第38話 食らい合おうぜ、地底の王。これがオレの本気だ。

 こいつは触覚で相手を感知しているから、暗闇でも問題なく動ける。

 速度も力も質量もあるから、まともにやり合ってもこっちがじり貧になる。

 しかも何度目かの地中ぶち抜きによって洞窟全体の地盤がかなり危うい。


 エンペラーワームの突撃をくらいながらも、オレは同時に斬りつけて反撃していた。

 エンペラーワームから緑色の体液が噴き出すも、致命傷には遠い。

 

「シャドウサーヴァント+ブラックホール+ダークニードル+ダークフレイム」


 シャドウサーヴァントで手数を増やしつつ、オレと合わせてダークニードルを放つ。

 更にブラックホールから飛び出すのはダークニードル、そしてダークフレイムだ。

 このダークフレイムは以前リリーシャの魔法をブラックホールで飲み込んだものだった。


 ダークホールに飲まれたものは闇属性を帯びて変換して放てる。

 そこら中にブラックホールを展開しつつ、シャドウサーヴァントとオレで徹底して集中砲火。

 シャドウエントリを織り交ぜてしまえば、暗闇中を移動し放題だ。


「ヒュルル……!」

「苛立っているのか? 洞窟内の暗闇はお前だけのフィールドだけじゃない。単純なスペックじゃ負けてるけど、こっちには手数があるんでな」


 かつて上位種を食らった王は今、バルフォント家のアルフィスに苦戦している。

 実に気持ちがいい。


 ただダメージを蓄積させながらもエンペラーワームは恐怖を感じないのか、撤退という選択肢はないようだ。

 ただ本能の赴くままに獲物を捕食する。


「ヒュルルルルァァァーー!」

「バカの一つ覚えが……」


 エンペラーワームが上方の壁をぶち抜くと、洞窟全体が大きく揺れた。


「おい、これはちょっとまずいな……」

「ヒュルルアァ!」


 エンペラーワームが曲線を描いて、今度はオレを下から突き上げた。

 オレの体が大きく吹っ飛ばされてると同時に洞窟が崩落を開始する。

 大量の岩が降り注いで、オレは魔剣で弾きつつエンペラーワームにしがみついた。


「おいおい! このまま地上まで飛び出す気か!?」


 オレの予想通り、エンペラーワームは地面をぶち抜いて地上に出た。

 その勢いで空中に舞ったオレは遠くに何人かの人影を見る。

 あれは生徒会の連中と教師か? リリーシャとガレオが連れてきたんだな。

 

「アルフィス! あんなところに!」

「あ、あれはエンペラーワーム!? あんなものが演習場にいたのか!」


 遠くからうっすらとリリーシャと会長の声が聞こえる。

 空中から落下を始めたオレは一緒に落ちるエンペラーワームを大きく斬りつけた。

 その反動でオレも後ろへ飛んでいって、地面に激突寸前に木の影にシャドウエントリで潜り込む。


 再び姿を現すとエンペラーワームが待ち構えていたかのようにまた襲ってきた。


「そうだな。もうあんな狭い洞窟でちまちま戦う必要はない」


 オレは真正面から魔剣を縦に振った。

 当然エンペラーワームの突撃に敵うはずもなく、斬られながらも激しい突撃をやめない。

 大口が目の前に迫っていよいよ食われるかとなったところで、オレは左に転がってかわした。


 オレは態勢を立て直すとエンペラーワームが目のない頭をこちらに向ける。

 何を言わんとしているかはなんとなくわかった。

 

「どうだ? 何度ぶちかましてもオレが一向に倒れんだろう?」

「ヒュルルルルッ!」


 エンペラーワームの突撃をほぼまとも受けながらも、オレはダメージをあまり負っていない。

 オレは事前にとある魔法を使っていたからだ。

 

「闇属性エンチャント……ブラッドソード」


 これがアルフィスを強敵たらしめた極悪魔法の一つだ。

 これがエンチャントされていると斬った時に相手の生命力を吸収する。

 魔剣の効果も相まってその威力が増大されていた。


 それと共にエンペラーワームの動きが鈍っている。

 それもそのはず、生命力を奪われ続ければまともに動けなくなるのは当然だ。

 エンペラーワームはオレに斬られるたびに段々と弱っていた。


「ヒュルルル……!」

「とはいえ、こんな図体の魔物を絶命させるとなるとなかなかの手間だ。あまり時間はかけられん……」


 オレは体中に波動をみなぎらせた。

 あまり長時間の使用は難しいが、今のオレなら無理をしなければ問題はない。


「なんだ? アルフィスからとてつもない気配を感じる……」

「波動……」

「リリーシャ、なんだって?」

「会長、あれは波動というものらしいです」


 そういえばリリーシャには言っていたな。

 まぁ知られたところで問題はないか。

 使いこなせるのは世界でも上澄みの強者のみだ。


「まともに攻撃をしたところでお前には再生能力があるからな。だがオレの波動は破壊、その本質はあらゆる再生を許さない。防御無視の絶対破壊だ」


 こんな化け物を一対一で相手取るのは正気じゃないが、オレの目標はこんなものじゃない。

 都市を壊滅させる化け物だろうと、王国の手に負えなかろうと。

 それをねじ伏せるのがバルフォント家だ。


「支配者たる一族たらしめるバルフォント家の恐ろしさを見せてやろう!」


 オレは地を蹴って襲いかかるエンペラーワームを真正面から捉えた。

 造作もないただの斬り込みだ。だがそれで問題ない。

 オレは力いっぱい魔剣で一閃――


「ヒュルルッ……!」


 エンペラーワームが真横に裂かれて木々を壊した。

 再びビクンと跳ねて活動を再開しようとしたがすぐに動かなくなる。

 破壊の波動が再生を否定したからだ。


「ではこの状態ならさすがにいけるだろう」


 オレはもう一度、魔剣を連続で振った。

 細切れに斬り裂かれたエンペラーワームの体がそれぞれ闇に包まれていく。

 巨大ミミズの体がすべて消えるのに数秒とかからなかった。


 その体を完全に消えたことを確認すると途端に体中から力が抜ける。

 足腰が体を支えられなくなってその場に倒れてしまった。

 情けないことにこれが波動の力を使った反動だ。


 レオルグ達ならこんなことにはなっていないだろう。

 今のオレに波動はまだリスキーな手段ということだった。


「ア、アアア、アルフィス様ァーーーーー!」

「ルーシェル、来ていたのか」


 いつの間にかやってきたルーシェルが倒れているオレに泣きすがってきた。


「こんなにボロボロになってなんでボクを呼んでくれなかったんですかぁ!」

「今回は事情があるんだよ」

「そんなこといってアルフィス様に何かあったら……うわぁーーん! あーーーん!」

「まったくうるさいな……」


 体が動かせないオレはルーシェルにされるがままだった。

 頭を胸に抱かれて涙と鼻水が落ちてくる。

 普段なら怒るところだが、今はあえて好きにさせておこう。

 決して悪い心地じゃないからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る