第33話 生徒会へのお誘い、もちろんお断りだ

 放課後、オレが廊下を歩いていると妙な気配がずっとついてくる。

 オレはあえて振り向かずに歩き続けた。

 それでも妙な気配はついてくるどころか、むしろ近づいてくる。


 徹底して無視しようと思ったがついに息がかかるほどの距離だ。

 オレは早歩きした後で急停止した。


「いぎゃん!」

「さっきから何の用だよ」


 リリーシャが止まった俺の背中に鼻をぶつけた。


「いきなり止まることないじゃない!」

「背後霊みたいなのが追跡してきたらそりゃ嫌がらせしたくなるわ。何の用だよ」

「別に。たまたま行先があなたと同じなだけよ」

「そうか。じゃあ問題ないな」


 オレはそのまま歩いて男子トイレに入った。

 釣られて入りそうになるリリーシャを見てクククと笑う。


「ちょ、ちょっ! いきなりなんてところに入ってんのよ!」

「男が男子トイレに入って何が悪いんだよ。ここが行先なんだろ?」

「バ、バカっ!」


 リリーシャが顔を赤くして走り去っていく。

 こんな感じでオレはあいつとの決闘以来、ずっとつきまとわれている。

 オレがあいつを適当に撒くかトラップへと誘って最後はルーシェルがあっかんべーをして見送るのが日課だ。


「あいつもしつこいですねー。どれだけ悔しかったんですかね」

「むふふ、かわいい女子じゃ。アルフィス、あやつはどうかの?」

「何がだよ」


 ヒヨリが意味ありげにオレに問いかけてくる。


「強者ならば女子の一人や二人をはべらせるのが世の常じゃ。英雄色を好むとも言うしの」

「下らない。そんなものにうつつを抜かしている暇があったらオレは訓練でもする」

「だそうじゃ、ルーシェル」


 ヒヨリがなぜかルーシェルに振っている。

 ルーシェルが頬を膨らませて地団太を踏んでいた。


                * * *


 翌日、オレは生徒会に呼び出された。

 特に何かした覚えはないんだが、もしかしてストーカー女のストーキングを振り切ったことか?

 いや、そんなわけないか。だけど男子トイレに誘導したのは割とアウトかもしれない。


「アルフィスだ」

「入れ」


 生徒会役員室に入ると上級生が雁首揃えてずらりと席に座っていた。

 テーブルにそれぞれ役職と名前が書かれているからわかりやすい。

 まるで秘密結社の会議室みたいな様相で、円形のテーブルの奥に三年生の会長と副会長が座っている。

 その左右に会計担当と書記、広報。手前に執行部のメンツだ。

 

「アルフィス、初めまして。僕が生徒会長のクライドだ。生徒会へようこそ」

「何か用か?」

「この錚々たる生徒会のメンバーを見て物怖じしないか。さすがはバルフォント家の人間だ」

「錚々たる、ねぇ」


 生徒会長クライド・イースバン。セイルランド学園三年生で公爵家の息子であり、現トップの実力者だ。

 イケメンで女性ファンが多く、同学年の半数以上の女生徒が惚れていると言われている。

 よくいる完璧男子ってやつだな。


 現時点で実力的にクライドと三年生以外は話にならない。

 二年生となると、あのデニーロと大差ない。

 というかあのデニーロも真面目にしていれば生徒会に入れるだけの実力はあった。


 この事実を踏まえて錚々たると言われても、あまり危機感がないんだよな。

 まぁクライド他、全員が一斉にかかってきてようやく危ないと思えるくらいか。

 現時点でどうやっても勝てないバルフォント家のヴァイド兄さんやミレイ姉ちゃんと比べたら、どうしても見劣りする。


「おい、さすがに余裕ぶっこきすぎなんじゃねえのか?」

「ガレオ、いいんだ。彼は特別だからね」

「クライド会長、こんなガキに舐められちゃ二年執行部のトップとしてメンツが立たねぇよ」

「ガレオ、話が進まない。黙っていてくれないか?」


 クライドがガレオを制して黙らせる。さすがの迫力だ。


「今日、君を呼んだのはそこにいるリリーシャの件だ。彼女の暴走を止めてくれてありがとう。このままだと彼女を除籍して停学を検討しなければいけなかった」

「礼を言われるほどじゃない。リリーシャは見込みがある奴だからな」


 オレがリリーシャをちらりと見ると露骨にぷいっと顔を逸らす。

 散々ストーカーしてたくせに。


「もう一つ、君をここに呼んだのは生徒会への勧誘のためさ。君は入学試験の成績上位にも関わらず、生徒会入りを拒んだそうだね。なぜだい?」

「興味がない。オレの人生において生徒会はまったく必要がない」


 オレがそこまで言い切ると二年執行部のガレオが机を叩いた。

 野生児を彷彿とさせるビジュアルで歯を剥き出しにして威嚇してくる。


「さっきから聞いてればよぉ……。上級生への口の利き方がなってねぇな」

「上級生だからって無条件に敬う必要があるのか? お前は一つでもオレが尊敬できるものを持っているのか?」

「いけしゃあしゃあとほざいてんじゃねぇぞッ! 下級生のザコがよ!」

「会長、こいつを黙らせてくれないか? 話が進まないし、こんなことが続くならもう帰るぞ」


 クライドがガレオをなだめて黙らせてくれた。

 それでもガレオは凶暴さを隠そうともせず、オレをロックオンしたままだ。


「君の成績を見させてもらったよ。入学試験の結果は総合三位、実技に至っては一位だ。これだけの実力があって生徒会入りを拒んだのは理由があるのかい?」

「オレの人生において必要がない。生徒会の在籍を見せつける必要のある相手もいないしな」

「そうか。君が入ってくれたら次期会長も視野に入れたんだけどな」


 冗談じゃない。たかが学園でお山の大将をやって何になる。

 そんなものはお勉強が得意な奴にやらせておけばいい。

 オレはお勉強が苦手というか、やる必要がないから座学試験は合格できる程度にやった。


 試験はゲームでは描写されていない部分だし、一般科目の問題は普通に難しい。

 ちなみに一位はリリーシャだ。一方でレティシアはあれでいてかなりおバカで、座学試験の成績はギリギリだったはず。


「君の生徒会入りは諦めるとして、それならせめてこちらからの依頼を引き受けてくれないか?」


 唐突な依頼だけど、たまにはこういうので経験値を稼げないとな。

 いつまでもザコばかり潰してもしょうがない。

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