第22話 学園の秩序を守る生徒会執行部

「そこまで、生徒会執行部よ」


 私、リリーシャが見つけたのは学園内にハマキを持ち込んでいる生徒だった。

 生徒会執行部は学園内の秩序を守るための機関であり、教師の次に強い権限を与えられている。

 これは誰でもなれるものじゃない。


 一年生の場合、入学試験の成績が上位5位以内であること。

 貴族か平民かは関係ない。

 完全実力主義の下で結成されている。


 パーシファム家として生徒会に入らないのはありえない。

 国の秩序と平和を守るのは私達パーシファム家の役目であり、学園内も例外じゃない。

 お父様やお母様もきっと褒めてくれる。


 一方であのアルフィスは上位の成績をおさめながら、生徒会には入らなかったみたい。

 貴族達の間ではバルフォント家こそが王国の秩序を守っているなんて噂されているけど、どうもガセだとわかった。

 本当にそんな大層な役割を担っているなら、生徒会に入らない手はない。

 しょせんバルフォント家といってもその程度ということだ。


 あのアルフィスの顔を思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る。

 私はイライラをぶつけるようにして、校則違反をした男子生徒を追い詰めていた。


「み、見逃してくれよ。もう二度と持ち込まないからさ」

「ペナルティポイント加点1。3点以上で一定期間の停学で5点になれば退学よ。あなたはすでに2点ね。入学早々いい根性してるわ」

「親父にバレたら家を追い出されてしまう。な? 俺は将来の当主なんだ」

「貴族の身分でありながら保身に走る……。腐ってるわね」


 私の発言が癪に障ったのか、男子生徒が睨む。


「なんだよ……アルフィスに負けて泣きべそかいてたくせに……」

「……なんですって?」

「お前、知らないのか? 一年の間で有名だぜ。パーシファム家のお嬢様、バルフォント家の息子との対決に敗れるってな」

「……へぇ」


 私の中で何かが切れた。

 魔力強化した拳を男子生徒の顔にかすらせる。

 頬が少し切れて血がにじみ出ていた。


「ひっ! な、何をするんだよ!」

「誰が敗れたって? じゃあ、あなたは私に勝てるの?」

「誰もそんなことは……いでぇぇ! は、離してくれぇ! いでででぇ!」


 男子生徒の肩を掴んで力を入れる。

 もう少し力を入れたら骨だって砕けるほどだ。

 この魔力強化の練度からしても、私があのアルフィスに劣る理由がわからない。


 アルフィスのあれも同じ魔力強化のはず。

 それをあのアルフィスは――


――よく練り上げられた魔力だけど少し無駄が多いな。

――力み過ぎて火球がでかくなりすぎだ。


「ふ、ふっざけんじゃ……」


――まるでパーシファム家の重圧みたいだ


「ないわよッ!」

「ぎゃああぁーーー!」


 力を籠めると男子生徒の肩に指が食い込んだ。

 絶叫した男子生徒が転げまわっている。


「いだいいだいだいぃ! パパァーーー!」

「……フン」


 私は彼を放置してこの場を離れた。

 生徒会執行部は多少の実力行使なら許されている。

 ましてやこんな名前も聞いたことがない下級貴族の男になんて誰も同情なんてしない。


「アルフィス・バルフォント……あなただけは絶対に許せない」


 私の中で闘志の炎がメラメラと燃え上がっていた。


            * * *


「アルフィス様。一年生が生徒会執行部に怪我をさせられたみたいですよ」

「そうなのか?」


 昼食時、ルーシェルが作った五重の塔みたいな手作り弁当を食べていた。

 これ食いきれるのかと不安になりながら、オレはその話に大して興味を持てずにいる。

 どこかのモブが怪我をしたところでオレには何の影響もない。


「その生徒会執行部というのがあのリリーシャなんですよ」

「あいつが生徒会執行部か。ピッタリだな」

「いや、アルフィス様。いいんですか? アルフィス様の仕事が奪われてるんですよ」

「別に問題ない。たかが校則違反した奴をどうこうする気はないからな」


 ルーシェルは勘違いしているが、オレは無理にでも仕事をするつもりはない。

 目につかなければそれでよし。楽ができるだけだ。

 雑草刈りをしてくれる分にはむしろありがたい。


「あのリリーシャ、だいぶはっちゃけてるみたいですねぇ。この前も一年生10人相手に決闘をして全員ノしたみたいです」

「そりゃすごい。決闘の戦績も成績として考慮されるから、ぜひがんばってくれってところだ」

「そうなんですか?」

「成績優秀なら来年の生徒会に入るチャンスが巡ってくる。それに国内の望む各機関への推薦状も書いてもらえたはずだ」


 いわゆる就職に有利ってやつだ。

 より取り見取りの貴族とは違って平民ならぜひ狙いたいってところだろう。

 とはいっても現実はそう甘くない。


 好成績者の大半は貴族が占めているから、平民が入る枠はほぼない。

 それでも毎年のように何かしらの夢を持って入学してくる人間が後を絶たないのが、この学園のすごいところだ。

 

「というかお前、なかなかの情報通だな」

「そりゃーアルフィス様の側近として情報は常に仕入れてますよ」

「お前、なかなか優秀だな」

「えーへへー」


 おっと、あまり褒めると五重の塔の弁当が一つ増えるかもしれない。

 これだって最初は二段くらいしかなかったからな。


「ところでレティシアがいないな」

「ここ最近は第二訓練場にいるみたいですよ。リリーシャに負けたのがよっぽど悔しかったみたいですね」

「偉い、偉い。じゃあ食い終わったら見に行ってやるか」


 五重の塔弁当を急いで食べて処理してからオレ達は訓練場へ向かった。

 ところが何人か訓練している生徒がいるだけで、レティシアの姿がない。


「入れ違いか?」

「そうかもしれませんね」


 仕方ないので第二訓練場を出るとちょうどレティシアの後ろ姿が見えた。

 声をかけようと思ったが、その表情がかなり険しい。

 このオレでさえ一瞬でもゾッとしたほどだ。


「レティシアの奴、あんな顔をしてどこへ行くんだ?」

「またリリーシャに何かされたんですかね?」


 それだけならいいが、あいつがそんなしょうもないことで怒るとは思えない。

 何せ正義の主人公だからな。

 オレは興味本位でレティシアの後を追った。

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