第30話 また闇魔法をdisったな?

 リリーシャの体が炎に包まれてから次に姿を現すと、全身が赤く燃え上がっていた。

 炎の化身ともいうべきその姿をオレは知っている。

 これは――


「これこそ魔術真解……魔術師の到達点にして究極の姿よ!」


 魔術真解。魔術師が己の魔法の神髄を理解して至ることができる。

 その形態は様々だがリリーシャのように人外への変貌する者もいた。

 この状態になると魔力は数倍から数十倍に跳ね上がり、特殊な能力を持つようになる。


「魔術……真解……!」

「レティシア、下がってろ。今のリリーシャは危険だ」

「アルフィス様、魔術真解に至るなんて、リリーシャさんはやはり天才です」

「そうかもしれないが、あれはあまりよくないんだ。とにかくフィールドから出ろ」


 腑に落ちないレティシアをセーフティフィールドから追い出した。

 まるで体中がマグマになったかのような炎のリリーシャはオレを待ちわびたかのように笑う。


「アルフィス、どう? 小細工しかできないあなたとはレベルが違うとよくわかるでしょ?」

「そうだな。お前は天才だよ」

「ふふっ! あははははっ! その言葉が聞きたかったの!」

「嬉しいか?」

「えぇ! 生まれて初めて私に屈辱を与えたあなたを屈服させるのを楽しみにしていた!」


 身に余る魔力を宿したことによる魔力暴走の影響を受けているな。

 体中を膨大な魔力が駆け巡ることによって精神が増幅して気分が高揚しっぱなしになる。

 つまりメチャクチャ危険だ。

 

 リリーシャは何らかの原因で魔術真解に至ってしまった。

 これは魔術師にとって罠だ。

 自分を追い込む修行をした魔術師が限界を感じて真理を悟ってしまうことがある。


 自分はよくがんばった。

 だから報われていいはずだ。

 極度の疲労とストレスからの逃げで自分の限界を決めてしまう。


 そこで自分の魔法の限界を決め打ちしてしまう魔術真解の完成だ。

 今のリリーシャはこれが究極の到達点だと思い込んでいる。

 まったくバカな奴だ。


 何が危険かって、自分で限界を決め打ちしてしまったからこれ以上の成長が望めない点だ。

 リリーシャが魔術師としての限界がここと思い込んでいるので、このままじゃ一生成長しない。

 要するに魔術真解はもろ刃の剣でもある。

 パーシファム家の現当主のブランムドがこのことを知らないはずがないんだがな。


「ねぇアルフィス、この前はよくもやってくれたわね。セーフティフィールド内だけど、あなただけはたっぷり痛めつけてあげる」

「お前はそんなもんで満足してしまったか」

「私は魔術真解に至った。つまり魔術師として魔法を極めたも同然なの」

「やれやれ、困ったお嬢様だ」


 オレは魔剣を抜いた。

 正直に言って魔術真解のおかげで魔力だけならオレより高い。

 が、それだけで勝負が決まるほど戦いは単純じゃないんだよ。


「その減らず口もここまでね! 死になさい!」


 リリーシャの両手が炎に変形してそれが扇状に広がる。

 リリーシャ自身が炎となることで無限の攻撃パターンを生み出しているわけか。


「ダークスモッグ改めブラインド」


 闇魔法ブラインドは単純に暗闇に包む。

 ダークスモッグと違って範囲が広く、効く相手も多いはずだが――


「あははははっ! なにそれ!」

「チッ、やっぱり耐性持ちかよ」


 このように強敵の中には効かない相手も多い。

 こいつ、確か暗闇耐性があまりなかったはずなんだけど魔術真解で耐性が底上げされているおかげだ。

 そう、これはリリーシャであってリリーシャとは思わないほうがいい。

 お次は魔力強化をした上で魔剣でリリーシャに斬り込んだ。


「遅いッ!」


 リリーシャがオレを上回る速度で攻撃を回避した。

 反撃の炎をかろうじて魔剣で防いだものの、背後から爆炎が迫る。


「終わりよッ! エクスプロージョンッ!」

「シャドウエントリ」


 爆炎に次ぐ爆炎、更にリリーシャ自身が炎となってフィールド全体を制圧しているから逃げ場がない。

 まともにくらったらさすがに死ねるな。

 逃げ場があるとしたらリリーシャの影だ。


「消えた……!?」

「ダークニードルッ!」


 真下からダークニードルを放ってリリーシャにかすらせた。

 だけどほとんどのダークニードルは炎化されてかわされてしまう。

 これが今のリリーシャの能力だ。


 炎化している時はダメージが無効化されてしまう。

 魔剣の闇で飲み込んでも消せるのは一部の炎のみだ。

 やるなら人型の時しかない。


「いったいわねぇ……! 闇なんて陰湿な魔法なんか使っちゃって!」

「いつかのチンピラと同じようなこと言うな」


 余裕を見せてはいるけど、何せこの熱だ。

 熱さでやられる前に決着をつけないとな。

 

「だったらもう一度! エクスプロージョンッ!」

「上位魔法の連発はえぐいな……」


 正面の爆発を魔剣で一閃して闇の中に葬った。

 左右と後ろに関しては――


「ブラックホール」


 オレの周囲に出現した黒い穴が爆発を掃除機みたいに吸い取っていく。

 が、局所的なものでしかないから完全に防ぐことはできない。

 爆発によるヒットは確実にオレにダメージを与えていた。


「ふーん、闇魔法ってなかなか小細工が多いのね。でも高威力の撃ち合いとなると分が悪いみたいね」

「何事にも得意と不得意はあるからな」

「炎属性は単純ながら威力だけは全属性一よ。速さなら雷、防御なら地、変則性なら風や水。闇は……今一、地味ね。お父様も闇魔法はあまり評価していない」

「マジかよ。ブランムドも見る目がないな。それはたぶん本当に恐ろしい闇魔法を見たことがないからじゃないか?」

「……なんですってぇ?」


 赤い体で赤い顔をしてリリーシャが露骨にキレた。

 オレは意地悪く笑う。

 内心では破壊の波動の力を使おうと思ったけど、どう考えてもそれほどの相手じゃない。

 そこにいるのはただ魔力に酔いしれている未熟者だ。


「なぁ、お嬢様。闇って何をイメージする?」

「暗い、地味。それ以外に何が?」

「魔法ってのはイメージ力がものをいう節がある。炎をただの炎、水をただの水と捉えていたらそれまでだ。闇といっても視点を変えれば色々あるのさ」

「だったら見せてみなさいよッ! エクスプロージョン!」


 またリリーシャがひたすら大爆発を起こしまくった。

 轟音に次ぐ轟音で観戦している生徒達が悲鳴を上げている。


「いない……またシャドウエントリね! 芸がないわ! 出てくるところは決まっているのよ!」

「ダークニードル」

「ほらっ!」


 リリーシャが影から出てきたダークニードルをあっさりと回避する。

 が、そこから出てきたのはオレであってオレじゃない。


「え……なに? 黒い……人間?」


 全身が漆黒に染まった影人間がそこに立っていた。

 オレ自身も出てきて、影人間と並んでリリーシャの前に立つ。

 ここから少しだけ本気を出してやろうか。

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