第37話 地底の王 エンペラーワーム

 洞窟内にいたのはアースワームだけじゃない。

 ギガントワーム、ヘルワームと色んなワームで犇めいていた。

 こいつらはここを巣にして時々地上にある演習場の魔物を餌にしている。


 正直に言ってこの程度の魔物なら一振りで決着がつく。

 特にヘルワームは三年生でも苦戦する魔物だから、それを悠々と仕留めるオレにガレオが納得いってない。


「い、一年! てめぇ、その剣はどこで手に入れた?」

「どこだっていいだろ。言っておくけどこいつは力量によって威力が変わるからな」

「ありえねぇ……。これがバルフォント家の力だってのか……」


 ガレオの顔色が青くなっていて自信喪失寸前に陥っている。

 気の毒ではあるけどこれがセイルランド学園、そして世界だ。

 こんな学園内でさえ平民から貴族まで集まって実力差を見せつけられる。


 そして学園から出たら更に上の強者が待ち構えている。

 例えば学園では実力者だったのに魔術師団や騎士団に入った途端に凡人かそれ以下なんてよくある話だ。

 ガレオは確か男爵家の息子だから、それなりにプライドはあるんだろう。


「はぁ……はぁ……」

「リリーシャ、少しは歩けるようになったな」

「うぅ……」


 プライドで言えばこのリリーシャのほうが上だろうけどな。

 二大貴族家のご令嬢が暗闇が苦手だなんて、それこそプライドが許さないだろう。

 だからこそこうやって克服しようとしている。


 いいぞ、暗闇くらい克服してもらわないと困る。

 お前にも強くなってもらわないと攻略の意味がない。

 何かのRPGで特定条件下で最凶のラスボスとなる奴がいるとしたら、オレはあえて強くするタイプだ。


「クソッ! この洞窟はどこまで続きやがるんだ!」

「どうやら着いたみたいだぞ」


 ガレオが悪態をついた時、一際大きい大空洞に着いた。

 そこにいたのはとぐろを巻いている巨大ワームだ。

 それに出くわした時、全身が押しつぶされるような感覚を覚える。


 間違いなくあれが洞窟をここまで拡大させた主であり、すべてのワームはあいつに平伏している。

 通常、ワームはキラーウルフみたいな群れを作らない。

 群れのボスという概念がないワームはそれぞれ単体で活動する。


 そんな習性の壁を超えて頂点に君臨しているのがあのエンペラーワームだ。

 かつて上位種のドラゴンをも食い殺して、中堅規模の都市を壊滅させたワームの王。

 あんなものが学園近くまで迫れば壊滅しかねない。


「な、なんだ、よ……あれ……」

「ガレオ先輩、生徒会や教師を呼んできてくれ。あれはオレ達だけでどうにかなるレベルじゃない」

「バカを言うな! てめぇが残るってのかよ!」

「下らん問答をしている暇はない。リリーシャも逃げろ」


 オレは手を震わせながらも口元は笑っていた。

 転生して以来、これほどの大物に遭遇したことがあっただろうか?

 バルフォント家の人間を除けば初だろう。


 そんなオレは体中に波動をみなぎらせていたせいか、ガレオやリリーシャを完全に圧倒してしまっている。

 この程度でビビり散らかすくらいならとっとと逃げろ。オレは無言でそう言った。


「ああぁ……あぁ……」

「リリーシャ、ガレオ先輩と一緒に逃げろ。今のお前ならある程度は暗闇の中でも移動できるはずだ」

「わ、私も」

「二度も言わせるな」


 正直に言ってこれほどの大物がいるなんて予想外だ。

 オレは魔剣を握ってエンペラーワームに近づく。

 エンペラーワームには目がついていないが、ハッキリとこちらを認識した気がした。


「ヒュルルルル……!」

「よう、退屈なザコばっかりで飽きてないか? オレの相手をしてくれよ」


 さながらこいつは地底の王ってところだ。

 もしこいつが本格的に暴れ始めたら、国家戦力を投入せざるを得ない。

 当然国王はそんな選択はしないだろうけどな。


 大方、ヴァイド兄さんかミレイ姉ちゃんが討伐に向かうだろう。

 そう、オレじゃない。


 いくらバルフォント家とはいえ、このレベルの魔物を在学中に相手にするのはオレが初だ。

 つまりここでオレがこいつを殺せばバルフォント家史上最強の座が見えてくる。


「まずは地底最強決定戦を始めようぜ! お前に勝てばバルフォント家……いや、人類最強の座が見えてくる!」


 オレが跳んだと同時にワームが突撃してきた。

 地面に激突したエンペラーワームはそのまま円形の穴を作る。

 こいつにとって地中の壁は何の障害にもならない。


「速すぎるな……どこからくる?」

「ヒュルルルルッ!」

「ぐあぁッ!」


 左の壁が爆発したかと思うとオレは側面からもろに突撃をくらってしまった。

 間一髪で食われるのを避けたが、クッソ痛い衝撃でオレは吹っ飛ばされてしまう。

 それからエンペラーワームは地中を食い進んで再び姿を消した。


「ガレオ先輩、私達も……!」

「リリーシャ! 悔しいがここは引くぞ!」


 ガレオがリリーシャを連れてようやく逃げ出した。これでいい。

 もっと低レベルな相手なら一緒に戦ってやってもよかったんだけどな。

 こいつはちょっと別格だ。


 さすがのヴァイド兄さんやミレイ姉ちゃんも、このレベルの魔物を倒したのは学園卒業後だ。

 ギリウムに至っては学園内でお山の大将をやっていたから話にならない。

 デニーロ派だのそんな次元で満足しているような奴らには想像も出来ない相手だろう。

 

「ヒュルルッ!」

「チッ!」


 エンペラーワームの突撃を回避して真上を取った。

 魔剣で大きく斬り裂くものの、この巨体には致命傷にならない。

 おまけに格上だから斬って闇に葬ることもできない。


「ヒュルルルルッ! ヒュルッ!」


 こいつは体をぐにゃりと曲げて急な方向転換もお手の物だ。

 回避したと思ったら頭をこちらに向けて速度を落とさず突撃をかましてくる。

 魔剣でガードしたものの、オレはそのまま地面に叩きつけられてしまった。


「がはッ! でかさは武器だよなぁ……! シャドウサーヴァント!」


 エンペラーワームの追撃に対してオレは分身を作って盾にした。

 エンペラーワームの衝突と同時に分身が一瞬にして消えてしまう。

 シャドウサーヴァントも長時間の維持は難しくてこれだけの猛攻の中、維持するのは難しい。


「やれやれ、分身だってタダじゃないんだぞ」


 エンペラーワームはまた地中に潜っていく。

 こんなに高速で地中をお構いなしに動く相手にピンポイントで当てるのは難しい。


 オレは魔法を駆使して戦っているが、こいつは図体のでかさにものを言わせて暴れまわっているだけだ。

 つまりそれだけ生物としてのスペックに差がある。

 本来、こんなものは人間が挑んでいい相手じゃない。

 大人しく蹂躙されて食い散らかされるのが自然の摂理だ。


「……でもここでオレが勝てばエンペラーの面目丸つぶれだよなぁ! よぉし! とことん殺し合うぞ!」


 オレは命をかけてこいつを攻略してやる。

 これこそがオレが待っていた戦いであり、攻略し甲斐のある相手だ。

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