第39話 周囲にどんどん女子が集まってくる

「気がついたか」


 目が覚めると学園の医療室のベッドに寝かされていた。

 頭が冴えない状態で見渡すとそこにはリンリンがいる。

 奥には保健の教師が書きものをしていたけど、オレに気づくと安堵していた。


「リンリン先生! アルフィス君が目を覚ましたんですか!」

「あぁ、さすがは優秀な教え子だよ」

「丸一日も目がさめなくてどうしようかと……」


 オレはそんなに眠っていたのか。

 そう思って体を動かそうとすると――


「いででで……!」


 体中がものすごく痛い。

 波動に対する体への負荷が凄まじいな。

 ただこれは運動に慣れてない人が運動をすると筋肉痛になるように、慣れの問題だと思っている。

 オレの意識が途絶えたのも、波動の負荷が強すぎたせいだ。


 だからこれからは少しずつ波動に体を慣らしていかないといけない。

 それと後は単純にエンペラーワーム戦でも魔力と体を酷使しすぎたってのもある。

 あの規則性のない動きは捉えるのにめちゃくちゃ苦労したからな。


 悔しいけどもう少し体を休めないと――


「ワームキッスゥゥゥゥー!」

「うわっ!」


 ベッドの下から滑り出すように出てきたのはミレイ姉ちゃんだ。

 なんとかキスの奇襲はかわしたものの、オレの体に巻き付くようにして離れない。

 こいつ、魔法で体を半分くらい液体化させてやがるな。

 それでいて水圧がしっかりかかるからまるで振りほどけない。


「なんでここにいるんだよ!?」

「だってぇぇぇぇーー! あなたが倒れたっていうからそりゃ来るってもんよぉー!」

「情報の伝達が早すぎだろ。さすがバルフォント家だな」

「アルフィスがあのエンペラーワームを討伐したって聞いてね、お姉ちゃん感動とショックで失神しちゃったの! 丸一日もよ!」


 まさかベッドの下で丸一日もいてしかも失神してたのか?

 どの段階でそうなったのかわからんし計算が合わないけど、どうでもいいか。

 それにしてもまったく離れてくれないほうが問題だ。


「おい、離れろ。こっちは怪我人なんだぞ」

「抱き着きながらアクアヒールで回復してあげてるのよ」

「くっ! 理由があるだけうざったい! 水だから掴めもしない!」

「水も滴るいい女ってこと」

「うるせぇ!」


 なんてやっていると治療室にルーシェルとリリーシャ、レティシアが入ってきた。

 あらぬ誤解を招きかねない状況だがどうにもならない。


「ア、アルフィス様! 目が覚め……あーー! ミレイ! まーたふしだらなことやってる! 離れろー!」

「なんなのよ、あれ!?」

「アルフィス様から離れてください!」


 三人が姉を引きはがそうとするがまったくどうにもならない。

 こうしている間にも回復しているから余計に腹立たしい。

 姉達ともみくちゃになって、一つのベッドに何人乗ってるんだという状況だ。


「あらあら、ルーシェルちゃんとその他の方々はクラスメイト? アルフィスがお世話になってるわ。私は姉のミレイよ」

「ミ、ミレイ? 幼くして国立魔法研究所の所長の座を奪……ついたことで有名な!?」

「あなたはリリーシャさんね。パーシファム家のご高名はうかがっているわ。ご令嬢が卓越した才能の持ち主だとも……」

「あら、さすがはバルフォント家の方ね。あなたとは仲良くなれそうだわ」


 一瞬で懐柔されてんじゃねえよ。

 それよりそろそろ離れてほしいんだが。


「あ、あの! ミレイさん……さすがにこれはよろしくないのでは?」

「とか言っちゃってまんざらでもないじゃない、レティシア姫。それにパーシファム家のご令嬢……アルフィスも隅に置けないわね。これなら合格よ」

「は?」

「どの子を正妻にするかはアルフィス次第だけどね!」

「しぇいしゃいいいぃーーーーー!?」


 女子達がミレイ姉ちゃんのトンデモ発言にぶったまげている。

 腹立たしいがオレの力じゃミレイ姉ちゃんは止められない。

 昔からどんなワガママでも通してきた。


 わずか10歳で魔法研究所の所長になった際には常駐していた警備の魔術師を蹴散らした。

 その理由は魔法で遊びたいから、だ。

 クソみたいな理由で国が運営している施設を乗っ取り、実験と称して山一つ消滅させている。

 

 そして飽きたら今度は適当な人物に運営を任せて今はこの有様だ。

 こんなんでもミレイ姉ちゃんの魔法実験で生み出した数々の魔法は王都に大きく貢献している。

 王都の中心にある回復の泉の噴水や癒し効果がある大衆浴場はミレイ姉ちゃんがすべて開発した。


 もっとも、本人は「ただ面白そうだから」以外の理由はないんだけどな。

 適当に動いても結果的に国に貢献してしまっているのはバルフォント家の素質が成せる業だろう。


「コホン……諸君、特にミレイ。そろそろ離れてくれないか。一応、ここは神聖な学園内なのでな」

「リンリン先生もご一緒にどう?」

「遠慮する」


 ミレイ姉ちゃんがやっとするりと離れてくれた。

 同時にまとまっていたリリーシャ達が解けてそれぞれ床に転がる。


「いたた……まったく、とんでもない魔力ね。さすがはバルフォント家……」

「でも悪くなかったです……」

「えっ?」


 レティシアが頬を赤らめて危険な方向へ行こうとしている気がする。

 そこでまたリンリンが咳ばらいをした。


「アルフィス、今回はご苦労だった。姉のミレイもそれだけ心配していたのだから、そう気を悪くしないでほしい」

「そこが私のいいところなのよ」


 自分で言うな、ボケ。

 こんなどうしようもない姉でもちゃんとフォローしてやるリンリンは教師の鏡だな。


「エンペラーワームが迫っていたことを察知できなかったのは学園の失態だ。生徒会側にも落ち度はない。学園の教師として、生徒の世話になってしまったことについては私から謝罪しよう」

「そう畏まらなくてもいいよ。いい経験になったからな」

「そう言ってもらえると気が楽になる。後ほど学園長や生徒会からも謝罪があるはずだ」

「別にそこまでしてもらわなくても」


 その時、治療室のドアがバンと開けられてガレオが勢いよく入ってきた。


「おおおおぉぉお! 一年! 無事だったか! そうだよな! さすがは俺の後輩だ!」

「ガレオ先輩、ちょっと暑苦しいわ」

「よがっだ、よがっだぁぁぁ」


 ガレオ先輩が涙を流してオレの無事を喜んでいる。

 根は悪い奴じゃないんだよな。ただちょっとうざいだけだ。

 その後からゾロゾロと会長を含めた生徒会のメンバーが入ってきた。


「アルフィス、今回は……」

「あーもう謝罪ラッシュはいいよ。それよりまだ疲れが取れていないから寝かせてくれ」

「そうか、それはすまない」


 オレは布団を頭からかぶって潜り込んだ。

 あの戦いの反省点とか色々と考えたいからな。

 が、これが悪手だった。


「お姉ちゃんが添い寝してあげる」

「頼んでない。消えろ」

「リリーシャちゃん、レティシア姫、ルーシェルちゃん。気が向いたらいつでもいいのよ?」

「マジで失せろ」


 ミレイ姉ちゃんが布団に入ってきやがった。

 さすがに三人は入ってこないよな?

 と思ったらレティシアがオレの手を握ってリリーシャがもう片方の手を取る。


「か、勘違いしないでね! 別に好きとか愛してるってわけじゃなくて、ただ離れたくないだけなんだから!」

「アルフィス様、一生お慕いします……」

「ミレイー! アルフィス様から離れろぉーーー!」


 おい、なんかこれって色々とおかしくないか?

 唯一ルーシェルだけミレイ姉ちゃんに組みついて剥がそうとしているが、他は顔が赤いぞ?

 きっと熱でもあるんだろう。そうだろう。

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