が起こるかわからない。それはお前が一番理解しているだろう?」
「確かにそうですね……」
選抜試合は全学年で無差別に行われる。
だから当然三年生が有利にはなるが、二年や一年は負けても特別審査によってえらばれる可能性が十分あった。
要するに一年にしてはやるなと思わせればいい。
「アルフィス様! 選抜ファイトです! 選抜ファイトです!」
「アルフィス様がこっちを見た!」
「いえ、私のほうをガン見したのよ!」
アルフィスとかいう奴のファンクラブの連中だな。
低レベルな争いが見られるがスルーだ、スルー。
「アルフィス様。あそこにいるファンクラブの奴らはさぼってていいんですか?」
「別に全員が上を目指す必要もないだろう。というかお前も確かファンクラブに入っていたよな?」
ルーシェルがどこでそれを、みたいな顔をした。
バルフォント家の情報網を舐めるなよ。ファンクラブの会員の詳細はすべて把握している。
何をしでかすかわからないからな。
「おおぉぉーーい! アルフィス! 選抜試合では手加減しねぇけど応援はしてやる! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだぁぁーーー!」
「おおぉぉぉーーー! アルフィス! 勝てよ!」
いや、待て。
ガレオが男集団を率いて旗を持ってるんだが?
あれはさすがに聞いてないぞ。
「アルフィス様、男子にもモテモテなのですね」
「なんでだよ、レティシア。意味わからんわ」
「知らなかったのですか? リリーシャさんとの試合の時以来、男子からも支持されているのですよ」
「あーーー……あの時か」
レティシアでさえ知っているというのにこれは盲点だった。
というかあのクソミミズとの戦いで疲れていたから、それどころじゃなかったんだわ。
どいつもこいつも勝手にしたらいい。
「お前らぁ! あのアルフィスは俺と共闘して以来、その実力を認めているんだ! 腐った応援しやがったらぶっ飛ばすぞ!」
「おおおぉぉーーーー! アルフィス! アルフィス! アルフィス!」
「まったく惚れるぜ……」
もう本当に勝手にしてくれ。
ただしなんか不穏な奴が一人いるのが気がかりだけどな。
このオレが悪寒を感じるとは一体。
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