第21話 担任教師から頼られている?
「リリーシャの件、礼を言う」
放課後、職員室に呼び出されたオレはリンリンの前に立っていた。
何を指導されるかと思いきや意外だったな。
「礼を言われるようなことはしてませんが」
「いや、本来であれば私がもっと時間をかけて指導すべきだったのだ。彼女は才能が突出しすぎている分、危うさもあった」
「オレに負けてめちゃくちゃ泣いてましたからね」
「そう、彼女は早いうちに挫折を経験するべきだ。遅くなればなるほどプライドが肥大化して、いざ困難に直面した時に立ち直れなくなるからな」
オレとしては別にリリーシャの将来のことを考えていたわけじゃない。
あのイベントが胸糞だったから介入したかっただけだ。
結果的にリリーシャにとってプラスになるのなら、リンリンとしては構わないってところだろう。
「まぁでもあいつの立場を考えたら、わからなくもないですけどね。家では厳しく躾けられて、洗脳みたいな教育をされてたみたいですから」
「ほう、詳しいな」
「噂ですよ、噂。パーシファム家自体、二番手だとか言われているのが癪みたいですよ」
「そのパーシファム家の令嬢を圧倒するとはさすがバルフォント家の息子だな」
リンリンがからかうように口元だけで笑う。
バルフォント家は放任主義ですから、と言いたかった。
「君ほどの人間が学園で何を学ぼうというのだ?」
「いや、オレなんてまだまだ未熟ですよ」
「君の実力は学生の域を完全に超えている。まず局所的な魔力強化、魔術師の中でもあれをこなせる人間はあまりいない。もう一つは魔法の回避、特にフレアの爆発をかいくぐったのは私ですら言葉を失ったよ」
「オレもそれなりに上を目指していますからね」
のらりくらりとかわしているけど、リンリンとしては興味津々ってところか。
実のところ、オレはバルフォント家としての使命だとか教育なんてどうでもいい。
自分が強くなってこの世界を攻略することしか考えていないからな。
だから今の段階ですらこの学園の生徒、それも一年くらい圧倒できなきゃ話にならない。
ヴァイド兄さんやミレイ姉ちゃんが在籍していた頃は一年生の時点で三年生が手も足も出なかった。
あのギリウムでさえ一年生の番長を張って最終的に学園のトップに君臨した。
バルフォント家の中で抜きんでるためには優秀程度じゃダメだ。
今のリリーシャくらい魔力強化のみで倒せて当然といったところだな。
「自己紹介戦の時、君は生徒を値踏みするように見ていたな。気になる生徒でもいたか?」
「レティシアですね。親しいと思っていたリリーシャから先制攻撃を受けてもあれだけ応戦できました。普通の奴なら開幕で負けてますよ」
「他は?」
「……これから次第ですね」
一瞬だけエスティのことが頭によぎったけど言わないでおこう。
今の時点ではオレの妄想かもしれないし、彼女を持ち上げる理由がない。
それとさすがにルーシェルを推す勇気はなかった。身内贔屓はちょっとな。
「なるほどな」
「リンリン先生から見て期待できそうな生徒は?」
「レティシア、リリーシャ……それとルーシェル。特にルーシェルはおそらくクラスで君の次に強いだろう」
「口は悪いですけどね」
人のことは言えないが、と心の中で付け足した。
あいつの入学金はすべてオレが出している。
オレの手元から離れると何をするかわからない危なっかしさがあるのと、単純に色々と学んでほしいからだ。
そう、今のルーシェルは強いとは言ってもまだまだ未熟だ。
裏ボスとして君臨していた時の強さには遠く及ばない。
そしてオレがその裏ボスを超えなければ攻略したとは言わない。
つまりルーシェルもオレにとっては攻略対象でしかなかった。
が、あの様子だととてもオレと戦いそうにないな。
まさかここまでなつかれるとは思わなかった。
「色々と話を聞けてよかった。たぶんクラス内で君が一番話が合うから、これからも相談役になってほしい」
「オレが? 先生の?」
「まだ新人教師だからな。学べるものがあるなら生徒だろうと学ぶ必要がある」
「貪欲ですね。そういうの好きです」
「君だって目的があるのだろう?」
いきなり核心をついてくるな。
新人教師とは言っても宮廷魔術師時代に不正を行った同僚を次々と告発して辞めさせている。
そんな熱意があるからオレみたいなのも気になるのかもしれない。
「目的?」
「バルフォント家として何を成すつもりだ?」
「その質問は気軽にしちゃいけませんよ、先生。わかってるでしょう?」
「……脅しか?」
オレは毅然とした態度を崩さずにリンリンに言う。
バルフォント家はあくまで影の支配者、噂にはなっても明らかになってはいけない。
その線引きをしっかりとさせてもらう。
「オレ個人への追及とバルフォント家への追及はまるで意味が違います。ここから先は言わなくても理解しているでしょう」
「私が屈するとでも?」
「好きにしてください。ただオレがバルフォント家として答えるわけにはいきません」
「ふむ、生徒相手に熱くなる話でもないな」
うまい具合に引いてくれたか。
この人は嫌いじゃないし、願わくば正義感が暴走して近づきすぎないでほしい。
この人が強かろうとバルフォント家が少しその気になれば痕跡すら残さずに簡単に消せるからな。
リンリンが不正を暴いた宮廷魔術師達は全員が行方不明になっているはずだ。
誰一人として逃げのびて幸せになんかなってない。
バルフォント家にかかれば国内でどうにかできない人間なんか存在しない。
「時間をとらせてしまったな」
「いえ、楽しい時間でした」
「そう言ってもらえるとありがたい。ではまた明日な」
リンリンと別れて職員室内を見渡すと、教員達が一斉に目を逸らした。
バルフォント家の息子とあって興味津々ってところか。
今の会話を聞いていたなら決して深追いはしないだろうと思いながらオレは職員室を後にした。
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