第20話 貴族と平民の違い

 オレとリリーシャの対戦の後、生徒同士がそれぞれぶつかり合った。

 見ていて思ったのはこの対戦の組み合わせ、一見してデタラメのように見えるけどそうじゃない。

 一つの基準は実力が近い者同士、もう一つが精神的な一面が垣間見えそうな者同士が戦っている。


 例えばレティシアとリリーシャはオレの見立てが正しければ実力自体はそう離れていない。

 リンリンは姫と二大貴族という近しい関係を見抜いた上で、その本質を見抜いていた。

 結果は予想通り、レティシアとリリーシャそれぞれの関係が浮き彫りになる。


 誤算があるとすればリリーシャが圧倒しすぎた点か。

 これがもう少し接戦になればリリーシャはレティシアを認めただろう。


「おっそい! おっそい!」

「クソッ!」


 今はルーシェルとケイザーとかいう生徒の戦いだ。

 ケイザーは平民の中で比べれば筋は悪くない。

 ただ相手が悪かったな。


 ルーシェルがあんな性格なものだから、ああいう熱くなりやすい性格の奴は手玉に取られやすい。

 リンリンがそこまで見抜いていたのかは不明だが、いい組み合わせだと思う。

 ちなみにここでは翼を出すなと命じてあるから、今のルーシェルは素でケイザーを翻弄している。

 結果的にケイザーを散々疲れさせたルーシェルが勝利した。


「わーい! アルフィス様! 褒めてくださいっ!」

「よくやって。よしよし」

「えへへ、もっと撫でてくださいー」

「よーしよしよしよし」


 当たり前だけど他のクラスメイトがめっちゃ見てくる。

 オレとルーシェルの関係は他から見ても奇異に映るだろう。

 レティシアが至近距離でガン見してくるくらいにはおかしい。


「……アルフィス様とルーシェルさんはどのようなご関係なんですか?」

「主と従者だ」

「そ、そうなのですか。ということはお付き合いなさっているわけではないのですね?」

「そういうことになるな」


 レティシアがオレに背を向けてガッツポーズをしたのを見逃さなかった。

 まさかアルフィスに惚れたのか?

 お前、ゲームだとめちゃくちゃアルフィスを敵視していたんだが。

 おかげで死亡フラグは立たずに済みそうだけど、これはこれでおかしな方向へ行きそうだ。


「ファイアボールッ!」

「うわっ!」


 気がつけば試合が進んでいた。

 貴族と平民の戦いか。ハッキリ言って貴族と平民じゃ雲泥の差がある。

 身分差別するわけじゃない。


 もちろん血筋による才能もあるが、何より環境が違いすぎる。

 剣術にしても魔法にしても平民と比べて貴族が持つ知識とは比べようもないほど差がある。

 それに加えて徹底した教育や訓練環境があるから、元々強い奴が更に強くなるようにできていた。


 例えるなら一流のアスリートが更にいい環境でトレーニングするようなものだ。

 対して平民はどうしても独学になってしまうから、基本すらできていない人間も珍しくない。

 そこで戦っている平民の女の子なんか魔法もろくに使えないし剣術もひどいものだ。


「しぶといな!」

「ひいえぇぇ~~~!」


 いや、意外と粘るな。というか紙一重で回避している。

 あの女の子の名前はエスティ、ゲームでは名前すら登場しなかったモブだな。

 それによく見れば敵を目で追っている。


 オレはエスティの動きに違和感を持った。

 対戦相手の攻撃はエスティの技量で見極められるものじゃない。

 それにも関わらず、目で追っている。何を追っている?


「なかなか決着がつきませんね。逃げ足だけは早いなぁ」

「あのエスティ、もしかしたら波動が見えているのかもな」

「へ!? ま、まさかぁ……。じゃあ対戦相手の奴が波動を使っているんですか?」

「波動というのは魔力と同じく無意識に出ている。あらゆる動作の際に揺らめいて、それをよく見れば攻撃を先読みできる」


 あのエスティが波動という概念を認識しているかとなればたぶんNoだ。

 本人も無意識で行っているに違いない。


「そこまでだ! 引き分けとする!」

「な、なんだと! まだ終わってないだろう!」

「もう五分も経っている。次も控えているから二人とも、下がれ」

「クソッ……!」


 エスティの対戦相手はデイルとかいう伯爵家の息子だな。

 門の近くでレティシアにアプローチしていた奴だ。

 剣を床に叩きつけて感情を抑えきれていない。

 気持ちはわかるが物に当たってもしょうがないぞ。


「クソッ……平民のカスが。覚えてろよ」


 予想通り、物騒なことを呟いたな。

 ううむ、やっぱりあのイベントがくるか。

 まぁそれは後々のことだから今はどうでもいい。


「ん? ルーシェル、そういえばリリーシャはどこへ行った?」

「だいぶ前に訓練場の外に出ていきましたよ」

「一応授業中だろうに……まぁそのうち戻って来るだろう。リンリン先生にたっぷり絞られるかもしれん」

「アルフィス様にけちょんけちょんにやられましたからねー。いい薬になったんじゃないですか?」


 引き続き試合が続いて30分ほどで全員分が終わった。

 結局リリーシャは戻ってこなかったな。

 リンリンは気づいているだろうが、あえてスルーして総括を語ることにしたようだ。


「ご苦労だった。今の戦いで皆がどういう人間か大体わかった。言っておくが現時点での実力がすべてではない。全員が見所のある生徒なので三年間、しっかりと学ぶようにな」

「先生! もう一度だけそこの女と戦わせてくれ!」

「デイルか。決闘はきちんとした手続きを踏んで両者合意の下で行うことになっている」

「伯爵家の息子のオレが舐められっぱなしじゃ納得いかないんだよ!」

「くどい」


 リンリンの体から突き刺すような魔力が放たれた。

 元宮廷魔術師の魔力を直に受けたデイルは体を硬直させてしまう。


「う、ううぅ……」

「私は手ぬるい指導はあまり好きではない。そんなに戦いたいなら私が相手をしよう」

「い、いや、すみません、でした……」

「わかればよろしい」


 いやぁ、怖い怖い。

 元とはいえ宮廷魔術師といえば国の最高戦力だからな。

 それぞれが単独でドラゴンを初めとした最強種の討伐実績を持つ化け物集団だ。

 生徒相手に大人げないぜ、リンリン先生。


「では自己紹介はこれで終わりとしよう。次からはそれぞれの科目別での授業が始まるので気を引き締めるように」

「「「「はいっ!」」」」


 デイルのおかげで生徒達が一気に引き締まったな。

 怒らせてはいけない相手を瞬時に見抜いたわけだ。


「それとアルフィス。放課後、職員室に来るように。話がある」

「はい」


 まさかリンリンからの誘いがあるとはね。

 はてさて、何を言われることやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る